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第五章
チャンス到来!
しおりを挟む沸き起こる歓声と拍手に、この世界の人々の中で聖女の存在がいかに大きいものかを知る。
もしかしたら、聖女=精霊位の認識なのかもしれない。
よく見ればこのホールにカラフルな祭服を着ている人達が数人居るようだ。あれは教会関係者ではないだろうか。
キョロキョロしていると、トモコとカルロさんがこちらへとやって来たので声を掛ける。
「ダンスはどうだった?」
「足を踏む失敗はしなかったよ~でもヒップホップとは全然動きが違ったや~」
それはそうだろう。ヒップホップとワルツを一緒にしたらダメだ。
「なかなか斬新な踊りでね。素敵だったよ」
ニコニコ笑うカルロさんだが、斬新な踊りとは何だと聞くのが怖くなった。
「しかしベルーナ殿が“聖女”だったとはね…教会の権威がこれ以上増す事は避けたいんだが…」
カルロさんの呟きに、教会は力を持ち過ぎているのかもしれない現状に気付く。つまり、“聖女”という新たな“象徴”を手に入れた教会の“力”は更に増すわけで、“国”に口出ししてしてくる事も有り得るのだ。
もしかしたらすでにそんな状況なのかもしれないが。
「みーちゃんがパーティーに潜入する位気になってたのは、彼女が“聖女”だったからなのかもね」
「え?」
トモコの言葉に小首を傾げれば、だって“聖魔法”の適正があるだけでは聖女や聖人とは言わないんだよ。
神々と波長の合う人間が聖女だったり聖人って言われるの。もしくは巫女とかね。あの子はそういった意味では本物の“聖女”みたいだし、だからみーちゃんも気になっちゃったのかも。と続けるので愕然とした。
「私があの子に惹かれてたって事?」
「えー違うよ~。惹かれてたっていうか、例えは悪いけど…普段なら気にもならない道端の小石がたまに目に付く事があるでしょ? そんな感じ?」
それが私達からすれば聖女とか聖人かなぁ。と話すので口の端が引きつった。
例え女の子であっても、惹かれたとか言ってたらロードさんにお仕置きされちゃうよ~という言葉は聞かなかった事にする。
「神々からしたら聖女という存在はそんな程度なんだね」
人間は教会の象徴のように大々的にまつりあげる存在だというのに。と苦笑いしているカルロさんにトモコは、人間と神の感覚の差ってやつですね~とよく分からない言葉を掛けていた。
パーティーも終盤に迎えると、お嬢様も諦めているのか聖女と分かった途端にすり寄りだした大人達を笑顔で相手し始めている。まだ12歳になったばかりだというのに、貴族というのも大変だと他人事のように思っていれば、お嬢様がお付きの人と共に会場から離れたのだ。
「トモコ、カルロさん。お嬢様が会場から出たから追いかけてくるね」
そう言い置き私も会場から出た。チャンス到来である。
従者は例によって例のごとく、お店に来たあの失礼な態度の男だった。男もまたカラフルな祭服を着用している事から教会関係者である事が分かる。
「ベルーナ様、貴女は“聖女”様なのですよ。もう少し屹然とした態度でーー…」
なる程。彼は従者ではなくマネージャー的な役割の人なのかと、2人の会話に耳をすませているとお嬢様と目が合ったのだ。
おや? 認識阻害魔法をかけているはずだがと首を捻っていると、お嬢様も同じように首を傾げている。
「ベルーナ様、どうかされたのですか?」
従者…ではなく教会関係者の男が訝しげな顔でこちらを振り向く。しかし見えていないのか何もありませんがと眉をしかめたのだ。
「…何もないわよね…??」
成る程、認識阻害は効いているが違和感があると。これが“聖女”の力というやつなのだろうか。
「そんな事よりも、パーティーが終わり次第教会へと移動していただきますのでーー…」
自分の言いたい事だけ言って、お嬢様を置いて会場へ戻って行った男に呆れた目を送りつつもラッキーだと思う。
私は誰も居ない事を確認してから認識阻害魔法を解いたのだ。
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