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第三章
ごめんなさいと感謝の気持ちを
しおりを挟むロード視点です。
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王宮内、陛下と宰相の執務室を行き来し、諜報部隊の候補をあげて書類を徹夜で作り、また陛下の執務室へ行きを繰り返し、つがいの顔が見れない事にイライラしてきた翌日の正午前だった。
突然ミヤビの気配が感じられなくなったのだ。
ミヤビは神王だけあって、世界中どこにいてもあの膨大な力を感じる事が出来る。
まるでこの世界を包むような、優しくて強大なその力を常に感じられるので安心ではあるが、それがたった今、消えたのだ。
するとさっきまで晴れ渡っていた空は厚い雲に覆われ、次いで雨が降り初めて大雨へと変わった。
嫌な予感がして隊舎へと急ぐ。国同士の戦争よりもつがいの方が大事だ。
隊舎へ入ると俺の部屋へと掛け込み、深淵の森へ繋がる扉を潜る。
玄関に繋がっている為、そのまま家に飛び込んでリビングやキッチン、風呂やトイレなどを確認していく。どこにもミヤビの姿はなく2階へと掛け上がれば、ミヤビの部屋の前で呆然と佇むトモコの姿があった。
「トモコ! ミヤビの気配が消えたっどういう事だ!?」
掛け寄りながら問えば、トモコは涙目になって首を横に振った。
その様子にドクドクと心臓が嫌な音をたてる。
『ミヤビ様は、先程までこの部屋に居たようだが…忽然と消えてしまった』
ミヤビの部屋から出て来たヴェリウスがそう言って目を細めた。
「何があった…? お前らここに…っミヤビのそばに居たんだろ!?」
一体ミヤビに何が起こったんだ?!
「…リビングでジュリーちゃんと話してたの…みーちゃんもそこに居て、でも途中でリビングから出ていっちゃって、その後…気配が消えたってヴェリーさんが騒ぎだして…っ」
ポロポロと泣き出したトモコの足に尻尾を巻き付け、ヴェリウスが俺を見上げる。
『もしかしたら、“異世界”に行ってしまわれたのかもしれぬ…』
異世界…!?
『アーディンであれば異世界に渡ったミヤビ様を探す事も可能だが、今のトモコには難しかろう…ミヤビ様が自ら帰って来るのを待つ他ない』
なんて事だ! 俺のミヤビがこの世界に居ないなんて…!!
迎えに行く事も出来ない己の無力さを嘆きながら待つしかないとは…っ
◇◇◇
ミヤビ視点です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
実家のそばにある公園に転移(?)した私だが、どうやら能力は使えるようで、靴を出す事が出来た。
ということは、深淵の森にすぐに帰る事も出来る。
少し安心したので、姿を消して母と姉の様子を見に行く事にした。
公園から徒歩1分で実家である。
昼間にもかかわらず母の車が駐車場にあったので家に居るのだろう。玄関に鍵がかかっているようだが、能力で玄関を通り抜ける。まるで自分が幽霊になったようだと思うが、この世界では死んでいるのだからある意味幽霊で間違いないと笑ってしまう。
まずはリビングへと入る。が、誰も居ない。
続きの和室を覗いて見ても居ないようだ。
異世界ではこのリビングにいつもならトモコとヴェリウス、ショコラがソファやラグマットの上に座ってゆったりしているのだ。キッチンではロードがあの巨体で料理をしている。天井も扉も、ロードに合わせて少し大きくしているので実家の方が狭く感じる。
しかしキッチンにもいないとなるとトイレだろうか?
そう思った時、カタンと上から物音が聞こえた。
どうやら2階に居たらしい。
階段を上がれば、私の部屋の扉が少し開いていたのでそっと覗いてみた。
母は私の部屋の真ん中に座り込んで、呆っと一点を見つめていたのだ。
「お母さん、何してるの」
つい声をかけてしまい口を塞いだ。
「っ…雅ちゃん?」
ふっくらしていた母はやつれ、一回り小さくなったんじゃないかと思う程に憔悴していた。
キョロキョロと私の姿を探す母を見て、親不孝な事をしたと唇を噛む。
母はよくわからない宗教にハマったが、それは父が死んでしまってからだ。きっと寂しかったのだろう。私があの時母を支えていれば、と今更ながらに思う。
「ごめんなさい。先に逝ってしまって…親不孝な娘でごめんなさい…っ」
「…雅ちゃん…っ」
母はきっと幻聴だと思っているだろう。にもかかわらず返事をしてくれるのは、幻聴であっても私の声が聞きたかったからに違いない。
「…お母さん、最近宗教ばかりで貴女に何もしてあげられなかった事、とても後悔しているの。ごめんなさいね、雅ちゃん」
涙を流す母を抱き締める。
「お母さんは頑張ってくれてたよ。それなのにいつも文句ばかり言ってごめんなさい。本当は、ずっとありがとうって感謝してたから。早く言えば良かった」
「っ…ふ…ぅっ 雅ちゃん、バナナの皮で滑って死んじゃうなんて、お母さん予想外で…っ 」
そりゃあ予想外だろうよ。今時バナナの皮が道端に落ちているのもおかしいし、それで死ぬのもおかしいよ。
お母さん、アンタ、本当に泣いてる? 笑ってない?
「いや、もう死因とかいいから。それより、お母さんはこれから幸せに生きてよ。大丈夫。もう不幸な事は起きないから。好きな事を思う存分して、自由に生きて」
私は母と姉、そして姉の家族や友人達、トモコの家族の幸せを願った。
「雅ちゃん…?」
「私が願えば叶わない事はないからね! あ、そうそう。私、異世界で彼氏が出来たから。後、トモコも一緒に居るから心配しないで」
「まぁ!!? 貴女に彼氏!? どんな仏様かしら!? パンチパーマの方!?」
仏像じゃねぇよ!!
「とにかく!! パンチでも仏像でもないから。だからこっちは気にせずに!!」
「わかったわ。仏様の彼氏とトモコちゃんに宜しくね。あ、後お父さんに、私はもう少しこっちで遊んでからあなたを追いかけますって伝えておいてね」
いや、お父さんはこっちにはいないから。それと仏様の彼氏って…。しかし、実はゴリラですとは言えないしな。
「分かったよ。じゃあそろそろいくから、元気でね。お姉ちゃんに宜しく」
「ハイハイ。雅ちゃんもお父さんに宜しくね」
「ワカリマシタ…じゃあ」
母の顔つきが変わったので、もう大丈夫だろうと思った私は深淵の森に戻る事にした。姉は…バナナの皮が妹の死因だって聞いてきっと大笑いしただろうな。奴はもういい。家族もいるし、大丈夫だろう。
あっちに帰ったら、トモコにもご両親の姿を見せてあげよう。祝福もしておいたよって教えてあげないと。
そんな事を思いながら深淵の森へと転移したのだ。
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