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第三章
因果応報
しおりを挟む「ぷ…っ」
噴き出したトモコの声が、反響する壁すら無くなった部屋に何故か響いた。
山を一つ吹き飛ばしたロードは、満足したのか動きを止めたが、困った事に私を抱き締めたまま離してくれない。
硬い鎧に潰されている状態の為動きがとれないのだ。せめて早く鎧を脱いでほしい。
何より、暗黒鬼神は見た目も心臓に悪い。
「河童だ…ププッ」
聞こえていないと思っているのだろうか、自分の通る声を自覚していないトモコは、バイリン親子の頭を見て「河童だ」と言いながら笑っているが、全部聞こえている。
「ロード、落ち着いたら鎧を脱ごうか」
私も釣られて笑いそうになったが、鎧の硬さと冷たさで笑いも薄れたのだ。
「……ミヤビ」
怒りで暴走していたのか、呆然と私の名前を呟いたロードに「どうしたの?」と返事をする。
表情は兜で覆われ全くわからないが、目だけは見えるので(それが余計に怖い)声とその目だけで何とかロードの感情を読み取る。
「首輪は…」
「あれはただの装飾品? だったよ。呪いなんて私には効かないからね」
ドヤ顔で語れば、ロードはホッとしたような声色で「良かった、無事で」と呟き両腕で抱き締められたのだ。
「…ロードさん、鎧が硬くて痛いんですケド」
鎧の尖った部分が骨に当たるのが地味に痛い。
ミヤビ、ミヤビとこちらを無視してすり寄ってもくるので私達の間でゴツゴツという鈍い音がたっている。
しかし止めてくれそうにないので、トモコと河童…バイリン親子をチラリと見てからロードを見る。
「あの二人からヴェリウスとトモコの力を取り戻さないと」
私の言葉にやっと反応してくれた暗黒鬼神は、変身を解く…違った…暗黒装備を外すと(外す時にも暗黒の稲妻と竜巻が現れた)、河童親…ゴホン、ゴホン。バイリン親子に視線を移したのだ。
「さて…そこで呆けている擬きの諸君、奪った力では、本物の神に勝てない事は理解出来たかな?」
親子揃って腰が抜けたのか、座り込んだまま立ち上がろうとしないバイリン親子に問いかける。
「理解出来たのならその“神の力”、返してもらおうか」
今まで呆けていたバイリン国王が、その言葉に瞳を大きく見開いて口を開ける。
「っ…返す、だと…!?」
「ち、父上、どういう事ですか? 神とは、奪われた力を取り返す事が出来るのですか!?」
息子は聞いてないよ!? というように父親にすがる。
「ッ一度奪われた力は二度とは戻らないはずだ!」
「そ、そう、ですよね?」
バイリン国王の断言に、息子はホッとし胸を撫で下ろすとこちらを睨み付けてきた。
「デタラメを並べても無駄だぞ」
等と言い募る王太子は、まるで鬼の首を取ったかのように得意気である。
実際は鬼神に頭頂部の髪の毛を切られた河童なのだが。
「まぁ、さっくり返してもらうから」
バイリン親子から神の力の返還を願えば、2人から神力らしき光の玉が抜け出て私の手元にやって来た。
「!!!? バカなっ」
「!? ち、父上!! 話が違うではありませんかっ」
神力を失った親子は、そんな言い合いが出来ていたのも最初だけで、身体に強大な力を宿した反動からか、髪の毛がハラハラ抜けていき、顔や身体もシワシワになって筋肉も萎んでしまったのだ。
「ぁ……あ…っ」
互いの姿を見て慌てたバイリン親子は、今度は抜けた髪の毛とシワシワの自身の手を見て驚愕し、愕然としていた。
その光景からそっと目をそらし、手元にやって来た神力をヴェリウスとトモコへと返す。
光の玉は、待ってましたと言わんばかりに1人と1匹の身体に飛び込んでいき白く美しい光を発したのだ。
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