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第三章
農場見学をしよう
しおりを挟む私達を背中に乗せたサンショウウオのお兄さんは、マイペースにのっしのっしと森を歩く。
巨大なので一歩一歩が大きく、のっしのっし歩く割には早く感じる。
行きとは違い、おじいちゃんが河川に残った(トモコが強制的に連れていった)のでお喋り出来るのはヴェリウスだけだ。
とはいえ、魔獣型でも何となく意思の疎通は出来るので問題ないのだが。
「農場はどんな風になってるかなぁ? 植物の種は町に買いに行ったの?」
聞けば、サンショウウオのお兄さんは顔を横に振ったので、種は町で買ってはいないようだ。
『畑はもう種まきをしている事でしょう』
早くない!? 昨日の今日だよね!? 家も早すぎるけど、畑も早すぎる。
ウンウン頷いているサンショウウオのお兄さんに、ヴェリウスの言っている事が正しいのだと理解した。
「な、何の種を撒いたのか楽しみだな~。ハハハ…」
乾いた笑いしか出てこないのは何故だろう。
『ミヤビ様の畑で成る野菜などではないでしょうか』
「え? ウチの畑は異世界の野菜も植えてるけど…」
『昨夜トモコがミヤビ様の畑の種を渡しておりましたが…許可を取っていたのではなかったのですか…?』
トモコぉぉぉ!!!? 勝手に何してるの!?
と思ったが、異世界の野菜を育てるのも悪くないなと考え直す。深淵の森の中だし、ショコラも珍獣達も異世界の料理を食べた事があるしね。
むしろトモコグッジョブ?
『ミヤビ様、トモコを叱っておきましょうか』
ヴェリウスが不穏な顔をして言うので、慌てて首を振った。
サンショウウオのお兄さんは不安そうな表情を浮かべてチラチラとこちらをうかがっている。
「大丈夫!! 構わないよ。異世界の野菜と言っても、この世界で育てて害になる事はないしね」
安心安全な野菜って思いながら創ったから大丈夫なはずだ。
その言葉に安心したらしいサンショウウオのお兄さんは、歩く速度を少し早めてニコニコしている。
何かこのサンショウウオ可愛いな…。
よしよしと撫でていれば、ピョンピョン跳ね始めたので撫でるのを止めた。
乗り物酔いしちゃうから跳ねるのは止めて下さい。
『ミヤビ様、村が見えてきました』
ヴェリウスの声に促されて前方を見れば、確かにさっきまで居た村が見えた。村に近付くにつれて、私とヴェリウスが気付いた事がある。
珍獣じゃない誰かが村に居るのだ。
「ちょっとぉ~!! どういう事なのぉ!? いつの間にか村が出来てるじゃない!!」
聞こえてきた声に半目になった。
ヴェリウスは嘆息し、サンショウウオのお兄さんは首を傾げている。
「アタクシが居ない間に何があったっていうの~~!?」
そう。村の真ん中で叫んでいるのはランタンさんであった。しかもまな板のままの。
『喧しいぞランタン』
村の広場に到着し、サンショウウオのお兄さんから飛び降りたヴェリウスは、トンッという軽い音で着地するとランタンさんに向かって言い放った。
「ヴェリウス!! これは一体何事なの!? 昨日は村なんてなかったわよね!?」
少し前から思っていたのだが、始めの頃は「~ですわ」とお嬢様言葉だったのに、最近は段々荒くなってきている気がする。
怒った時は漢が出るので、そういった意味では徐々に心を開いてくれている、という事だろうか?
『魔獣達から深淵の森に村を作りたいとの要望があったのだ。ミヤビ様が許可なされたのでな』
「にしても昨日の今日よ!? 神王様のお力なら分かるけど、これ全部魔獣達が作ってるんでしょ!? 優秀な精霊ですら1日で村を作るなんて出来ないわよ!?」
『フンッ 奴らは私の眷族であり神王様の眷族でもあるのだ。この位当たり前であろう』
自慢気に胸を張るヴェリウス。ふわっふわの胸の毛が風でそよそよと揺れている。
「そうだったわ…さすが神王様…規格外ね」
いや待って。規格外は珍獣達であって私ではない。
『ミヤビ様、農場へ参りましょう』
疲れきった表情で悟りを開きそうになっているランタンさんを無視して、ヴェリウスが声をかけてきたので頷けばサンショウウオのお兄さんが農場へと歩き出した。
「ちょっと待ちなさいよ!? アタクシも行くわよ!! あ、神王様、お邪魔しております。アタクシもご一緒してよろしいでしょうか?」
優雅なカーテシーを披露したランタンさんだが、まな板なのが非常に気になる所だ。しかし触れてはいけない気がするので、ぐっと我慢して「どうぞ」と返せば嬉しそうについてきた。
『ミヤビ様、あれが農場のようです』
畑と田んぼが道を挟んで左右に別れており、ウチとは比べ物にならない程大きい。田んぼにはお米の苗が植えられ、畑にも苗が植えられているのが見える。
種から植えたはずでは? と思ったが、ウチも人の事は言えない畑を持っている手前、ツッコむのを止めた。
田畑の奥には果樹園らしきものも見えるが、森と同化していて分かりにくい。木々の背が低いのと、綺麗に整列されて植えられているので、そこで何とか区別がつくのだが。
というか、果樹園の木々はどこから持ってきたのだろう…。
東京ドーム1つ分…それは言い過ぎか。しかしその半分位の大きさはあるだろう農場は、200人程居る珍獣達のご飯を賄うには余裕だろう。
「神王様だ!!」「キャーッ 神王様~っ」「畑に撒いた種がすぐに芽をだして苗に成長しました~!!」「神王様のおかげです~っ」と田んぼや畑にいた珍獣達に声をかけられ、恥ずかしくなって俯いた。
サンショウウオのお兄さんの、焦げ茶色な背中で視界を一杯にして思考を明後日の方へと飛ばす。
すると「神王様のかんばせを拝見したいのに~っ」やら、「神王様は照れ屋でいらっしゃるから」等と益々恥ずかしい事を言い出すものだから家に帰りたくなった。
ちょっと、私の顔から火が出ていませんか? 誰か消火して下さい。お願いします。
それはそうと、撒いた種がすぐ成長って…種が特殊なの? それともこの森がおかしいの?
『ミヤビ様、ご自身を棚に上げるのは止めて下さい』
ハイ。すいません…。
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