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第五章

聖女

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え? 私はダンスを踊らないのかって?
踊るわけないだろう。ダンスなどリズム感の欠片もない私がやってみろ。盛大に転けるか相手の足を踏む末路しか思い浮かばない。

トモコは昔からヒップホップから盆踊りまでダンスは得意だったから、カルロさんがリードしてくれるなら大丈夫かもしれないが。
それに、私にはパートナーがいないからダンスはしなくてもいいのだ。そう、ぼっちなのだ。


お嬢様と直接話したくてこのパーティーに参加したのはいいが、本日の主役はファーストダンスが終わっても招待客からのお祝いの挨拶で1人になる気配すらない。
このままでは壁の華として終わってしまう。せっかく来たのにそれでは困るのだ。

さっきからタイミングを見計らう為にお嬢様を観察しているのだが招待客の挨拶は途切れる事はない。
勿論“神王の力”を使えばすぐに解決する事だが、人間としてあのお嬢様に出会ったのだから人間として接するべきではないかと、私なりに考えているのだ。

楽団が音楽を奏で続けている中、年若い男女かホールで楽しそうに踊っているのを視界の端に捉えながらお嬢様の動向を気にする。


しかし子爵とは貴族の中での地位はそんなに高くないはずなのだが、公爵家や侯爵家の人と繋がりがあるんだなぁとそんな事を思いながら周りを観察している。
カルロさんはヘルナンデス子爵家というよりは、先代で嫁いだ豪商ムーア家の方との面識があるらしく招待されたのだとか。恐らくルーベンスさんの奥様もそうなのだろう。
“豪商”という位なので手広く商売もしているだろうし、勿論貴族との繋がりも深いのかもしれない。

公爵家や侯爵家の面々はムーア家繋がりなのだろうかと憶測していると、ヘルナンデス子爵に動きがあった。

「さて皆様、本日は娘の12歳誕生パーティーですが重大な発表を併せてさせていただきたく存じます」

ヘルナンデス子爵の言葉に招待客がざわつきだす。
お嬢様は諦めたような表情で父親を見つめ、俯いたのだ。 

「皆様がご存知の通り、貴族は12歳になると皆魔力の適性検査を行います」

へぇ知らなかったなぁ。とヘルナンデス子爵の演説に耳を傾ける。
どうやら12歳で魔力量が安定するらしく王都の教会で検査をするようなのだが実はこれ、魔素の枯渇が大々的に知られだした100年以上前から行っておらず、  最近復活したのだとか。

「そこで娘は、“聖魔法”の適性があると認められたのです!!」

子爵の言葉にざわめきが大きくなる。
“聖魔法”とは一体なんだろうかと首を傾げていると、近くに居た貴族が、“聖魔法”についての知識を披露してくれたので盗み聞きしたのだ。

なんでも“聖魔法”とは光魔法の一種で、癒しの力や浄化の力に特化しているらしく、“聖魔法”の適性がある者は動植物や精霊等に好かれやすいのだそう。神に加護を貰っている者の中には“聖魔法”に適性がある者が多いとの事だ。

「娘はこれから“聖女”として教会へ参ります!! そして神にお仕えする誉れある一生を迎えることとなります!」

“聖女”…って、ファンタジーによく出てくるあの? 勇者とかと一緒に行動したりする?

「なんと名誉な事でしょう!!」「神のお側に上がれるとはっ」「まさかルマンド王国から“聖女様”が!?」等と招待客側から感嘆の声が上がっている。
しかし当の本人は嫌がっているようにしか見えない。
もしかして、ウチの服を着てパーティーに出たら聖女にならなくてもよくなる! とか思ってたのだろうか。
確かに恋愛成就の他にプチ幸運がやってくるような噂もあったが…。

ロードから聞いた教会の話では良いイメージはないし、“神に御使いする誉れある一生”と言う位だ。結婚せず、教会に閉じ込められるということなのかもしれない。
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