310 / 587
第五章
聖女
しおりを挟むえ? 私はダンスを踊らないのかって?
踊るわけないだろう。ダンスなどリズム感の欠片もない私がやってみろ。盛大に転けるか相手の足を踏む末路しか思い浮かばない。
トモコは昔からヒップホップから盆踊りまでダンスは得意だったから、カルロさんがリードしてくれるなら大丈夫かもしれないが。
それに、私にはパートナーがいないからダンスはしなくてもいいのだ。そう、ぼっちなのだ。
お嬢様と直接話したくてこのパーティーに参加したのはいいが、本日の主役はファーストダンスが終わっても招待客からのお祝いの挨拶で1人になる気配すらない。
このままでは壁の華として終わってしまう。せっかく来たのにそれでは困るのだ。
さっきからタイミングを見計らう為にお嬢様を観察しているのだが招待客の挨拶は途切れる事はない。
勿論“神王の力”を使えばすぐに解決する事だが、人間としてあのお嬢様に出会ったのだから人間として接するべきではないかと、私なりに考えているのだ。
楽団が音楽を奏で続けている中、年若い男女かホールで楽しそうに踊っているのを視界の端に捉えながらお嬢様の動向を気にする。
しかし子爵とは貴族の中での地位はそんなに高くないはずなのだが、公爵家や侯爵家の人と繋がりがあるんだなぁとそんな事を思いながら周りを観察している。
カルロさんはヘルナンデス子爵家というよりは、先代で嫁いだ豪商ムーア家の方との面識があるらしく招待されたのだとか。恐らくルーベンスさんの奥様もそうなのだろう。
“豪商”という位なので手広く商売もしているだろうし、勿論貴族との繋がりも深いのかもしれない。
公爵家や侯爵家の面々はムーア家繋がりなのだろうかと憶測していると、ヘルナンデス子爵に動きがあった。
「さて皆様、本日は娘の12歳誕生パーティーですが重大な発表を併せてさせていただきたく存じます」
ヘルナンデス子爵の言葉に招待客がざわつきだす。
お嬢様は諦めたような表情で父親を見つめ、俯いたのだ。
「皆様がご存知の通り、貴族は12歳になると皆魔力の適性検査を行います」
へぇ知らなかったなぁ。とヘルナンデス子爵の演説に耳を傾ける。
どうやら12歳で魔力量が安定するらしく王都の教会で検査をするようなのだが実はこれ、魔素の枯渇が大々的に知られだした100年以上前から行っておらず、 最近復活したのだとか。
「そこで娘は、“聖魔法”の適性があると認められたのです!!」
子爵の言葉にざわめきが大きくなる。
“聖魔法”とは一体なんだろうかと首を傾げていると、近くに居た貴族が、“聖魔法”についての知識を披露してくれたので盗み聞きしたのだ。
なんでも“聖魔法”とは光魔法の一種で、癒しの力や浄化の力に特化しているらしく、“聖魔法”の適性がある者は動植物や精霊等に好かれやすいのだそう。神に加護を貰っている者の中には“聖魔法”に適性がある者が多いとの事だ。
「娘はこれから“聖女”として教会へ参ります!! そして神にお仕えする誉れある一生を迎えることとなります!」
“聖女”…って、ファンタジーによく出てくるあの? 勇者とかと一緒に行動したりする?
「なんと名誉な事でしょう!!」「神のお側に上がれるとはっ」「まさかルマンド王国から“聖女様”が!?」等と招待客側から感嘆の声が上がっている。
しかし当の本人は嫌がっているようにしか見えない。
もしかして、ウチの服を着てパーティーに出たら聖女にならなくてもよくなる! とか思ってたのだろうか。
確かに恋愛成就の他にプチ幸運がやってくるような噂もあったが…。
ロードから聞いた教会の話では良いイメージはないし、“神に御使いする誉れある一生”と言う位だ。結婚せず、教会に閉じ込められるということなのかもしれない。
11
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる