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第三章

人質としての価値

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「よいか、私の攻撃が奴に確実に当たるよう、お前は奴を引き付けるのだ」
「!? それではまるで囮ではないですかっ」
「馬鹿者!! ひきつけ役は立派な作戦の一つなのだ!! 死ににいけと言っているわけではない。ギリギリまでひきつけろと言っているのだ」

いや、バイリン国王よ。それは死ににいけと言っているも同義だと思うが…。

暗黒鬼神をこれから相手にしようとしている勇者2人は、親子のわりに仲違いをしつつある。元々バイリン国王の人望が無いからか、息子はどうにも父親が信用出来ないようなのだ。

「だったら貴方が囮役をやればいい!! 攻撃は私がする!!」
「貴様…っ」

拗れてきたなぁ…。
その間にもロードは暗黒の闘気を纏わせ、黒い稲妻をと風を発生させながら2人へと近付いている。

ズシン…ズシン…と一歩一歩前進する中、バチバチいわせながら取り出したのは呪いの魔道具など比べ物にならない程の禍々しさを放つ大剣だった。

この国、終わったな。
そう思っていると、「くっ」と焦りを見せているバイリン国王と目が合った。
すると国王はニヤリと笑い、こう言ったのだ。

「あの男神は女を必死に守ろうとしていたな」


次の瞬間には、私はバイリン国王の腕の中に居て、氷の拘束具で両手足を固められていた。

「邪神よ。それ以上近付けば貴様の大切な女を傷付ける事になるが」

え゛…人質?

「父上、そんな平凡な見た目の女で邪神が止まりますか!?」

いや、ロードは邪神じゃないんだが…。後、平凡で悪かったな。

「奴は明らかにこの女を庇っていた。そもそも奴の暴走はこの女が切欠だろう」
「…そ、うですね…信じられない事ですが、確かに邪神はこの平凡な女が大切なようだ」

この王太子は私に何か恨みでもあるのだろうか…あ、さっき首輪を投げつけたから根にもっているのか。心の狭い男だな。

「みーちゃん!!」

トモコが心配そうに叫ぶが、私なら大丈夫だ。いや、大丈夫じゃないかもしれない。
邪神が…邪神の歩みが止まらないのだ。

「トモコォォォ!! 助けてェェ!? 殺されるっ邪神に殺される!!」

邪神を直視してしまった恐怖から心友に助けを求めるが、「無理ーー!!」と返された。

「父上、この女仲間に助けを求めていますが…実はあの邪神は仲間じゃないのでは?」
「…………」

ざわざわしだしたバイリン親子に、ロードが大剣を振り上げた。

「くっどうやらこの女は人質としての価値が無さそうだ。“チェン”よ、この女を奴に投げつけるのだ。私は女ごと氷の楔で奴を貫く」

バイリン親子のヒソヒソ話が鬼畜すぎるーー!?
氷の楔で私ごとぐっさりる気だ!! これはもう、私の周りとロードの周りの結界を強化しまくるしかない!!
しかし、氷の楔よりも邪神に投げつけられた時の方が怖いのは何故だろうか。
ロード、私ごとあの大剣で斬ったりしないよね? 信じていいよね?

「分かりました。ではカウント3で…3、2、1」

カウント3で王太子に本当に投げつけられた私は、ロードの鎧に思いっきり額をぶつけた。
ゴッという音がしたと思ったら、ロードが私を片手で抱きしめ、大剣を振り下ろしたのだ。驚いて反射的に目を閉じれば、風をきるようなゴウッという音が耳元で聞こえ、恐る恐る目を開けて見上げた。

兜を被ったままなので表情が全く分からなかったが、何とか理性はあったのか、私を抱き締めている手は優しい気がする。

「ロード…?」

声をかけるが、ロードは私の後ろ…バイリン親子がいる方を見ているのでゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと振り返った。

「……」

ロードが暗黒鬼神化した際に無くなった壁の向こうには、さっきまで見えていた山の姿は無く、バイリン親子は……ロードの攻撃をやっとの事で避けたのだろう。頭頂部の髪が切られ河童のように禿げ、尻餅をついて茫然とした様子で固まっていたのだ。
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