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第五章

神と人との関係

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「…それで、ミヤビ殿はヘルナンデス子爵の息女の何が気になったというのだね」

やはりというか何というか、ルーベンスさんはいつものようにアフタヌーンティーの仕度をしてからそう切り出した。いや、いつもその時間に押し掛けているのは私だけどね。

「…お嬢様がウチの店にやって来て、ドレスを仕立てるようお願いされたのですがお断りしたんです。ただその時、本当に困ったような悲しんでいるような顔をしていたのがどうも気になって…」
「オメェそんな事昨日は言ってなかっただろうが」

私を膝の間に座らせて後ろから抱きしめ、唇を尖らせているロードは完全に拗ねていた。

「あれ? 言ってなかったっけ?」

話したと思ったんだけどゴメンねと謝ると、宰相じゃなくて俺に相談しろよと言ってくるのでハイハイと頷いておく。

「成る程。それで君はヘルナンデス子爵の息女をどうしたいのかね」
「どうしたいかと言われると…様子が見たいとしか言えないんですけど」

ルーベンスさんの言葉に考えてみるが、今は何をするとは即答出来なかった。何故ならお嬢様の憂いの原因がわからないのだ。ただひとつ言えるのは、あれは恋愛で悩んでいるような顔ではなかったという事だろう。

「それはパーティーに参加せねば解決出来ないのかね?」
「うーん…あの様子だと、そのパーティーで何かがあるのではないかと思うんです」 
「ふむ…確か第1第2の師団長にも招待状は送られているのだったか?」

ルーベンスさんは私の話を聞いて、突然ロードに招待状の話を振ったのだ。

「ああ。まさか師団長全員が参加するわけにゃいかねぇからな。俺ぁ断ったぜ」
「ふむ…私にも招待状は来ているが…」

何やら思案している様子のルーベンスさんに首を傾げてロードに聞いた。

「何で師団長全員で参加したらダメなの?」
「ん? あ~。神程じゃないが、俺達もそれなりの地位に居るからな。王族じゃあるまいし、師団長が全員参加なんてすりゃ調子に乗るだろが」

成る程、パワーバランスを考えての事か。
よくわからないが、子爵位は貴族の中でも下の方に位置していた気がする。一番偉いのは王族で、その次が公爵だっけ?

「色々あるんだね」
「色々あんだよ。だからオメェは迂闊に動いてくれるなよ。頼むから」

頼まれたが、目についたものは気になるのが性なのだ。

「ロード」
「ぅぐ…んな可愛くおねだりされてもダメなもんはダメだ」

ただ名前を呼んだだけでおねだりしたと思われたらしい。一体どんな目をしているんだ。このおっさんは。

「ミヤビ殿、貴女がパーティーに出席する方法ならばいくつかあるのだが…」

流石ルーベンスさん。いくつもあるのかと素直に感心していると、ロードの機嫌が低下していく。

「一つはヘルナンデス子爵の息女に直接願い出る方法だ。これは仕立て屋として彼女のドレスを作る際にパーティーへの参加を条件にすれば難しくはないだろう。しかし、それをすれば今後は貴族のドレス作りが主な仕事となるだろう」

それは嫌だ。ドレスを作るのは構わないが、そんな事になれば庶民向けの服屋が出来なくなる上貴族と面識を持つことになる。面倒事の匂いしかしない。

「もう一つは、招待客に混じっての参加だ。例えば第2師団長のパートナーとして出席「ふざけんなよ!! ミヤビは俺のつがいだ!!」まぁ無理そうだがな」

ロードが激怒しちゃう…すでに激怒しちゃってるのでそれはちょっと…。

「ならば私の妻の同行者として出席する事も出来るが…」

成る程。女性ならば良いかもしれない。

「デメリットとしては、他の貴族と面識が出来る。ミヤビ殿も、私達からしても、あまりおすすめは出来ない方法だな」

ルーベンスさんの話に頷けば、3つ目の方法だが…と続けるのでゴクリと唾を飲み込んだ。

「パーティーといえば裏方の人手が必要だ。その時に臨時で人を雇うのが通例なのだがね。それに潜り込むという手がある」

それだ!! それなら貴族との関わりも最小限で済むし、顔を覚えられる心配もない(多分)。さらに裏方なので屋敷内をうろつけるではないかっ素晴らしい!!

「無理だろ。ミヤビはこう見えて料理も出来ねぇし勘取りも悪ぃからメイドにゃ全く向かねぇ。しかも貴族の常識どころか一般常識も知らねぇんだ。そんな奴が潜り込んでも悪目立ちしかしねぇよ」

ロードのボロクソな言いように反論出来ない自分の不甲斐なさが恨めしい。
どうせ私は勘も良くないし常識もないし料理も出来ない社会不適合者ですよーだ!! とロードの脛をゲシゲシ蹴るがびくともしない。

「オメェは薬作ったり服作ったり、そういった物作りが得意な職人だからなぁ」

そ、そうかな? 職人って照れるなぁ~。

「最後の提案は、“神王の力”を使う方法だ。これが一番安全で確実。さらに最もおすすめだが最もおすすめではない」
「え? ルーベンスさんそれどっち?」
「分からんかね? 神王様が人間に関わるべきではない。という事なのだがね」

結局ルーベンスさんも反対派だった。
確かに神が人間に関わるのは良くない事かもしれないけど、地球の神だって一部の人に奇跡を起こしたりしてるじゃないか。それなら別に神王わたしだってそういう事しても良い気がするんだけどな…。

ルーベンスさんの部屋から出て王宮の隅でウジウジしていれば、

「おや? ミヤビ殿じゃないか」

カルロさんが通りかかり声を掛けてきたのだ。
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