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第三章
バイリン国の闇(飲料)
しおりを挟む「そんな偽装工作をして戦争を仕掛けるなんて、すぐにバレる事でしょう!?」
トモコは信じられないと、椅子から立ち上がり落ち着きなく部屋を歩いている。
『一見被害者であるフォルプローム国がそれを仕掛けた加害者なのだから、グリッドアーデンは証拠として奴隷売買の現場をでっち上げられてしまえば何も言えぬ。きっとバカな人族の何人かは奴隷の転売に関わっているのだろうしな』
国が民を輸出していると言っても過言ではない程の規模なのだ。証拠をでっち上げられてしまえば、グリッドアーデン国が関わっていると他国に思われても無理はない。
しかも人族が転売している現場を押さえられてしまえば、言い逃れも出来ない状況に追い込まれるだろう。
「グリッドアーデン国は巻き込まれて加害者にされるって事でしょう? 冤罪もいいとこだよ!」
憤慨するトモコに飲み物を渡しながら宥める。
「それを阻止しようと、ルマンド王国の第3師団長が立ち上がったんだから落ち着いて」
どうどうと言いながらロードを見る。
「つってもなぁ~。諜報部隊は転移が出来る訳じゃねぇから未だに旅路の途中だし、スタート地点にすら立てちゃいねぇんだよなぁ」
口調は余裕があるように感じるが、バイリンの街の様子に焦っているのだろう。眉間にシワが寄って苛立っている事がわかる。
「もう諦めて私達で解決しちゃう?」
どうせロードも人間ではなくなったんだし、と言えば複雑そうな顔をされた。
「バカな事をする人間がいるなら、同じ人間が止めねぇとダメだろ。神が助けたんじゃ、人間はいずれ何もしなくなるぜ。どうせ神々が助けてくれるとかなんとか言ってよぉ」
確かにそうだろう。しかし、ロードはすでに神の仲間入りを果たしてしまった。それならば、彼が手をかすのはまずいのではないか?
「今回は調査に来ただけだ。俺が何かをしようってんじゃねぇさ。ま、人間として神の力を使わずに民を助けてやる事は出来るだろうしな」
前から思っていたが、ロードは尽くす人なのではないだろうか…。
「お~ロードさん格好良いこと言ってる~。さすが騎士!! 師団長様は違いますなぁ」
ニヤニヤしながらロードを揶揄るトモコに呆れた目をしながら、目の前の飲み物を飲む。
「っぐほ!」
『ミヤビ様!? どうされましたか!?』
飲み物を飲んだ瞬間、トリッキーな味が口の中に拡がり、あまりの衝撃に咳き込んでしまったのだ。
私の向かいにいたヴェリウスが慌てて足元にやってくる。
「ごほっ こ、れ…すごい味が…っ」
何だこれ!? とコップを指差すと、ロードがナプキンで口をぬぐってくれながら教えてくれた。
「こりゃあ砂漠に唯一成る植物、“ザボン”の葉を絞ったジュースだな」
ザボン? 砂漠に生えているならサボテンみたいな植物だろうか?? にしても苦味と酸味と甘味が突き抜けた、非常に身体に悪そうな飲み物なんですけど!? てかこれ飲み物!?
「栄養満点だがクソ不味いってんで有名だぜぇ」
「なぜこの飲み物を注文した!?」
「仕方ねぇだろ。飲み物なんてこれぐれぇしかねぇんだ。水は貴重だろ。王族か高位の貴族ぐれぇしか飲めねぇよ」
そうだった。ここは食糧難で切迫している国だった。
「ま、こんなんでも一杯800ジットっつー高級飲料だけどな」
ジットは円と同じ価値があるから、800円って事だ。
こんなクソ不味い飲み物がコップ一杯800円!? 高い!!
「当然庶民には手が出ねぇからな。他国の金持ちな奴ら向けだが、それもバイリン第一主義のおかげで、ただでさえ少ねぇ他種族が減っちまって、こういった店の収入が激減した事で余計物価が高騰してやがる」
「下手な政策で不利益を被るのは、どこの世界でも庶民って事だよね~」
そんな事よりこんな不味い飲み物が他国のセレブ向けって所の方がヤバくないか!? 観光向けがこれなら、庶民の飲み物はどんなヤバイ物なのか。いや、バイリン第一主義国なのだから、他国向けより国民向けの方がマシとか?
この国の闇を覗いた気がした。
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