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第三章
ルーベンスさんとロード
しおりを挟む「ろ、ロヴィンゴッドウェル第3師団長!?」
扉の外から聞こえる護衛騎士の狼狽する声に逃げ出そうとすれば、ルーベンスさんに襟首を掴まれた。
「ちょ、ルーベンスさん、離して下さい!」
「逃げられると分かっていて離すわけがないだろう」
「猫の子じゃないんですから襟首掴むの止めて~」
「こら、暴れるんじゃない。ロヴィンゴッドウェル第3師団長、入りたまえ」
じたばたしていれば、ルーベンスさんがロードを招いてしまった。
失礼しますと声がし、重厚感のある扉がギギ…と音をたてて開く。
「寝る暇もない程忙しいと聞くが?」
そうルーベンスさんが皮肉る程、ロードは疲れきっていた。
ボサボサ頭に伸び放題の無精髭、目の下の隈と痩けた頬。一体何が会ったんだと言わんばかりの風貌だ。
浄化魔法で清潔さだけはたもっているようだか、この4日間お風呂も入る暇がなかったのだろう。
眠っていない事は濃い隈からもうかがえる。
「…俺のつがいが迷惑をかけたようで…」
殊勝な態度に見えるが、目はルーベンスさんを睨み付けており、行動と言動が一致していない。
「まったくだ」
しかしルーベンスさんも負けてはおらず、そんなロードの態度を気にも止めずに嫌味を言い放つ。さすがである。
「君のつがいは一体何なんだ。空の上に街を作ったなど、神であってもおかしな話だろう」
「……」
話を聞いているロードが、私を見つめ…いや、睨み付けて舌打ちした。
どう考えても恋人や夫の態度ではない。
「気にしないで下さい。そいつは今すぐ連れて帰りますんで」
と手を伸ばし、まるでルーベンスさんから引ったくるように抱き寄せられたのだ。
「ロード??」
「…じゃあそういう事で」
勝手に話を終わらせて出ていこうとするロードを慌てて止めようとしたその時、
「待ちたまえ。まだ話は終わっていない」
そう言ってルーベンスさんがロードを止めた。
「まだ何か?」
「君のつがいが、君が忙し過ぎて構ってもらえないからと私に相談を持ちかけてきたのだよ」
違いますけどぉ!? いつ私がそんな相談をルーベンスさんにしましたかぁぁ!?
すると険しい表情を崩さなかったロードが、私を抱き締めたまま力を込めた。
「ぅぐっ く、苦しい…っ」
「ミヤビぃっすまねぇ…っ俺が構ってやれねぇから、寂しい思いをさせちまったんだな」
やつれている割には力強く抱き締めてくるので息が止まりそうだ。
「ロヴィンゴッドウェル第3師団長、それ位にしておけ。君のつがいが天に召されるぞ」
「あ゛?」
ルーベンスさん、アンタのせいだろうが!
自分でふっておいて、私が窒息死寸前で止めるとは何というドS!! 「君はつがいを絞め殺す気か?」等と言いながら、唇の端は上がっているのがその証拠だ。
窒息死の危機から脱出した私であったが、今は違う意味で危機に陥っている。
「ーー…それで、空の上に街を作ったそうだが、私に何をして欲しいと言うのだね」
「ミヤビ、どういう事だ? 何故ルーテル宰相にそんな相談をしてやがる」
2人がそれぞれ質問してくるが、ロードは顔が怖いし、ルーベンスさんはそれを意に介してないように続きをうながしてくるしで、私の顔は引きつってピクピクしている。
「いや、ルーベンスさんは宰相だし、浮島の街をなんとかしてくれるかなぁって…ロードもだけど、トモコもヴェリウスも最近忙しくて…だから」
私は先にロードを宥める事にした。こちらを優先しないと後で拗ねて大変な事になるからだ。
しどろもどろに説明をし、ご機嫌をうかがう。
「……にしても…」
とルーベンスさんを複雑そうな顔で見るので、ロードはルーベンスさんが苦手なのかもしれない。まぁ見るからに脳筋のロードとは合わなそうだ。
「ルーベンスさんに頼みたいのは、街に住人を移住させた後の事なんです」
「…私にその空の上にある街を統治しろと言いたいのかね」
「統治じゃなく、 学校やお店や、人が暮らしていくのに必要なものとかを教えて欲しいんです。私1人で住むなら簡単なんですけど、やっぱり人が増えると住みやすくする為のルールも必要ですし、その辺はルーベンスさんの得意分野ですよね?」
宰相としての知恵を貸してほしいと言えば、ルーベンスさんは私をじっと見つめてきた。
「話はわかった。が、お断りする」
即答でバッサリ切り捨てられてしまったのだ。
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