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第四章

そういえば、結局何も解決してないよね?

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「そ、そうダネ。ここの技術はこの世界の人にはまだちょっと早いかもネ。魔石の事だけ教えてあげて後はお任せしたらいいと思うな~。きっといつか自分達でこの位の物を作れるようになると思うし」

ハハッと笑っていると、こちらに注目していた各々がさすが神王様と呟いて頷いた。

『本来ならば人間にわざわざ魔石の事を教えてやる必要もないというのに、ミヤビ様は本当にお優しい』
「ヴェリウス、神王様は昔のようないや、それ以上に豊かな世界にしたいんだって!
昔はさ、魔石がこんな風に利用できるなんて思っても見なかったけど、普通に生活魔法は使われてただろ」

魔神の少年はそう言って一人納得しながら語りだした。

「今は魔素が一度無くなっちゃったから生活魔法すら使えねぇ人間ばかりだけど、後数年もすりゃ昔みたいに8割の人間は生活魔法位は使える様になるはずだ。そこにこの魔石があれば、その時には魔力の少ない人間だって生きやすくなる。神王様の望みはまさにそこなんだと思うんだよ!!」
『どういう事だ?』
「つまり、神王様はこの世の中を皆が生きやすいように進化させたいんだ!!」

そんな事は一言も言ってないが、魔神の少年の言葉は皆の瞳を輝かせた。

「人間もまた神王様がお創りになられた存在です。彼らが生きやすいようにとお気にかけるのも当然なのでしょうな」

などと明朗に笑う長老と、それに頷く魔神の少年。
彼らの中で私がどんどん高尚な人物になってきているが全くの誤解である。

「ミヤビ…オメェって奴は…っ」
『ミヤビ様、やはり貴女様はなんとお優しい…っ』

ロードとヴェリウスが私を眩しそうに見つめてくる。
それに対してトモコはまたしても噴き出しそうになっており、口を押さえて真っ赤になって震えていた。

「いや、ちが…っ」

魔石に関して言えば、トモコのノリとロードの人間思いな行動の末の事であって決して世界の進化だとか、人間の事を気にかけてだとかそんな高尚な事を考えていたわけではない。
ヴェリウスの言うように優しくもなければ、皆からそんなキラキラした瞳で見つめられるような人物でもないのだと必死に伝えるが、トモコ以外はご謙遜をと取り合ってもくれなかった。

「まぁまぁみーちゃん。世界が豊かになる事を願ってるのは本当でしょ」

肩をポンポンと軽く叩かれながら頷くトモコは完全に面白がっている。
そのサムズアップは止めろ。

「しかし、魔石の事を人間に伝えるにしてもまだ時期尚早だな…」
『魔石が多く採れる場所が場所だからな。タイミングは慎重を期する必要があるだろう』

急に真面目な顔で話始めたロードとヴェリウスを見る。

そういえば魔石は主に魔神の少年の神域近くで多く採掘出来るんだったと思い出す。

魔神の少年の神域は、バイリン国に隣接しているのだ。
現状では魔石の存在を伝えるのは得策ではないどころか、周囲の国々を危険に晒すことになりかねない。

『魔石に関してはまだまだ研究余地のある物。急ぎ人間に伝える必要もなかろう。ジュリアスよ、まだ人間に魔石の存在が露呈せぬよう管理しておくのだぞ』

そう注意を促すと、ヴェリウスは目の前の紅茶を音を立てないよう口に含んだ。
ウチのワンちゃんは上品だなぁ。とその様子を見ていれば、魔神の少年がいつの間にか平らげていたお菓子やサンドイッチをおかわりしていた。

「そういえば、フォルプロームはどうなったんだろう」
「あ?」

紅茶に口をつけていたロードが私の呟きにカップを置く。

「フォルプローム国はバイリン国と共謀して戦争を仕掛けようとしてたよね? その為に人身売買をしてそれを戦争を仕掛ける理由にしようとしていた…」
「バイリン親子が認めたわけじゃねぇから断定は出来ねぇがな」
「バイリン親子はロードが仕留め…ゴホンッ アレしちゃったけど、結局何も解決はしてないでしょう」
「そうだな。バイリンは暫くは大人しくなるだろうが、上がすげ変わるだけで何も変わらねぇだろうなぁ」

そう言いながらロードは私の首筋を撫でる。
バイリン親子に付けられた首輪が尾を引いているようだ。

「神の怒りに触れたとか何とかで戦争とか起こす気も無くなってそうじゃない?」

トモコが楽天的な事を言うが、ロードはそれを否定した。

「そんな殊勝な奴らなら始めから戦争を仕掛けようとはしねぇだろ。バイリン親子のあのイカれようじゃ、あそこの国の上層部は腐ってんだろうし。まぁ瓦解し始めてはいるだろうが…あんま楽天的には捉えらんねぇだろうなぁ」
「元々は貧しさに耐えかねての愚行だもんね…状況は変わらないどころか、山が吹き飛んでますます悪化しているし…」
「追い込まれた鼠は何をするか分からねぇ」

窮鼠猫を噛むって言うしねぇと考えていると視線を感じそちらを振り返る。

「……今、バイリンの山が吹き飛んだって…」

魔神の少年がサンドイッチ片手に、目を見開いていた。
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