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第四章

呆気ない終り? ~ロードside~

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ロード視点


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「フォルプローム国がバイリン国を侵略したというのは本当ですか!?」

血相を変えて俺の執務室に飛び込んできたのは、同僚で第1師団長のレンメイだった。

俺達がバイリン国に行ってから3ヶ月以上経ってからもたらされた情報は、想定していたよりも悪いものであった。

「うるっせぇよ。こちとら仕事中なんだからもう少し静かに入って来いや」
「そんな事を言ってる場合じゃありませんよ!! 貴方が言い出した事でしょうが! フォルプローム国の動きが怪しいとっ」

ズカズカとこちらへやって来て、バンッと机を叩くレンメイに溜め息が出る。

「オメェが人手不足だっつって諜報部隊を送る事を反対してた案件だぜぇ。今更慌てるんじゃねぇよ」
「ぐっ…そ、れは…あの時はまだ信憑性の無い話でしたし、人手不足なのも本当です」

気まずそうに机の上から手を退かしたので、書類に署名していた手を止めた。

「で、慌ててここに来たのは何でだよ」

んな言い訳しにきたわけじゃねぇだろうとレンメイを見れば、頷き話始める。

「貴方がフォルプローム国に向かわせた諜報部隊から、フォルプローム国民が人身売買されており、その組織にグリッドアーデン国が関わっているという噂が流れている、と情報が入ったと聞きました」
「ああ…」
「さらにバイリン国には傭兵が集まっているとまで」

そうだなとレンメイの話に適当に相槌をうっていると、キッと睨まれ、

「どうしてそんなに落ち着いているのですか!!」

と怒られた。
何で俺が怒られにゃならねぇんだと理不尽に思いながらも返事をする。

「今更俺が慌てても何も変わらねぇだろうが」
「そうですが…フォルプローム国がグリッドアーデンを嵌めようとしているのは明らかですっ」
「だろうな」
「…陛下が、グリッドアーデンの国王に親書を送りました」

ルマンド王国前王妃はグリッドアーデン国現王の第一王女であった。つまりグリッドアーデンの現王は陛下の祖父にあたる。更に代々ルマンド王国と友好国であるグリッドアーデン国との繋がりは深い。

まだ公になっていないとはいえ、国ぐるみで人身売買の容疑がかけられている等外交問題になりかねない。ただでさえグリッドアーデンは食料を輸入に頼っている。周辺諸国との貿易に影響があれば大問題だ。最悪国が破綻しかねない。

陛下が祖父を心配して親書を送るのも無理はない。
親書が届くのは早くて10日後だろうが、そんな親書のやり取りを悠長にしている時間はない。
フォルプローム国の動きが思っていたより早いのだ。もし、バイリン国とフォルプローム国がグリッドアーデンに攻め込んだら…敗戦、いや、戦う前に何もかも奪われてしまうだろう。
そうなると、奴らは必ず次の標的をルマンド王国に絞ってくる事は目に見えている。

だからこそレンメイはこんなにも焦っているのだろう。

「フォルプロームにグリッドアーデンを攻め落とされるわけにはいかねぇ」
「しかし、このままでは時間の問題です」
「だからこそ、フォルプロームに諜報部隊を送ったんだろうが」

焦るレンメイに、何の為に諜報部隊を編成し送ったのか考えろと暗に伝えれば、ハッとしたように俺を見た。

「!? ロード、貴方もしや…っ」
「噂にゃ噂で対抗するのが一番だろ」

こんな脳筋野郎に頭脳派の自分は負けたのかという顔をしたレンメイは、悔しそうに拳を握ると「失敗は許されませんよ」と言って執務室を出ていった。

「オメェは騒いでないで協力しろや」

とその背中に言えば、「私は私の出来る事を精一杯やるだけです」と振り向きもせず言い放って去って行った。
アイツは一体何をする気なんだ。

散々騒いで出ていった自称頭脳派のレンメイにうんざりしなから、俺の撒いた種はそろそろ芽吹くだろうかと口元をゆるませ、山積みの書類に向き合うのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「バイリン国の王族が神罰を受けたって知ってるか? アレ、どうやら獣人の人身売買に関わってたかららしいぜ」
「あーそれなら聞いた! 何でも、奴らがフォルプロームの国民を拐って奴隷にしていたとか。何とあのエルフまで奴隷にしてたらしくて、王宮の塔の上で見つかったらしいな!!」
「実は俺、その現場見たんだよ。遠くからだったから顔までは分からなかったけど、銀髪の髪がそりゃあ綺麗でなぁ。バイリン王は本当に非道だよ!!」
「そりゃあ神罰も当然だな!!」

バイリン国とフォルプローム国、両国の間で一気に広まった噂は、バイリン国の神罰が起きた事で信憑性を増し、エルフがバイリン国民の多くに目撃されていた事と、消えた山が元に戻った事により神への畏怖の念で嘘はつけないとフォルプローム国の貴族たちが怯えた事、そしてバイリン国から奴隷にされた獣人の子供達が助け出された事が重なり、グリッドアーデン国の人身売買容疑の噂はかき消されたのだ。

フォルプローム国民の憎悪はバイリン国に向けられる事となったが、すでにフォルプロームが支配していた事と、バイリン王族の処刑が執行されていた事でなんとか収まり終息したのである。

その裏では、ロードの編成した諜報部隊の活躍があったのだがそれを知るのはごく一部の者だけである。
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