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第四章
女性は噂話が大好きだ
しおりを挟むさて、私が考えた販促とは“口コミ”だ。
どこの世も女性とはお喋りが大好きである。特にケータイどころか電話もない、手紙すら満足に出せないそんな世界でお喋り好きの女性がする事と言えば“井戸端会議”だろう。
奇しくも“チラシ”のおかげで紙が話題に挙がっている今、それを配った私達のお店の噂を流したとしても不自然ではないはずだ。
「というわけで、これから皆には王都へ散らばってもらいこのお店の良い噂を流してもらいます。ただし、1グループが噂を流すのは1回限りでお願いします!!」
今回は珍獣の女性陣にお願いして手伝ってもらう事にした。
なぜ噂を流すのは1回に限定したかというと、“口コミ”というのは1度の噂で十分拡がるのだ。あまりやりすぎると、逆に怪しまれてしまう。
なので今回3グループを貴族街以外に配置して1度だけ噂を流してもらう事にしたわけだ。
ちなみに私とトモコはこのグループには加わらない。
店員が噂を流していたとなるとそれこそ問題だろう。
さぁ、この口コミ作戦。果たして成功するのか否か。
とはいえ、口コミなどすぐに結果が出るものでもないので、その間私達がする事といえば獣人用の服作りだったりする。
尻尾の大きさは個人差があるので、アジャスターで調整できるようにした。最初はスナップボタンという案もあったが、どうしても隙間が出来てしまうので断念したのだ。
「うん、なかなか良いかも」
「この生地のフレアスカートならアジャスターの部分も上手く隠れるし、可愛いよ」
そう、アジャスターの問題は薄い生地やスカートだと、付けた時にその部分が悪目立ちする事だ。
オートクチュールならその人のサイズに合わせられるがウチは既製品のお店。サイズ調整の出来るアジャスターが必要不可欠である。
なので今回は、少し厚手で柄のある生地を使用しフレアスカートを作ってみたのだ。
多少厚みのある生地の方がアジャスターも表面に響きにくい上、柄がある事で縫い目も目立ちにくい。さらにフレアにする事で生地同士の自然な重なりを生み出し益々縫い目を目立ちにくくさせる効果と、厚手の生地を軽く見せる効果が生まれるのだ。
「パンツだとアジャスターの表部分にポイント持ってきても可愛いかも!! あっ薄い生地でスカート作ってリボン持ってきても隠せるし、それも作ってみよ!!」
トモコの何かを刺激したらしく、次々デザインを描いていくのでこちらも慌てて生地を選びに行く。
そうして出来上がった獣人用の服は、人族用と獣人族用が混ざらないよう分けてディスプレイし、獣人族用のトルソーも作ってウィンドウへと飾る。
獣人族用のトルソーは何も着せてなければなかなかにシュールだと気付いたその日、数日前に来てくれたあの3人組の女の子達がやって来たのだ。
「こんにちは~」
やはり恐る恐る入ってきた3人組ではあったが、今回は扉を開け放っていた事もあり入り易そうではあった。
「「いらっしゃいませ~」」
にっこり挨拶をし、すかさずトモコが「あ、この間の~! また来てくれたんですね~」と人好きする笑顔で声を掛けて警戒を解く。さすがだ。
「あ、あのっこの間買ったワンピース、すっごく着やすくて! 評判も良かったんです!!」
頬を赤く染めてトモコにそう報告する女の子と、トモコはそれはもう嬉しいそうに話している。
他の2人も「私達も今日こそは服を買いたくて!!」と気合いを入れていて微笑ましい。
それぞれ手に取って服を見始めたが、1人が獣人族用のコーナーで足を止め目を見開いた。
「ケイト! このスカートお尻に穴が空いてるよ!!」
その声にケイトと呼ばれた子はえぇ!? と驚き駆け寄ったのだ。
「そっちは獣人族用の服ですから、尻尾用の穴を空けてるんですよ~」
トモコがそう説明すると、「ウソッ嬉しい!!」とケイトと呼ばれた子は涙目になって喜んでいる。
「あれ? もしかしてケイトちゃんは獣人族~?」
「は、はいっそうなんです!! 獣人族用の服って古着ではなかなかなくって、皆自分で穴を空けてるんですけど私は裁縫が苦手で…」
成る程、オートクチュールじゃないものは自分で穴を空けているのかとカウンターでトモコとケイトちゃんの話を聞きながら納得する。
「だから尻尾を出さなくても良いようなスカートばかりで…本当はズボンも履きたいし、色んな服を着てみたかったんですっ」
確かにふんわりと広がったスカートを履いている。Aラインの服を着ている女の子が多いので流行りかと思っていたが、もしかしたらケイトちゃんのように裁縫が苦手な獣人もいたのかもしれない。
それなら男性はも大変では? と思ったが、男性の方はパンツが主なので穴空きタイプのものも古着屋で手に入りやすいそうだ。
「あ、これ穴の大きさが調整出来るようになってる!?」
「ケイト着てみなよ!!」
嬉しそうなその様子に表情筋が緩む。
あんなに喜んじゃってまぁ。
トモコと目が合い互いに頷く。“作って良かったね”と目で会話しながら。
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