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第三章
エルフの得意な魔法とは
しおりを挟む「ろ、ろ、ろ、ろ、ロードさぁん!? 今アレ、ムキッボコッってならなかったぁ!?」
一瞬だったが確かに足枷されている方の膝から下が、合成された映像かといわんばかりのムキムキ足に変化したのだ。
見間違いではないだろう。トモコが目を見開いてエルフの足を見、私の顔を見てアレアレと指を差しているのだから。
「身体強化じゃねぇか? 一部分に“身体強化魔法”をかければああいう状態になるだろ」
成る程、身体強化魔法かぁ……ん? エルフってそういう種類の魔法得意だっけ? 私が読んだ異世界小説ではもっとこう、スマートな魔法が得意なイメージが…。癒し魔法とか、植物を成長させる魔法とか、はたまた水魔法的な?
脳筋魔法のトップに君臨するような身体強化魔法をエルフが使う!? いや、使ったとしてもムキッとなるのはどうかなぁ!? ビジュアル的にダメだと思うなぁ!!
「エルフのイメージが…」
トモコが泣きそうだ。エルフの一部ムキムキダメージが大きかったらしい。
「何だ? ミヤビは身体強化魔法が苦手か?」
「苦手なわけじゃないけど…身体強化って女性が使ってもあんなムキムキになるの?」
ロードが私を見下ろして、頭の上で頬擦りをしてくるので聞いてみた。
「魔法なんて使える奴がほとんどいねぇからなぁ。まぁ、筋力を跳ね上げる魔法だ。筋肉量もそれなりにねぇと強化は難しい。男女に関わらずある程度は太くなるんじゃねぇか」
「…ロードも身体強化を使ったら、(今以上に)ムキムキになるの?」
恐る恐る聞けば、「あ? そうさなぁ…」と考えだした。
「身体強化なんて俺にゃ必要ねぇからほぼ使わねぇが、マカロンに乗った時に一度使ったっけか……あまり変わらなかったと思うがなぁ」
元々スーパーサ○ヤ人並にムキムキなロードは、身体強化をしても大して変わらないんだな。てっきりもっとデカくなるのかと思ってたよ。
「…エルフは、植物を成長させるような魔法が得意だと聞いていたが?」
たまらなくなったのか、エルフに質問しているトモコの声が聞こえてき、そちらへと聞き耳をたてる。
トモコの口の端は引きつってピクピクしており、何とも複雑そうな表情である。
「確かに大昔のエルフは緑の民と呼ばれ、植物の成長を促進させるような魔法を得意と致しました。しかし我々の世代では魔素の枯渇が原因なのか、魔力を持って生まれる者もほとんどおらず、例え魔力があったとしても直ぐに死んでしまうか、生き残っても魔法のまの字も使えませんでした」
魔素の枯渇はこの世界から魔法を奪ったんだったよね。
「しかし、私は何故か魔力を持って生まれ、物心がつく頃には身体強化魔法を使う事が出来ました。とはいえ、小さな頃に一度使用して死にかけましたが」
そりゃあ魔素が少ない状態で魔法を使ったら死にかけるよ。例えば僅かしか酸素が無い場所で思いっきり息を吸って吐いたら死にかけるのと同じような事だ。
「偶々精霊様に助けていただけたので、こうして今命があるのですが」
トモコとヴェリウスを見上げると、うやうやしく頭を下げたのだ。
精霊は神にもっとも近い眷族である。精霊がエルフを救ったという事は、神が救ったと同義とエルフが考えていても無理はない。
「魔素が満ちている今は、まるで自身の身体の一部のように身体強化の魔法が使えます」
エルフの話を聞きながらヴェリウスを見れば、頷いてこちらへとやって来た。
突然移動したヴェリウスに、エルフは何か失礼な事をしてしまったかと慌てだし、トモコが大丈夫だと宥めている。
『“身体強化”は魔法の中でももっとも基本的な魔法です。比較的魔力を使用しなくても発動できる魔法の一つだからです』
と、ヴェリウス先生が説明してくれる。
さすが物知りなワンちゃんだ。
『しかし、一部だけに身体強化をかける事は余程のコントロール力が無いと難しいでしょう。あれを息をするように行っている事から、奴は魔法の才があるのやもしれません。エルフ族の魔力は高くも低くもありませんでしたが、コントロールだけは抜群でしたから、それを受け継いだのでしょう』
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