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第三章
戻った力と忘れかけていたエルフ
しおりを挟むヴェリウスの身体が徐々に大きくなり、萎れてしまっていた毛並みもハリを取り戻しふんわりサラサラと輝き出す。濡羽色とは言うが、まさにだ。
トモコもふわりと輝き、まるで天使のような美しさだ。
おかしい。バイリン親子が1人と1匹の神力を奪った時にはこんな現象は起きなかったのに、元に戻った途端この輝きである。
やはり、神力は持ち主でないと扱えないのかもしれない。
トモコの場合は、神力の持ち主だった神と神王が認めたからだろうか、抵抗なく力を自身のものとしたのだろう。異世界人という事もあるのかもしれないが…。
『…ミヤビ様、力を取り戻していただきありがとうございました』
いつもの大きさに戻ったヴェリウスは、輝く黒い毛並みを風に靡かせ頭を下げた。
『そして、不甲斐ない様をお見せしました事、お許しください』
耳をペタリと後ろに倒し、尻尾を下げて謝罪するヴェリウスの首に抱きついて頭を撫でる。
「ヴェリウスが元に戻って良かった」
本当はいつでも力を取り戻せたが、暗黒鬼神のロードが怖すぎて力を使うタイミングが遅れてしまった事を気まずく思う。
謝らなくてはならないのは私の方なのだ。
「みーちゃん、私もいるからね!」
後ろから抱きついてきたトモコが、ありがとうとすり寄ってくるのでヴェリウスと共に抱き締める。
神力を奪われた1人と1匹が禿げなくて良かったと思いながら。
「ぁ…ぁ…っどうして…っ」
どうしてこうなった、と力なく呟き悲壮にくれるバイリン親子を尻目に、さっきまで呪いの魔道具が収納されていた場所を見れば、ロードの力に吹き飛ばされており何も無くなっていた。
「呪いの魔道具ごと壁を吹き飛ばしたんだね」
ロードを見上げて言えば、見晴らしの良くなった場所を見渡して何でもないように口を開く。
「あ? ああ、そういやぁ壁も天井も無くなってんなぁ」
軽い。他人の王宮をここまで破壊しておきながら、こんなに軽く流せるとは…さすが悪魔だ。
『馬鹿者。ミヤビ様の前で力を暴走させるなど言語道断。帰ったらまた鍛え直しだ』
「ぅげっ」
ヴェリウスの言葉に心底嫌そうな顔をしたロードだが、本当はヴェリウスが元に戻って嬉しいのだという事は分かっている。ヴェリウスが力を奪われた時、本気で怒っていたからね。
『勿論トモコもな』
「ぅええ!?」
それは仕方ない。ヴェリウスがせっかく助けてくれたのに油断して力を奪われたのだから、トモコも鍛え直されるのは火を見るよりも明らかである。
「そ、そんな事よりも、バイリン親子どうするの!?」
話をそらすトモコにヴェリウスが溜め息を吐く。
『奴らはもはや抜け殻も同然。何かをしようにも神に制裁を受けたとされ王にも戻れまい』
神がバイリン国に来た事は誰も知らないのに周囲はそんな風に思うだろうか?
『ミヤビ様、山を一つ吹き飛ばすなど神にしか出来ぬ事。今頃はこの国どころか周辺国でも色々と噂されている事でしょう』
ヴェリウスの言葉に成る程と頷く。
実際は神とは名ばかりの悪魔がやりましたとは言えない。
『しかし…あの山の麓はジュリアスの神域。奴は驚いているかもしれませんね』
「ジュリーちゃんからクレーム来るんじゃないかなぁ」
ヴェリウスとトモコの言葉に顔をそらしたロードは、私を抱き上げて「帰ろうぜ」と言ってきた。
それはいくらなんでも無理ってもんですぜ旦那ぁ、と言いたくなる。
「後処理しないとダメでしょ。後エルフの事も忘れないで」
そう。皆様お忘れかもしれないが、エルフがいるんですよ。
一言も喋らず呆然と、姿を消した山とバイリン親子を眺めている麗しのエルフがね。
「あ、そうだった~」
とエルフに近づくトモコはマイペースである。
トモコに気付いたエルフは慌てて姿勢を正すと、「か、神よ…一体何が…?!」と混乱しているように何が起きたのかを聞いてきたのだ。
「突然真っ黒な稲妻と、竜巻が…っ バイリン国王と王太子が神の怒りに触れた事は分かりましたが…」
そういえば、エルフにはロードの姿も私の姿も見えていなかったなぁと思い出す。姿も見えない、声も聞こえない結界が未だ張られていたままだった。
つまりエルフには、バイリン親子が黒い稲妻と竜巻に向かって何やらやっていたようにしか見えなかったのだ。見えない何か(私)を盾にしようとしたり、見えない何か(私)に向かって平凡だの弱そうだのと言っていたり、コントを見せられている気分だったに違いない。
そして今もヴェリウスとトモコが見えない何かと喋っている。
エルフにとっては不可解で恐ろしい光景だろう。
心の中でごめんよと謝りながらエルフを見れば、予想に反してキラキラ輝く瞳をこちらに向けていたのだ。
「畏れ多く、口に出す事もこの矮小の身には憚れますが、神々が頭を下げられる御方などこの世で唯一。
神獣様、人族の女神様、かの御方にお声をお掛けする事すら出来ぬ私ですが、感謝の気持ちを思う事だけはどうかお許し下さい」
『ふむ…本来ならば、お主らはその気配さえ感じる事を許されぬ御方。しかし、今回だけは私からそなたの思いをお伝えしておこう』
「っ…有り難き幸せにございます」
ヴェリウスの言葉に涙を溢すエルフに、そんな高貴な御方がいらっしゃるのかと周りを見るがどこにもいない。となると…成る程、暗黒鬼神様かとロードを見て納得した。
そりゃ暗黒の稲妻に竜巻ですもの。畏れ多くもなるわ。と思いながらバイリン親子を見る。
さて、バイリン国をどうするかだよなぁ…。
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