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第五章
答え
しおりを挟むこんにちは…? はおかしいか。昼過ぎから始まったパーティーは終盤にさしかかりすでに日が沈みかけている。ならこんばんは? いや、これも適切ではない気がする。どうも~などと声を掛けるのは怪しすぎやしないだろうか。
認識阻害魔法を解いたにもかかわらず、お嬢様に何と声を掛けたら良いのか分からず佇んでいると、息を飲むような微かな音が耳に届き顔を上げた。
「っ…貴女は…」
結局お嬢様から声を掛けてもらったが、どうも~しか思い浮かばなくなった自身ヘッポコ脳が恨めしく、黙ったまま笑うしかなかったのだ。
「確か“あの服屋”の…」
え? どうしてここにいるの? と瞳をまん丸にしたその顔はふっくらとした頬っぺたと合わさって可愛らしい。
「お嬢様にちょっと聞きたい事があって来ました」
ヘラリと笑えば、聞きたい事? とコテンと首を傾げる。それ以上頭を傾けるとコロコロと転がってしまいそうな所がまた可愛らしいお嬢様だ。
「あの日、お嬢様はウチの服が欲しいと来店されましたよね」
「え、ええ。そうよ」
私の質問に素直に頷くお嬢様に話を続ける。
「何故、ウチの服が欲しいと思われたのですか?」
「それは…」
お嬢様が答えようとした刹那、会場からキャーッという悲鳴が上がり、お嬢様も私も何だ!? と身を構えたのだが、招待客も子爵も誰一人扉から出て来る気配はない。
ざわついている声がしていたが、徐々に収まってきているようで廊下側は静かなものだ。
「な、何があったのかしら?」
怖いのか私のドレスを掴んで震えているお嬢様に、誰も出てこないし、誰かがドレスに飲み物でもこぼしたのだろうと宥めていると、バターンッと大きな音をたてて私達の居る側の廊下に続く扉が開いたのだ。
「きゃっ」
音に驚いたお嬢様が私の後ろに隠れる。
開いた扉を見ると、そこから出てきたのは大男……
「こんの…っバカヤローが!!」
ロードだった。
「ろろろろろ、ロードォォ!? どうしてここに!?」
「嫌な予感がして指輪の位置を調べりゃ家に居るってんで、一旦様子を見に帰りゃもぬけの殻だ。そりゃここしかねぇと思うだろうが!!」
激怒しているロードの後ろから、苦笑いしているカルロさんとトモコが出て来て、中の人達になにやら言ってから扉を閉めている。
「っとにテメェは…ッんな格好他の奴に見せてんじゃねぇよ!!」
あっという間に引き寄せられてバサッと布っぽい何かを頭から被せられたのだ。そして抱き込まれる。
「ちょ、待って!! まだお嬢様に質問の答えを聞けてないっ」
「あ゛?」
「ヒィッ」
チンピラのような「あ゛?」に悲鳴を上げたのはお嬢様だ。どうやら怒ったロードが相当怖いらしい。
確かにあの顔じゃあ子供は腰を抜かすか逃げていくだろう。大人だってそうなんだから。
成る程、さっきの会場からの悲鳴はそれか。
「お嬢様、どうしてウチの服が欲しかったのか教えて!」
被せられた布を取りながら聞けば、お嬢様は涙目でロードをチラチラ見ながら震えてお話にならない。ロードに離れていて欲しいと言おうものなら般若と化してしまうだろう。
どうにかしなければと考えていれば、カルロさんが手を差し伸べてくれたのだ。
「ロード、ミヤビ殿はベルーナ嬢に聞きたい事があるようだよ。君もつがいならミヤビ殿のそんなささやかな願いを叶えてあげたいと思うだろう?」
「っそりゃそうだが」
「だったら叶えてあげればいいじゃないか」
簡単な話だよとカルロさんはニコリと微笑む。それに頬を染めているのはお嬢様で、ロードへの恐怖より憧れの人の笑顔を目の前で見れた事が勝ったのだろう。
一方のロードは、ムッツリとした顔で私とお嬢様を見て黙ってしまったのでそのままお嬢様にさっきの質問の答えを聞いたのだ。
「私は…聖女になりたくなんてなかったから」
そう、お嬢様は答えた。
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