異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

文字の大きさ
上 下
246 / 587
第四章

神域の違い

しおりを挟む


ロードの部下視点



「まさかあのお嬢さんが師団長のつがいだったなんて…」
「師団長かっけ~!!」

第3師団ウチの師団長のつがいは人族の神に遣える精霊様だというのは有名だった。
自分は今までお見かけする事が無かったが、隊長や副隊長は偶々遭遇した事があったらしく他の騎士達からも色々と質問されている所を食堂でよく見かけた。
しかし2人は言葉を濁していたから口止めされていたのだろうと思っていたんだけど…。

「しっかし、精霊様は見目麗しいって聞いてきたんだけどなぁ~親しみ易い外見の子供だったな」

さっきまで精霊様の怒りに触れるんじゃないかと、震えていた奴とは思えない態度の同僚に呆れた視線を送る。

「おい、滅多な事を言うんじゃない」
「だってあの師団長のつがいだぜ。オレはもっとボンッキュッボンッの大人なお姉さんかと思ってたんだけどな~」
「…まだ子供なんだ。バカな事を言うなよ」
「あ~…まぁあの年齢にしちゃ胸はあったよな」

失礼極まりない同僚だが、獣人の男はこんなものだと早々に諦める。

「お前、師団長の前で絶対そんな事を言うなよ」

このバカなら口が滑りそうだと注意すれば、「言うわけないだろ」と唇を尖らしているので子供かと呆れる。

「はぁ…報告書を提出しないと」
「だな~。精霊様だったなら何の問題もねぇし、適当に書いて帰ろうぜ」

やる気のない同僚と共に取調室を出ると、俺達は事務室へと向かった。

「つーかさ、精霊様はなんで早く自分は精霊だって言わなかったんだ?」
「まだ子供だったからな…きっとパニックになってたんだろうね。可哀想に」

師団長に抱き上げられていた精霊様のお顔は安心しきっていたのだ。きっと拘束され狭い部屋に閉じ込めてられて怖かったに違いない。
だからこそつがいである師団長が自分達を罰しなかった事に驚いた。
人族なら普通、つがいを怖がらせた時点で相手が誰であろうとボコボコにする。俺なら妻が拘束されたと聞いた瞬間に捕らえた騎士をボコボコにするだろう。

やはり師団長ともなると人間が出来ているのだと素直に尊敬してしまう。
まさか人族の本能をコントロール出来るなんて。

俺はとんでもない方の下にいるのだと改めて思ったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



雅視点


「契約書を見せてみろ」

ロードの執務室に連れて行かれ、ソファに降ろされた私は今、横柄な態度のヤクザに見おろされて契約書を出せと脅されている。

「…変な契約はしてないよ」
「それを今から確認するから出せって言ってんだ」

出された手のひらに渋々乗せれば、受け取ったロードは隣に腰かけて巻物のように巻かれた契約書を睨むように見ている。

「見たことねぇ模様で封がされてんな…オメェの力の気配がある」

魔方陣のような模様をした封と私に訝しげな視線を送り、封に指先で触れた。
するとその模様が光を帯び、ハラリと丸まっていた紙が開いたのだ。

「何々…」

驚く事もなく契約書を読み始めるロードに、大分コチラ側に染まったなと思う。
ロード自身が神になったのでそうなのだろうが、順応が早すぎやしないだろうか。

「…おかしな事は書かれていないようだな」

ホッとしたような、でも悔しそうな顔をして呟いたロードにどや顔をしたら頭をこずかれた。

「オメェなぁ、こういう契約事は必ず俺かヴェリウスを通せよな。“深淵の森”は他の神域と違う事もいい加減自覚しろや」
「え? 他の神域と何が違うの??」

他の神域と何処が違うのか分からず聞けば、ロードがコイツマジで言ってんのかという顔で見てきたので恥ずかしくなってきた。

「えっと…あ、珍獣達が居る所は違うよね!」

それ位しか思い付かないのでそう言ってロードの様子を伺う。

「オメェ…」

今度は片手で顔を覆うと天を仰いだ。

「違うの?」

恐る恐る聞けば、私を抱き上げ膝の上に座らせると後ろから巻き付くようにお腹に腕を回され、肩に額を擦り付けられた。
頬に髪の毛が当たってくすぐったい。

「…ミヤビは“神王”だろうが」
「そうだね?」

はっきり言ってくれないロードに焦れる。

「はぁ…神王の神域が他の神の神域と同じわけがねぇだろ」

バカかオメェはなどと暴言を吐いてくるこの男は本当に夫なのだろうか。

「神王も神も、“神域”は“神域”なんだから一緒じゃないの?」
「ならテメェは、市民の家と王様の家は同じに見えんのか」

ロードの言葉に目から鱗の心境だ。

「成る程、確かにログハウスとお城では全然違う!!」

しかし、元人族の神であったアーディンの神域にはウチよりも遥かに立派な神殿が建っていた。むしろアーディンの神域がお城でウチがログハウスなのではないかと問えば、ロードはガックリして言った。

「見た目じゃねぇよ。むしろ珍獣村や浄水場等の施設がある時点で見た目も負けてねぇから」
「あ、確かに」

ケラケラ笑っていれば「そうじゃねぇ」とツッコまれる。

「あのな、神王の神域は神王オメェの力が満ちてんだろ。普通の神なんてゴミみてぇに思える力だ。そんな力の影響をモロに受けたのがお前の言う珍獣達。で、見た目からはわからないかもしれないが、他の動植物も少なからず影響を受けている。オメェが好きなヤコウ鳥なんて見た目も変わっちまってる。奴ら昔は50センチからデカくて1メートルだったが、今じゃ2メートル越えがウジャウジャいるんだぜ」
「へぇ~」
「へぇじゃねえ。分かってんのか? そんな場所に普通の人間が狩りに入るんだぞ」

ロードの話に振り返り顔を見た。
軽い声のトーンとは違い、真剣な瞳のロードは私を見て言ったのだ。

「オメェと初めて会った時の事を覚えているか?」
「覚えてるよ。あの時ロードは瀕死で……あ゛」

人間だったとはいえ、ロードは人間の中では他国の人に知られる程強かったらしい。そんなロードより明らかに弱い冒険者がロードが死にそうになった森で狩りなど出来るのか。

答えは“否”である。

しかしもう契約を交わしてしまった後である。
冷や汗が流れ出した私を見て、ロードは大きな溜め息を吐いたのだ。
しおりを挟む
感想 1,621

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

処理中です...