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第四章

スコーンは口の中の水分を奪う

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「ーー…本当なんだっ キャラバンで聞いたんだよ!! オレ達は性奴隷として“グリッドアーデン”から各国に売り飛ばされるって!!」
「何だと!? 性奴隷とは一体どういう事だ!? 何があった!?」

フォルプローム国の警備隊の詰所は、街中の一際賑わう場所の一角にあった。
そんな詰所の前で騒ぐイタチの少年と、大袈裟な程驚いているミーアキャットの衛兵は当然注目の的であり、行き交う人々は自身の耳をピクピクと動かし、興味深く聞き耳を立てていた。

「人族はオレ達を騙して、他国に売ってるんだ!! 今まで出稼ぎに出た子供は皆、性奴隷として売られたんだよ!!」
「まさか…っ どこにそんな証拠がある!?」
「オレ達をグリッドアーデンに連れて行くっていうキャラバンに居た人族が、夜中にそう話してたの聞いちゃったんだよ!! だからオレ、急いで知らせなきゃって…っ」

ひっくひっくと泣き出す少年に、周りの大人達は何て事だと騒ぎだす。
皆が口々に、「人族が!?」「獣人の子供を性奴隷にだって!?」「嘘でしょう!?」「それが本当なら、国際問題だっ」「人族めっ」

まるで波紋のように拡がっていく噂は、いつまでも貧しさから抜け出せないフォルプローム国の人々の中で燻っていた、人族への妬ましさを増長させ、やがて憎しみへと変えていく事にそう時間はかからなかったのだ。



◇◇◇



「そういえばずっと気になってたんだけど、みーちゃんの家の一角にすっごい強力な結界が張ってあるでしょ。あれってなぁに?」
「ああ、家の前のあれなぁ…俺も気になってたんだよ」
『畑の横のアレか…確かにかなり強力な結界が張ってあったな』

引き続き浄水場のカフェテラスでアフタヌーンティーを楽しんでいたのだが、魔神の少年の山の件により、それていったフォルプローム国の話は、突然のトモコの疑問にロードとヴェリウスが続いた事で無かった事にされた。

しかし、そんな結界を張っていただろうか…?

「家の前の、畑の横……?」

眉間にシワを寄せて天井を見る。

家の前の畑といえば、美容畑とロード専用に作ったこの世界の野菜畑、それに異世界の野菜畑がある…………あ。

「調味料畑の事か!!」
「「「『調味料畑???』」」」

この世界に来てすぐの頃に作った畑を思い出し、皆を見る。

「何その怪しい畑~」

面白そうだと顔に書いてあるトモコは体を乗り出し、教えて教えてと興味津々だ。魔神の少年も興味があるのかじっとこちらを見ている。
ロードはまた変なもん作ってたのかよ…というように白けた顔をしてくるし、ヴェリウスは母親のような目をしている。全く、仕様のない子達ね~と言わんばかりであった。

「ロードと初めて会った日に、見られたらまずいなぁと思って私にしか見えないように結界張ってたの忘れてた…」

皆の視線から逃げるようにそう呟いて、スコーンをはむはむ頬張っていると口の中の水分を奪われ、ぶふぉっと咳き込んでスコーンの欠片が飛び散ってしまった。
慌てて台ふきを持ってこようと席を立てば、すぐに珍獣のお姉さんが慌てず騒がず迅速にキレイにしてくれたので席につき、何事も無かったかのように紅茶を飲んだ。

「…何してんだ。可愛いなぁ」

とスコーンの粉がついた唇を指で拭ってくるロードに、恥ずかしさのあまりスコーンの驚きの水分吸収率について語ってしまった。

「スコーンの事はもういいよ~。それより調味料畑の事」
『そんな畑があったとは初耳ですが』

トモコとヴェリウスに促されて、そんな注目される程大したことではないんだよと目をそらす。

調味料畑は2年前、自身の能力を把握する為に作ったものなのだ。調味料の成る木などトモコに見せた日には大爆笑されてしまう。ロードには呆れられるだろうし、魔神の少年にはバカにされてしまうかもしれない。

「自分の能力を把握する為に少し実験した結果のアレなんで、皆がそんなに気にするものではないよ」

話を終わらせようとしたが、コイツらは見逃がしてはくれなかった。

「調味料畑って、醤油や味噌の原料って事? 大豆育てて醤油と味噌作ってるの? 見たい!! みーちゃんの手作り調味料食べたい!!」

この言葉に、食いしん坊の魔神の少年も食いついた。

「神王様の手作り…っオレも食いたい!!」
「テメェらふざけてんのか。ミヤビの手作りは全て俺のもんだ」
『ふざけておるのは貴様だ馬鹿者。ミヤビ様の手作り調味料はまず私が肉にかけて食さねばならんだろう』

ロードさんや、貴方初めて出会った時に私の料理が美味しくないからって自分で作りだしたんだよね? ジャイア○みたいな事言ってるけど、「お前これはねぇだろ」って私の手料理を一口食べて言ったあの言葉、忘れてねぇからな。
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