250 / 587
第四章
いつの間にか年明け
しおりを挟む魔素が再び世界に満ちてから半年以上。
私がこの世界に来てから3年が過ぎていた。
この世界も地球と同じ1年365日という周期で回っているようで、つい数時間前に年を越したらしい。
なぜ“らしい”なのか。
それは、私がその話をさっき聞かされたからだ。
この世界の年越しは、年末に皆がそれぞれ信仰する神を祀る教会に祈りに行き、年明けにも教会へ祈りに行くという日本スタイルに近い。唯一違うのは、祈りに行った教会で神の“存在”を身近に感じるという事か。
どうやらヴェリウスだけでなくトモコまでもが忙しくしていた原因がここにある。
実はこの世界の神々は、年末年始は自身を祀る教会へと赴き祈る人々に祝福を与えて回るらしい。祝福といってもラッキー度がほんの少し一時だけ上昇する位のものらしいが、魔素が満ちた事により大昔からの習慣だった神々の仕事が出来るようになったんだとか。
なので年末年始の10日間程は神々も忙しく、未だその真っ只中であった。
「ロードは教会行かないの?」
「そりゃどっちの意味でだ」
二人しかいない深淵の森でロードのご飯を食べながら他愛もない話をする。
日本でいう元旦だけお休みを貰ったロードは、昨日の夜からさっきまで寝室にこもっていた。私を道連れにして。
そんな事もありお昼を大きく回った今、お昼ご飯を食べているというわけだ。
「うーん、どっちも?」
「適当だなぁ…ま、俺ぁ新米神だから、人間にゃ誰にも知られてねぇだろ。それに神王のつがい神だから祀られてもオメェとセットだろうし、教会に出向く必要はねぇかもな。後、俺が信仰してんのは“神王様”だから教会に行く必要はねぇんだよ」
ロードはニヤニヤ笑いながら膝の上の私を抱き締めた。
「じゃあ私はロードを祝福しないといけないのかな?」
「ばーか、俺ぁ十分オメェから幸せをもらってっからいいんだよ」
あっっッまぁぁぁぁぁい!!!!
◇◇◇
元旦は甘過ぎるロードに砂糖漬けにされたが、翌日の今日は仕事に行ってしまった旦那様を見送り、知り合いの所へ挨拶回りに行く事にする。
お土産は、ロードの作ってくれた一口大のきな粉餅、あんこ餅、ずんだ餅である。後は緑茶と準備は完璧だ。
まずはルーベンスさんの所にお邪魔する事にした。
いつも通り王宮の執務室に転移すれば、やはりワーカーホリック気味のルーベンスさんはお仕事中である。
「明けましておめでとうございまーす!!」
「……あけ?? それは一体何の挨拶だね? 何がおめでたい??」
お正月の挨拶は通じなかったらしい。
「ルーベンスさん年明け早々にお仕事ですか? 王都のお店も明日まではお休みなのに」
「王宮まで働かなくなれば誰が国を回していくというのだね。王宮は通常と変わらん」
「へぇ。あ、今年明けの挨拶に回ってまして、これお土産です」
と風呂敷に入れた重箱を掲げればルーベンスさんの目が光った。
「ふむ、年明けの挨拶とは感心だな。そろそろ休憩しようと思っていた所だ。お茶をいれよう」
いそいそと立ち上がるので「お茶も珍しいのを持ってきたんですよ~」と茶器と茶葉をいつもの机へ並べれば、興味を持ったようにやって来た。
「見た事がない茶器だな」
覗き込んでくるルーベンスさんに「珍しいでしょ」と笑いながらお湯も持参したものを出してお茶をいれていく。水は大事なのだ。緑茶には軟水が合い、口当たりもよくなる。
じっとその様子を見つめている姿は子供のようだ。
「緑とは、なかなか美しいな」
いれ終えた緑茶をルーベンスさんの前に置けば、まず見た目を楽しみ、香りを楽しんでから少し表情をゆるめて口に含む。分かってらっしゃると頷きながら見ていると、
「…紅茶よりも香りは主張せず、飲みやすい…甘味もある。口当たりも良く味わい深い茶だ」
「緑茶って言うんですけど、紅茶と同じ茶葉で作られているんですよ」
お重を開けながら私の浅い緑茶知識を披露する。
「同じ茶葉で色も風味もこれ程変わるとはな」
と素直に驚いてくれるルーベンスさんにドヤ顔だ。
「洋菓子には紅茶が合うんですけど、今日のお菓子はお餅なので緑茶にしてみました」
「オモチ…? 」
「はい。ロードに作って貰った美味しい食べ物です! 味付けは色々出来ますが、今回は甘めのお餅です」
ロードが作ったという所で嫌そうな顔をしたが、それはいつもの事なのでスルーした。
重箱から小皿へ三種の団子程のお餅を取り、菓子楊枝を付けてルーベンスさんの前に出せば、戸惑ったようにこっちを見るので、フォークやナイフの代わりに菓子楊枝を使って召し上がって下さいと見本を見せれば面白そうな顔をして食べ始める。
最初は恐る恐るだったルーベンスさんだったが、お口に合ったようであっという間に取り分けた3つを食べきった。ルーベンスさんが特に気に入ったのはあんこだったらしく何度もお代わりしていた。
「そういえば、ルーベンスさんは教会に行ったんですか?」
「…まだ行けてはいないが…」
「今日を入れて後4日間の内に行けばラッキー度が少し上がりますよ。一時的にですけど」
「は?」
私の話に怪訝な顔をするので、ロードに聞いた事を教えてあげれば益々怪訝な顔をされた。
「あ、裏技で自分の種族の神様の神域前で祈れば教会より強い祝福が貰えるらしいんで、ルーベンスさんはバイリンまで行かないとですね~」
等と笑っていれば驚愕された。
「待てっ何故バイリンになる!? 私は魔族だぞ。竜人族ではないのだが?」
「え? バイリンにある神域、魔神の神域ですけど?」
この時の、ルーベンスさんの顔は今まで見たこともない位驚きに満ちた表情であった。
あれ? これ言っちゃダメだったっけ?
11
お気に入りに追加
2,533
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる