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第三章

北の国の現在

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『“エルフ”といえば、確か昔、大々的に奴隷狩りにあった種族です。別名“森の民”とも呼ばれ、自然と共存する事を得意とした人族に似た種であったと記憶しています』

さすが博識のヴェリウス。エルフの事も知っているようだ。

『しかし近年では奴隷狩りで数を減らした上に、魔素の枯渇で8割以上が亡くなり、絶滅の危機にあるようです。その為幻の種族として、他種族の記憶からは薄れその行方を知る者はほとんどいないのだとか』

生きる辞典のようなヴェリウスに感心しつつ、頷く。

「ルーベンスさんからも確かに幻と言われる位数を減らしていると聞いてるよ。ただ、北の国に居るという情報が得られたから探しに行こうと思ってるの」
『ふむ…北の国は冬は雪に閉ざされる過酷な環境だと聞きます。そんな所に本当に居るのでしょうか?』
「行ってみないと分からないけど、なら過酷な場所の方が誰も来ないから最適だよね」
『成る程。エルフの隠れ里がある可能性は高いですね』

私の話に頷きながら考えを巡らせているのか、時折目を細めるヴェリウスの前に地図を出す。
そうすると興味深そうに皆が覗き込んでくるので苦笑した。

「そういえば、西はヴェリウス、東はランタンさんの神域があるでしょ。北には神域ってあるの?」
『ございます。北は魔神ジュリアスの神域。我らは山ですが、ジュリアスは山ではなく山の麓にある湖近辺を神域としております』

北は魔神の少年の神域か。だから魔族のルーベンスさんは北の国について詳しかったのだろうか。

『ミヤビ様、北の国ですが…現在は“国”としての体はなしておりません』
「それはどういう事?」

ヴェリウスの発言に首を傾げる。
ロードも目を見開いていた。どうやら彼も知らない情報なのだろう。
地図を見れば確かに北の国はルマンド王国からはかなり距離がある。通信手段が限られたこの世界では、交流のない国の情報は知らなくて当然なのかもしれない。

『150年程前は、“魔族の国”として存在しました。しかし、魔素の枯渇から魔族は一気に数を減らし、100年程前には国自体の存続か危うい程になってしまったのです。それも当然でしょう。魔素は人族や獣人族より魔力量の多い魔族にこそ必要な糧なのですから。特に王族、貴族は魔力量も一般人とは桁違いでした。それにより、国の要の者から亡くなっていった事で“国”としての体をなさなくなったのです』

確かに上の者から亡くなれば国が崩壊するのは時間の問題だろう。

『前にも少しお伝えしたと思うのですが、自分たちの王族ルーツを失う事を恐れた民は、自身の魔力を王族へ渡す事で王族の命を繋いでいたと…。魔族とは誇り高い種族のようですね』

そういえば聞いた事があったな。自分たちの命を犠牲にしても王族の血を残そうとしたって。執念を感じるな。

「あれ? じゃあ今生き残っている魔族は王族って事?」
『勿論王族もいるでしょうが、魔力量の無い魔族で他国に移り生き残った民もいますので…』

それはそうか。ルーベンスさんや騎士団のか、か、カールじゃなくて……そう、カルロさん!! も王族ではなく一般人かぁ。カルロさんはステータスを見た事がないけど、ルーベンスさんは少なくとも王族でなかったのは確かだ。大体カルロさんが王族なら、騎士団になんていないだろうし、ルーベンスさんより地位も低くないだろう。

「なぁミヤビ、北の国の前に竜人の奴隷になったとかいうエルフも調べた方が良くねぇか?」

ロードが難しい顔をして提案してきた。

「え? その話って100年は前の話なんだよね?」
「言っただろ。竜人や魔族は寿命が長ぇんだって。もしエルフも同じように寿命が長けりゃ、まだ生きているかもしれねぇ」

そう言われてみればそうだ。

「エルフを奴隷にした竜人って、確か“バイリン”っていう国の王族かなんかだったよね?」
「そうだ。それに、“バイリン国”ってなぁどうもキナ臭ぇ。フォルプローム国の件に関わってるかもしれねぇんだ」

どうやらロードはエルフの事とフォルプローム国の事を一気に解決したいらしい。確かにそれが出来れば面倒な仕事も一気に片付くしね。

「そうだねぇ、じゃあ、北の国に行く前にバイリン国に行ってみますかね」
「賛成~!!」

1人楽しそうなトモコだが、ヴェリウスもロードも笑っていない。
早く気付けトモコ。空気を読むんだ!!
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