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第五章
ファーストダンス
しおりを挟むトモコをパートナーとして馬車を降りたカルロさんに視線が集まる。
当然だ。女神のような美しさを持つトモコ(本物の女神だが)と、美男子なカルロさん(元王様)の組み合わせは目を引く。
その後ろをこそこそと歩く私は計算通り誰にも気付かれていない。
広い玄関ホールを抜けると、ざわざわと沢山の人々の話し声や音楽などが耳に届いた。
今まではダンスが主なこの世界のパーティーだったが、食糧難が解消された為か、別室に軽食やお菓子が用意されているらしい。とはいえ、パーティー会場はやはりダンスが主である。
「先ずは主催者…今回でいえばヘルナンデス子爵のご息女と、招待客の中で最も位の高い者がファーストダンスを踊るんだよ」
と教えてくれるカルロさんだが、この人の位も高いのではないかと考えていると“私は2番目”かな。と人の考えを読んだように笑ったのだ。
「招待客の中で一番位の高い人は誰なんですか?」
「そうだね…最後に会場入りする公爵家の方なんだけど、もうそろそろ到着するんじゃないかな」
公爵家…。
カルロさん曰くルマンド王国では彼は公爵家の次に位の高い侯爵の地位に在るらしい。因みにルーベンスさんは公爵だそうだ。とはいえ、ここ100年の間に地位を上げていった新興貴族だそうで、公爵家の中でも歴史は浅いらしい。
公爵の地位に就くのは王族の血筋らしく、王様の兄弟が公爵の地位に就いたり、娘がお嫁入りしたりと王族に連なる家系のようだ。
今回はその公爵家の中でも先々代の時にその娘さんがお嫁入りしたという公爵位の人が来ているらしい。
カルロさんにそんな説明を受けていれば、到着したのか最後の一組である公爵家らしき人達が入ってきたのだ。
見た目は20代前半位の青年だ。
そしてパートナーは…青年にそっくりの15、6の少女であった。兄妹であろうか。
2人は赤に近い濃いピンクの髪色をしており、成る程王族の血筋だと納得する。ルマンド王国の現王はピンクの髪なのだから。
今までカルロさんとトモコに集中していた視線がその兄妹に注がれた。
確かに公爵家の兄妹も整ったお顔していて注目されるのも無理はないのだろう。
「ファーストダンスを踊っている最中、パートナーはどうするんですか?」
「自由にしていて構わないよ。ダンス自体はそんなに長くはないからね。友人とお喋りしている者が大体かな」
成る程。これでぼっちだったりしたらすぐ軽食のある別室へダッシュだな。
「ただし、人族の場合はつがいの見つかってない相手とのみファーストダンスが出来るんだ。ほら、つがいが居ると殺生沙汰になってしまうから…」
ああ…まぁ自分のつがいが他の人とダンスなんてしていたらとんでもないだろう。
ロードなんて怒り狂って屋敷ごと破壊してしまいそうだ。とおかしな想像をしていれば、主催者の挨拶が始まったのだ。
本日は我が娘、“ベルーナ”の誕生日パーティーにいらして下さり誠に~…と喋っているのがヘルナンデス子爵である。
そしてその横に先日よりもキラキラしく、一回り膨れ上がったフリルの球体…お嬢様が何となく沈んだ顔で立っていた。
「ミヤビ殿の言っていたように、自分の誕生日パーティーにしてはベルーナ殿の元気が無いように見えるね」
カルロさんにも浮かない表情に見えたのか、そう言って思案顔になった。
「例えば婚約者を勝手に決められたとか、そういった話はないんですか?」
「いや、ヘルナンデス子爵家は人族だからね。それはあり得ない」
成る程、やはり恋愛面での悩みではなさそうだ。
それなら恋愛成就のドレスを頼む必要はないだろうに…。
「トモコ、ミヤビ殿、ファーストダンスが始まるようだよ」
カルロさんの声に前を向けば、ホールの真ん中へと手を取り合って進んでいく公爵家の青年とお嬢様の姿が見えた。
中央で向かい合った二人は、奏で始めた音楽と共に踊り出す。
テレビで社交ダンスを見た事はあったが、実際のパーティー会場で見ると圧倒される。
競技用のダンスではないのでスピード感はないが、とにかく優雅だ。
「トモコはカルロさんがパートナーだから踊らないといけないよね」
社交ダンスした事ないでしょ。大丈夫? とこそこそトモコへ話し掛けていると、
「大丈夫だよ~。ダンスは得意だもん」
そんな風に返してきたのでヒップホップダンスじゃないからね!? と念押ししたが、ここへ来てカルロさんとのダンスでヒップホップ踊りだしたらどうしようという不安要素が追加されたのだ。
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