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第四章
視る力
しおりを挟むアルフォンス君は自分が神の血を引いている事を知らなかったようだ。魂が飛んでいったような表情でヴェリウスの話を聞いている。一方のおじいちゃん神はまだ目を覚ましておらず、ぐーぐーといびきをかいて机に突っ伏していた。
「ロード、私達もあそこに座って話を聞く?」
「いや、まだ話がまとまってねぇようだし、俺らは二人っきりでイチャイチャしようぜ」
「イチャイチャって、今エルフの引っ越しの最中なんだけど」
胡乱な目を向ければ、
「あっちはトモコやジュリアスが仕切ってんだろ。深淵の魔獣共も来てんだし、俺らは天空神殿で楽しんでたって誰も気付かねぇよ」
「昼間っから何言ってんのォ!? ロードの発情ゴリラ!!」
「そりゃ発情はすんだろ。オメェは俺の唯一無二のつがいなんだからよぉ」
あっけらかんとした態度に腹がたってバシバシと頭を殴るが、「ミヤビちゃ~ん」と撫でられていると勘違いしてきて抱き締められた。
「ジジィがエルフ族の神!? いや、何かの間違いじゃ…っ ウチのジジィもうボケてっし、いつも寝てっし、最近じゃ徘徊するようになってて…」
ロードに散々すり寄られ、抱き締められ、挙げ句の果てには顔中にキスの雨を降らされていると、アルフォンス君のそんな声が聞こえてきた。
『そろそろ後継に譲る時期という事だ。トーマスが言うには次代は御主のようだが?』
「はぁぁ!? オレが神様って柄かよ!! それなら姉ちゃんや、エルフの王様だって居んだろ!? 何でオレ!?」
『知らぬ。トーマスが御主だと指名したのだから仕方なかろう』
「神って指名制かよ!?」
ヴェリウスとアルフォンス君の会話を聞いていてバイリン国の親子を思い出す。
「神になりたいと力を奪おうとする人もいれば、それを望まない人もいるんだね~」
私はいつの間にか神だったらしいから実感はないが。
「そうさなぁ…俺ぁ神に興味はなかったが、ミヤビと共に長い時間を過ごせるなら神として生きんのも悪かねぇよ」
頬を撫でられくすぐったくて身をよじる。
「ロードは神というか悪マ…「あ゛?」何でもありまセン」
「ミヤビ、俺ぁオメェが生きるのに飽きるまで共に生きるし、死んでからも一緒にいるからな。覚悟しろよ」
「魂になってまでストーカー宣言!?」
悪魔のようにニタリと笑うロードから目をそらし、ヴェリウス達を見る。
「ジジィ! 起きろよっ 何でオレを指名してんだよ!?」
アルフォンス君がおじいちゃん神を揺すっている。身体がガックガック揺れてまるで屍を揺すっているようだ。
『トーマスよ、起きぬか』
ヴェリウスは呆れたようにおじいちゃん神を見て声を掛けるがいっこうに目を覚まさない。
「ジジィ!! てめっまさかオレに仕事全部押しつけようとしてんじゃねぇだろうな!?」
「…バレたかぁ~」
曾孫の声にやっと起きたおじいちゃん神は、アルフォンス君を見ててへぺろな表情を作り、へらりと笑った。
どうやら食えないじいさん系神様だったらしい。
「ふざっけんなよクソジジィ!! 神だか何だか知らねぇが、んなもんオレが就任するわけねぇどろうがよ!!」
「だってお前、ワシの身内の中で一番才能があるんじゃもん」
「はぁ!?」
「お前、あの御方のお力が視えておったじゃろ」
「!? な、み、視えてねぇよ」
アルフォンス君は動揺してチラリとこちらを見ると、ハッとして目をそらした。
「嘘つくでないわ。あの御方のお力を“視る”、“感じる”というのは、神かドラゴンの一部の者にしか出来ん事じゃ。実際精霊にもあの御方のお力を感知する事は出来んしのぅ」
『人間も精霊も、神王様のお力は当たり前にそばに在るものだから感じる事が出来なくなっているのだ』
神王様のお力で、この世界や我々が形づくられているからに他ならないが、それでも神だけは感知する事が出来るのだとヴェリウスは言う。
「どうやら、あのガキはミヤビの力を“視る”事が出来るらしいな」
ロードの言葉に、そういえば初めて会った時からずっと睨まれていた事を思い出した。
「ヴェリウスよ、この子は口は悪いが力は優れておるし、こんなボケ老人をぶつぶつ言いながらもずっと面倒見てくれた良い子なんじゃ」
『トーマス…』
「エルフの神の力を継げるのはアルフォンスだけじゃと確信しておる」
さっきまでボケていたおじいちゃん神は、ハッキリと宣言したのだった。
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