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第四章

逮捕されました

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死刑だ……死刑だ……死刑だーー…

禿げ散らかしたおっさんの言葉が頭の中でリフレインする。


「…いやいやいや!! ヤコウ鳥は深淵の森に入って狩って来たんじゃないので!! こう、バサバサっと森の外に飛んだ所をバンッと狩ったので法は犯していません!!」
「例えそうだとしても、神域に生息する動植物を狩る事ぁ法に反してるからな。俺だって嬢ちゃんみたいな子供を通報するのは辛ぇさ。でもよ、“ギルドマスター”の俺が規則を破るわけにゃいかねぇんだ…」

本当に辛そうに語るハゲだが、え? ギルドマスター? この禿げ散らかしたおっさんが?

「そんな…っ だってこのままだと死刑になっちゃうんですよね!?」
「っ…嬢ちゃんは子供だし、森の中に入ってないなら死刑は免れるかもしれねぇが……とにかく、騎士様には自分は子供だという事と、森に入ってねぇ事をアピールしろ。そうすりゃ減刑されるかもしれねぇ」

そう言われ、ギルドマスターの部屋に連れて行かれたのだ。

マズイマズイマズイマズイ!! こんな事がバレたらロードに怒られるだけの問題じゃなくなる!! 下手すればヴェリウスの逆鱗に触れてしまう…っ

ハゲの部屋で恐怖に戦き震えていれば、いつの間にやって来ていたのか騎士5人がなだれ込んできた。

「深淵の森に侵入した者がいるとは本当か!?」

その中で一番偉そうな人がそう声を張り上げると、ハゲが心痛な顏で私を見たのだ。

「!? まさか子供が!?」
「そんなっ」
「まだ子供ではないか!?」

と騎士達がざわつき始める。

「拘束しろ」

偉そうな人のその言葉で、私は逮捕されたのだった。




両腕に手錠のようなものをつけられ、リードのように引っ張れる紐がついているそれを引かれながら、騎士達に周りを取り囲まれて歩く犯罪者。
私だ。

頭からは顔が見えないように布がかけられているが、暇をしていたのか寄ってきた野次馬達がこちらを見ながら、「ありゃあまだ子供じゃないかね?」「一体何をしたっていうの!?」等とざわついている。ここにTVカメラがあったら完璧だろう。
何しろ死刑になるかもしれない犯罪を犯してしまったらしいのだから。



「お嬢さんは森には足を踏み入れていないが、ヤコウ鳥を狩ってギルドに持ち込んだ、と……」
「はい…」

王宮のとなりにある騎士団の詰所の一角で取り調べを受けている私と、引きつった顔で私がした説明を繰り返す刑事さ…騎士。

「それはちょっと無理があるんじゃないかなぁ。お嬢さんのように華奢な女の子が、2メートル以上もあるヤコウ鳥を狩れるとは、とてもじゃないがお兄さんは信じられないよ?」

とてもじゃないがお兄さんとは思えない後退っぷりの頭に、ハゲ率高いなぁと思いつつ無言で騎士を見る。

「う~ん…お嬢さん、君の保護者を教えてもらえるかい? ちょっとね、今回の件は国を揺るがす事でね? お兄さん今すごーく困惑してるから、保護者の方ともお話しなきゃいけないんだ」

紳士的な対応をしてくれる騎士のお兄さん(?)に、仕方ないと観念して伝える事にした。

「ルーベンス・タッカード・ルーテルです」
「え……ええぇェェェ!!!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ルーベンス視点


「宰相閣下!! 大変です!!」

バタバタと足音をたててやって来る騎士に顔をしかめ、書類にはしらせていたペンを止める。

ノックというには乱暴なそれにうんざりしながら入室を促せば、勢いよく扉が開き転がるように入ってきた騎士に眉を寄せた。

「…騒がしいが一体どうしたというのかね」
「じ、実は、“深淵の森”へ侵入した者を捕らえたとの情報が入りまして…その、」

神域への侵入だと? それが真実ならば国を揺るがす事件だが…。

何かを言い淀む騎士に続きを促せば、彼は困惑したように口を動かしたのだ。

「…よりによって神域に侵入した者が、保護者は“ルーベンス・タッカード・ルーテル”だ、と…」
「……何だと?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……馬鹿なのかね君は」
「返す言葉もありません」
「神が犯罪者として人間に拘束されるなど前代未聞だ」
「仰る通りで…」
「君は私を笑い殺す気かね」
「はぁ…ん? わら…??」

取調室でお兄さん(?)に告げた保護者名だったが、ルーベンスさん本人がやって来た事できちんと伝えてくれた事が分かった。

「あり得ない事過ぎて腹が捩れる思いだ」

至極真面目な顔をして言っている事がおかしなルーベンスさんは、先程堂々とこの取調室に入ってきたのだ。
それに驚いたのは私を取り調べていたお兄さん(?)であった。
まさか本当にこの国の宰相様がやって来るとは思わなかったようだ。

「それで、君は一体何をやらかしたのかね」

取調室の粗末な椅子に着席した宰相様は、違和感が半端なかった。

「る、ルーベンス宰相閣下…ほ、本当にこのお嬢さんの保護者様で…?」

話を遮って確認してきたお兄さん(?)の気持ちは分かる。しかしそれに苛ついたのか、ルーベンスさんはお兄さん(?)を睨み付けこう言い放ったのだ。

「私がここにいるという事が答えではないのかね? まぁ、すでに嫁に出してはいるのだがね」
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