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第五章
三角座りで黄昏てみよう
しおりを挟む「どうしたんだい? こんな所でうずくまって?」
王宮の庭に面した廊下の、大きな柱の影で三角座りをしている私を見つけたカルロさんは、優しく微笑みながら声を掛けて来た。
「…ちょっと黄昏てるだけです」
「黄昏…」
私の答えにキョトンとした彼は、その後フワリと微笑んでよいしょと言いながら隣に三角座りしてきたのだ。
「…何やってるんですか?」
「いや、私もちょっと黄昏てみようと思って」
ニコリとイケメンスマイルをされて鳥肌がたったが、不思議と嫌な気はしなかった。変な人だとは思ったがそれはお互い様なので何も言うまい。
三角座りをしたまま膝に顔を埋めるようにしていれば、カルロさんがポツリとこぼした。
「ミヤビ殿は、逃げ出したいと思うような事があるかい?」
「…しょっちゅうです」
むしろ逃げ出して今ここに居ますとはさすがに言えないが。
「そうかい。私もしょっちゅうだよ」
ハハッと爽やかな笑い声だが、元々魔族の国の王様だった人だ。本当は笑えない位しんどいのだろうと思う。
「立ち向かってもしんどいし、逃げ出しても結局はしんどい。どっちもしんどいよね」
「…しんどいと感じてるなら、それは逃げ出してなんてないからですよ。本当に逃げ出したなら何も感じません」
カルロさんを見る事もなく呟いたが、彼はそこから何も喋る事なくただじっと隣に座っていた。
何の会話もないまま二人三角座りをして時を過ごしている。端から見るとコイツら何しているんだと引かれそうである。
「…精霊様でも人間のように悩んだりするんだね」
暫くしてカルロさんがポツリと溢した言葉に目を閉じたまま答える。
本当は答えるつもりもなかったし、カルロさんも返ってくるとは思わなかっただろうが、口が勝手に動いたのだから仕方ないだろう。
「人間は神を模して創られたものだって知ってるかな? だからね、人間のモデルになった神だって、それから生まれた精霊だって、悩む事もあるし悲しんだり泣いたり、怒ったり笑ったりもするんだよ。勿論失敗だって」
「神も…」
カルロさんは、そうか…神も悩みを持ち、失敗もするのかと何やら納得していて、それから少しだけ安堵したような雰囲気が伝わってきたのだ。
「ありがとうミヤビ殿。こうして黄昏て、ミヤビ殿の話を聞いていたら少しすっきりしたような気がするよ」
立ち上がり私にそのアイドルのようなスマイルを見せると、お礼を言われた。
何だか良い人だなぁと思いながら見ていると、そろそろ行かないと怒られてしまうから、残念だけど戻るよと立ち去ろうとしたので見送っていたのだが、ハッとして呼び止めたのだ。
「カルロさん!!」
「? どうしたんだい」
振り返ったカルロさんに、私は言ったのだ。
「あの…っ」
◇◇◇
王都の貴族街の一角にある大きなお屋敷の前に馬車が横付けされ、きらびやかなドレスを来た淑女や正装に身を包んだ紳士達が降りてくる。
「おおっ映画の中の世界だ…っ」
「ミヤビ殿、窓から身を乗り出しては危ないよ」
まるで映画のような光景を目にしながら窓の外を見ていると、中世ヨーロッパで男性が着ていた正装(ロココ調のコート、ベスト、半ズボンに白いタイツというあの組み合わせ)の半ズボンではないパンツにブーツを合わせたような格好をしたカルロさんに注意され、窓から離れた。
「ごめんなさい。つい興味深くて…」
馬車の中、向かいに座っているカルロさんに謝れば彼は微笑みながら、服屋をしているミヤビ殿達から見れば、様々なデザインのドレスは見所があるかもしれないねと言って私達を見たのだ。
「みーちゃんは馬車や馬にも興味があるよね~」
「トモコだってそうでしょう」
そう、私達は今カルロさんの馬車に乗ってヘルナンデス子爵のお嬢様の誕生日パーティーにやって来たのである。
私の隣に座っているトモコは、青と白のプリンセスラインのドレスを着ており女神とはかくやあらんといった風体だ。
反対に私はというと、皆が着てそうな色と形のドレスを着て、目立たないように影の薄くなる魔法をかけている。これで顔を覚えられる心配もないし、声を掛けられる事もないだろう。
まぁ魔法が無くても目立ちはしないだろうが念の為である。
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