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第四章
ご来店!!
しおりを挟むチラシを配った翌日、10時の鐘が鳴って昨日と同じように店の札をオープンに変えていると、やはりお隣のトリミーさんもお店の扉を開けていた。
「トリミーさんおはようございます。あっ昨日買っていただいた服着て下さってるんですね!」
「おはようミヤビちゃん! この服とっても着心地が良いよ! 動きやすいしシンプルなのに柄は凝っていてお洒落だし、旦那にも綺麗になったって褒められたんだよ!!」
顔を赤くして嬉しい感想を教えてくれるトリミーさん。
「旦那さん? 冒険者の?」
「そうだよ。昨日の夜に帰って来てね。今はまだ寝てるんだけど、寝坊助で困るよ。まったく」
と照れ笑いをするトリミーさんは乙女である。
旦那さんが久しぶりに帰って来て嬉しいのだろう。
「あはは。ウチは私の方が寝坊助ですからね~。朝はお見送りもしませんよ」
「そりゃ当然だよ。ただでさえミヤビちゃんと師団長様じゃ身体の大きさも全然違うし、相当負担になるはずだよ。人族の妻ってのは皆旦那を見送ったりはしないもんさ」
等と言われるので小首を傾げれば、
「夜が激しいからね~」
と言われ顔から火が出るかと思った。
「そ、そそそ、ぅええ~!?」
「おやおや、可愛い反応だねぇ。ウチも旦那が人族だから気持ちは分かるよ。特に私らの旦那は体力がものをいう職業だしねぇ」
「ぅああ…っ」
「フフッまぁ何かあったら何でも相談するんだよ!!」
なんて言ってトリミーさんは上機嫌に自分のお店へと入って行ったのだ。
え? これなんてイジメ?
動揺しながら店内へと戻ったら、トモコからみーちゃん顔赤いけどどうしたの? と言われ、ぎゃああぁと叫んだら頭がおかしくなったと勘違いされてドン引きされた。
お前それでも心友か?
さて、店の客入りだが小説のように昨日チラシを配ったからといってすぐに効果が出るわけではないらしい。
やはり昨日と同じで人通りのない道を、ガラスを通して暫く眺める。
「…やっぱりお客様来ないね~」
「現実はそんなに甘くないんだよ…それより、こんなに暇ならトモコは服のデザイン考えられるし、私も作れるんだから、今の内にストック増やしとこう!!」
「そうだよねっ」
前向きに考えないと! とトモコはカウンターでデザイン案を描き始めた。
「昨日チラシ配りながら思ったんだけどね~尻尾はえてる人が結構いたんだよね~」
暫くして、トモコがポツリポツリと語り出す。
「人族と同じ位獣人も沢山いたし、獣人用の既製服作れないかなぁ~」
「尻尾用の穴かぁ~…それぞれ大きさが違うからなぁファスナーで調整するのも、長い毛が巻き込まれたら危ないし……スナップボタンで調整すれば…「ここじゃない? 貰ったやつに書いてあった服屋っ」「そうかも~…でも高そうじゃない? 古着じゃなさそうだし…」「これには高くても5000ジット位って書いてあるわよ?」」
突如外から女の子達の声が聞こえて顔を上げれば、3人組の20代女子が配ったチラシを持って店を伺っていたのだ。
「トモコっお客様が来た!」
「う、うんっ」
まずは警戒心を解かなければならない。
やはり扉は開け放っていた方が入り易かったかもしれないと今更ながらに後悔する。
しかし今時女子は勇気を出して入ってきてくれたのだ。
「こ、こんにちは~。お邪魔しま~す」
恐る恐る入ってきた女の子達を大きな声で怖がらせないように、「いらっしゃいませ~」と優しく声を掛ける。
しかし3人はそれにビクッとしてまるで野良猫のように固まった。
目線の先にはトモコが居る。
あー…見たことない綺麗なお店に入ったら女神のような美人が居るとなると、そりゃ固まるよな~。
「こんにちは~。どうぞお手に取ってご覧くださいね~」
トモコは自分の美貌に恐れをなしているとは気付いていないのか、フランクに声を掛けている。
それに益々ビクつく女の子達が可哀想になってきた。
「あ、あのっ こ、これに描いてあるワンピースが見たくて!」
真っ赤になりながら一人の女の子がチラシを顔の前にかざして言った。
「あ、はい。このワンピースですね~」
と移動するトモコを女の子達と共に目で追う。
トモコは掛けてあるワンピースを色違いのものも一緒に女の子達の目の前に持って行き、「良かったら鏡の前で合わせて見て下さいね~」とにこやかに笑った。
女の子達は真っ赤になりながらもワンピースを手に取ると、
「うわぁ~可愛い~っ」
あっという間に服の虜となった。
「私もっほ、他にも見せてもらっていいですか!?」
「勿論ですよ~。お好きな服をご自由にお手に取ってご覧下さい~」
トモコが言うやいなや、女の子達はキャッキャとはしゃぎながら狭い店内をぐるぐると回り服を広げたり、身体にあてたりし始めたのだ。
やっぱり服屋さんはこうでなくっちゃね!!
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