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第五章
不思議な記憶
しおりを挟む神王像が壊されていたのを見たあの日から、毎晩ある夢を見るようになっていた。
全体がぼやけていてよくわからないが、人型のシルエットが話し掛けてくるのだ。
“久しぶり”、“抜き身”、“危ないよ”…やはり所々しか聞き取れない繰り返される声。
何となく、これは私の記憶ではないかと理解している自分が不思議でたまらない。
“久しぶり”という事は、あの人型シルエットは会った事がある人なのだろう。“抜き身”…はよく分からない。刀か何かの事だろうか?? 一番気になるのは“危ない”だ。
あれは私に向かって発した言葉のように思える。という事は、私に危険が迫っていた…?
「ミヤビ、ただいま…どうした?」
今日もあの夢を見るのだろうかとうんざりしながら、就寝の為部屋に入れば暫くしてドアがノックされロードが入室してきたのだ。
どんなに忙しくても毎日必ず、少しの時間だけだが帰って来て顔を見せてくれる彼は、自分の方が疲れているだろうに、人の顔を見るなり心配そうに声を掛けてきた。
「ロード、お帰りなさい」
ベッドに寝転んで睡眠導入の為に推理小説を読んでいる所だったので本を閉じ起き上がれば、ロードがベッドの端に腰かけて頬を撫でてきた。
どうもしないよ? と微笑み、(精神的に)疲れが出ている彼の回復を願う。
一瞬驚いたようだったが、すぐ嬉しそうにありがとうな、とお礼の気持ちを伝えてくれたので頷いたのだ。
「聖女や世界会議の事で忙しいんでしょ。こうして私に会う為の時間も作るのが難しいんじゃないの? 無理しなくていいからきちんと休んでね」
「無理なんてしてねぇよ。俺ぁミヤビに会えねぇ方が死んじまう」
それに神になってから疲れ知らずだから気にすんな。あ、癒してくれんのはすげぇ嬉しいから、今度は別の癒しもお願いしたいんだが? と鼻の下を伸ばしながら私を膝の上に乗せるので呆れてものも言えない。
「まったく…」
ーー…おいっ ※※※※※!!……っ、そっちは、ーー…
突如出てきた記憶に会話が途切れた。
「ミヤビ?」
「…そっちは…?」
“そっちは”の後が気になる。何だか肝心な事が全然思い出せないのはモヤモヤする。一体この記憶は何なんだろう。
「やっぱり顔色もあまり良くねぇし、何かあったんじゃねぇのか?」
変な記憶に意識を持っていかれていたが、ロードの声にハッとして首を横に振った。
「何もないよ。最近不思議な夢をよく見る位で他は日がな一日家でゴロゴロしてるし」
「不思議な夢って、前言ってたやつか?」
「ううん。それとは違う夢かな。
夢だから覚えてないのか、誰かが何かを言ってるのに顔どころか人型だろうっていうシルエットしか分からないし、声も途切れ途切れで…最近それを繰り返し見てるんだよね」
心配性なのできちんと説明しておくと、俺がそばに居れねぇから寂しくてんな夢見てんのか? と考え出したので何をバカな事をと白々しい目で見遣る。
やっぱり今夜は傍に居てやらねぇとな等と一人で納得して布団の中に私と共に入り出すので、私のベッドは狭いから出て行けと追い出したのだ。
バカな事をしてないで仮眠を取って欲しいと思うのだが、無言で私を抱き上げ自分の部屋に連れ込もうとするのは止めてほしい。
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