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第三章

土下座とオカン

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「ロヴィンゴッドウェル第3師団長、そちらの女をお引き渡し下さい」

引き渡すのが当然のように言う騎士に、ロードの表情が冷めていく。

「どういう事だ」

低く冷たい声が鼓膜を揺らす。思わずゾクリとしてしまう声音だ。
案の定、私を取り囲んでいた騎士達が青い顔をして後退りした。

「っ貴方様が今拘束している女は、ルーテル宰相の執務室に忍び込み逃げ出した不審者です!」

ルーベンスさんの部屋には行ったが、ルーテル宰相という人の部屋には行ってない。無実だ!!

「宰相の…? 本当か? ミヤビ」

ロードに問われたので首を横に振る。

「ルーベンスさんって人の部屋には行ったけど、宰相の部屋には行ってないよ。でもそこの人は、ルーベンスさんの部屋の外で会ったけど」
「その“ルーベンスさん”が宰相だ!!」

ルーベンスさんの部屋から追いかけて来た騎士がツッコんできた。中々鋭いツッコミだった。

「…ルーベンスさん…?」
「転移した時たまたまルーベンスさんの部屋に行っちゃって、あ、でもお茶をご馳走してくれたよ。親切な人だった」

ロードにヘラリと笑えば、「ったく、オメェは」と呆れたような表情をされた。

「ロヴィンゴッドウェル第3師団長! お分かり頂けたならお引き渡しをお願い致しますっ」
「断る」

騎士の言葉にロードは冷たい表情で言い切った。

「「「!?」」」

驚き固まった騎士達を見下ろし続ける。

「見て分からないか? コイツは俺のつがいだ」
「つがい!!!? その女…っ その方が、ですか!?」

嘘だろう!? というように騎士達から見られるが、そんなに平凡な顔の女は意外か? 言っておくがお前らもどっちかというと平凡顔だぞ。

「し、しかし例え貴方様のつがいであろうと、不審な行動をしていた事に違いはありません! 取り調べをさせていただかないと…っ」

なおも食い下がる騎士の根性に称賛したくなるが、ロードからの温度が師匠ヴェリウス譲りの絶対零度になっている為、今すぐ逃げろと言いたい。

「不審な行動だと? コイツが一体何をした? 宰相の部屋でじいさん相手にお茶してただけだろ。それとも何か、宰相が不審者を捕まえろとでも命令してんのか?」
「命令はされておりませんが、執務室に侵入した事は確かで…っ「神がどこで何しようが人間ごときに咎める権利はねぇんだよ」!?」

言っちゃったーー!! 印籠使っちゃったよぉ!! 完全に侵入したこっちが悪いのに堂々開き直って権力(?)使っちゃったよォォォ!!!!

「テメェは神々や精霊を不審者だと取り調べる気か? あ゛ぁ゛?」
「っめ、滅相もありません!! 神とは知らずに私は何という事を…っ」

追いかけてきた騎士も、他の騎士も青い顔を通り越して土気色になっている。

「お許し下さいっ どうか、お許しを…っ」

平伏された。

「ちょっとぉ!? 止めてくださいっ お願いだからっ」

私は今、自分が悪いのに仕事を全うしようとしていた騎士達4人に土下座させている。
悪女か!!

「っ騎士を、辞めろと神が仰るのであれば…っ」
「違うからァァァ!! その辞めろじゃない!! 土下座を止めてって言ってるんです!!」

コントのようなやり取りをしている私達を見かねたのか、ロードが、

「今回は見なかった事にしてやる。次はねぇ」

と脅すので、余計ビビってますけどぉ!? 完全にこっちに否があるのに、脅してどうするんだ!!

「ウチのつがいが何かすいませんーーー!! 私が悪いんですっ 宰相とは知らずに部屋に侵入しちゃってごめんなさい!! ちゃんと説明すればよかったのに面白半分で逃げちゃって、ご迷惑をおかけしました!!」
「…“ウチのつがい”」

ロードよ、頬を赤く染めて反復するんじゃない!!

「頭をお上げ下さいっ 神に頭を下げさせたとあっては我々は生きてはいけませんっ」
「何とおそれ多い事でしょうかっ」
「平にっ平に御容赦下さいっ」
「祝詞を捧げますので!!」

いや、祝詞を捧げられても…ありなのかな?  いやいや、むしろこの世界に祝詞ってあるの!?

『“祝詞”とは人間が勝手に考えた神々への賛辞です。ランタン辺りであれば有効かもしれませんが、ほぼ意味をなしません』

あぁ…賛辞ね。それはいらないわ。
って違うから!! 私が悪いから!!

「あの、私は神じゃないのでそんな失礼にあたらないですから!!」

王宮ここでは精霊と思われてるしね。

「え? 神ではないので…?」
「神でないなら何でしょうか?」
「え? 人間って事ですか?」
「何だよ。ビビって損したぜ」

顔を上げた4人の騎士にホッとした瞬間、ヴェリウスが前に出てきた。

『馬鹿者共め』

「し、神獣様!?」とヴェリウスを見て4人が動揺している。そしてまた平伏した。

『神なぞ比べものにならぬ程のお方に無礼を働きおって…』
「「「「え?」」」」

前足で4人の頭を軽く叩いていくヴェリウスに“お母さん”の姿が重なった。

ゴッ と鈍い音がして4人が白目をむき地に伏せるまでは、の話だ。
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