異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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第四章

メイドさんを尾行しよう!

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ーー…宰相様が精霊様を養女に迎えたらしい。

そんな噂がまことしやかに流れ始めたのは私が捕まってから間もなくだった。
あっという間に王宮内に拡がったその噂は、ロードをこの上なくイライラさせる原因となった。

「やられた…っ」
『貴様が付いていながらなんという様だっ』

契約書の事を聞いて慌ててやって来たヴェリウスは、ロードの執務室で自身の弟子を睨み付け冷たい声音で言い放つ。

『人間なんぞにミヤビ様との契約を結ばせ、更に養女だと…っ馬鹿者が! 何故早々に対処しなかった!』

憤慨するヴェリウスを前に頭を抱えるロードはが可哀想になってくるが、その原因を作った私にこの部屋へ入る勇気はない。
幸い二人は私が室内の様子をここから伺っているとは気付いていないようなので、そっと扉を閉めその場から離れたのだ。

そう、ルーベンスさんと例の契約書の内容についてお話ししてロードの執務室に戻ってき、扉を少し開いた所で中から二人の会話が聞こえてきたという状況に遭遇したわけだ。

結局契約書の内容は双方の合意により、冒険者ランクを限定する事になった。それは良いのだがそうなると私のおこずかい稼ぎが出来なくなるとルーベンスさんに泣きついた所、「国が買い取ると言っているだろう。王宮内では君は何故か“精霊”として周知されているのだ。持ち込んだ者が“精霊”ならばギルドのランクがどうのと拒む者も居ないと思うがね」と、何いってんだコイツというような冷たい目で見られながらそう説明された。あまりに寒々しい瞳に凍りそうになった。

養女がどうとかいう噂に関しては、「君が私を保護者として指名したのだろう」と言うので否定はしないのかと勿論問いかけたのだ。すると「たかが噂ごときで何故私が否定して回らねばならない。時間の無駄だ」とそれはもうばっさり斬られた。

確かにルーベンスさんの言う事ももっともだったので、特に言い返す事もなく話を終えたのだが、今ロード達に捕まるとお説教コースに直行しそうなので熱が冷めるまでは逃げるしかないのだ。

そうそう、あのコピーしたヤコウ鳥だが70万ジットで売れた。先程ルーベンスさんとお話した時に代金をもらったので今私の手元にはヴェアを売った時の取り分14万ジットと合わせて84万ジット。100万なんて余裕で貯められそうだとほくそ笑む。



「ルーテル宰相様のお噂聞いた?」
「勿論聞いたわよ。何でも例の精霊様を養女にされたとか」
「そうそう。これで益々ルーテル宰相様の地位は万全ね」
「私ルーテル家に奉公に行こうかしら」
「わかる~! お給料もだけれど、嫁ぎ先の幅が拡がりそうだもの~っ」

ニヤニヤ歩いていれば、メイドさんの控え室だろうか…そこからそんな話し声が聞こえてきたので身を隠した。

「そういえば、あなた精霊様のお姿を見掛けた事がある?」
「あるわよ~。なんだかパッとしない外見の子供だったからちょっとガッカリしたわ。精霊様って見目麗しい方が多いって聞いてたから」

そらどうもすいませんね。
なんて思いながら聞き耳を立てる。メイドさんはどうやら二人で話しているらしい。
茶器やお菓子の用意をしながら話しているようで、ワゴンにはティーセットが並べられていた。
これからどこかでお茶会でも開かれるのだろうか。

「噂は本当だったのね。その精霊様、初めは人族の神様だと思い違いされてたんでしょ」
「そうみたい。本物の人族の神様が最近王宮に出入し始めたから発覚したんですって」
「え~精霊様はどうしてすぐに否定しなかったのかしら?」
「さぁね。神様みたいに崇めて欲しかったとか?」
「やだぁ~」

芸能人のゴシップを噂するOLのような会話に、話のネタか無いんだなぁと思いつつ姿を消してついて行ってみる事にした。
決してお菓子が美味しそうだから釣られたとかではない。

二人のメイドは暫く他愛もない話をしつつアフターヌーンティーの準備をして、ワゴンと共に移動し始めた。
こそこそと二人の後をついていく。

先程とは違い、一切私語をしなくなり顔付きも変わったメイドさん達に感心しながらもワゴンの上のお菓子を見つめる。



「ブランチャード様、入室しても宜しいでしょうか」

ある部屋のまえで止まったメイドさん達は、ノックをして中に声をかけた。“ブランチャード”とは聞いた事がないなと思いながら入室許可を得たメイドさん達と一緒に室内へ入り込めば、

「ああ、もうそんな時間か…」

と声を出した人物を見た。

「ブランチャード様、こちらへご用意させていただいても宜しいでしょうか」
「ああ、頼むよ」

返事をして爽やかな笑顔を浮かべたのは、カルロさんだった。
ここはどうやらカルロさんの執務室らしい。

メイドさん達はお茶の準備をしながらも、ほんのり目元を染めており、カルロさんの色男っぷりにメロメロになっている事がわかる。
しかし、さすがプロ。手早く準備をすると「失礼します」と早々に部屋から出たのだ。

どう見てもカルロさん一人で食べきれるとは思えないお菓子や軽食を残して。

ちなみに私は出ようとしたが、出る前に扉が閉まったので取り残された。
決してお菓子達に見入っていたから出遅れたわけではない。

メイドさん達が出ていった後すぐノックがされ、カルロさんの部屋に誰かが訪ねて来たと分かりやっぱりお茶会かと納得する。
「どうぞ」と入室を促すカルロさんの声に一拍置いて入ってきたのは……。

「お待ちしていました。ルーテル卿」

ルーベンスさんだった。
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