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第四章
離したら2倍になって返ってくる
しおりを挟む『ミヤビ様、お耳に入れておきたい事が一つ…』
たった今精霊から情報が入りましたと、ヴェリウスが声をかけてきた。
ヴェリウスの精霊が未だにどういう姿をしているのか知らないが、この部屋に私達以外の姿がないという事は念話があったのだろうか。
『リンがフォルプローム国の王子であるという事が、第1師団長を勤めている竜人の男の耳に入ったようで、拘束されたと…』
「リンが!? 何で拘束されるの!?」
ロードを振り返り聞けば、そういやぁレンメイの野郎バイリンとフォルプロームについて調べていたな…などと呑気にのたまうので呆れた。
「とにかく、手荒な真似は駄目だと思うけど!?」
「仮にも王子だぜぇ? 手荒な真似はしねぇだろ」
落ち着き払った様子に、もしかして予測していたのか? と疑いの眼差しで見つめる。
「可愛すぎるからそんなに見つめんなよ」
デレッと表情を崩し頬擦りしてくるが、剃り残しなのか時間が経って生えてきたのか髭がやすりのようにジャリジャリして痛い。
「レンメイもムキになってたからなぁ…自分なりに情報を集めてたのかもしれねぇが、まさかリンがフォルプローム国の王子だった事を嗅ぎ付けるとはな~」
軽い。自分の部下が拘束されたというのにこの軽さ。
「自分の部下が拘束されたんだよ!? 抗議しに行かないとっ」
「いや、今城の外に出すのは危険だ。レンメイが調べて分かったぐれぇなら、フォルプローム国もリンの事を知っちまったはずだしな。それならレンメイに拘束されてこの城に居る方が安全だろ」
ま、アイツもそう思って拘束したんだろうがな。とあのロードがまともな事を言っているので度肝を抜かれた。
しかし一つ分からない事がある。
「リンが危険って、フォルプローム国に何で狙われてるの?」
リンは王子と言ってももう一般人として育ってきているし、本人も自身が王子という事を知らないわけだ。なのに今更リンが王子だからといって狙われるという事に結びつかない。
「あのな、いくら本人が一般人だと思っていても王子という事実に変わりはねぇだろ」
ロードの言葉に頷けば、今回神域侵攻を指示した馬鹿はフォルプローム国の中枢に巣くっているのは間違いない。ソイツが王子の存在を知ったとしてそばにおいておけば、何かあった時に責任を押し付ける事が出来るだろう。と説明してくれるので成る程、とうんうん首を縦に振る。
それに、と一旦言葉を切るとうんざりしたような顔でもって私を抱き締めた。
「そういう奴にゃあ反抗勢力が必ず居る」
生き残りの王族とは馬鹿共に狙われるもんなんだよと教えてくれたロードの頭を撫でた。
『リンには眷属の一人を付けますのでご安心下さい。それよりミヤビ様、今回の事の発端は貴女様の軽はずみな行動からだという事をお忘れではありませんか?』
ヴェリウスの周りの温度が下がった気がした。
マズイ。これはお説教ママモードのヴェリウスだ。
「アハハ。みーちゃん観念しないとね~」
人(神)の不幸を笑うトモコを恨めしく見れば、一緒に居れば問題しか起こさんので研修を理由に離せば、結局問題を起こされる始末…しかも両方で。2倍になるなど聞いていないとブツブツ言い出したヴェリウスに、トモコも問題起こしたんだ…と初めて知ったのである。
申し訳ないとは思うが後悔はしていない。ちょっと後始末にルマンド王国を巻き込んでしまったが、ルーベンスさんも怒ってはなさそうだし? と心の中で言い訳を並べてみる。
ルーベンスさんといえば、さっきから随分静かだな。と彼に視線を移せば、こちらを凝視されていた。青白い顔で。
「…ルーベンスさん? 体調が悪いんですか?」
言えば皆がルーベンスさんに注目するわけで…しかし彼は口をハクハクさせたが言葉が出てこないのか何も聞こえない。
「ッ…」
「ルーベンスさん?」
もう一度名前を呼べば、絞り出したような声で恐る恐る言ったのだ。
「ミヤビ殿、は…“神王様”なのかね…?」
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