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第三章
アイテムバッグと自作の薬
しおりを挟む『食事とテレビと睡眠にしか興味を示さなかったミヤビ様が…あの獣人には積極的だと!?』
「あ~、みーちゃん犬科と猫科に滅法弱いから…しかもあの子、みーちゃんの理想の受様だよ」
『?うけさま??』
ヴェリーちゃんが困惑しているから余計な事を言うんじゃない!
トモコを睨めば、「みーちゃん、にゃんこ君逃げたよ」と言われて慌てて追い掛ける。
この時は理想の受っ子を見つけた事から周りも見えずに後を追ったが、まさかそれがあんな事件に巻き込まれることになるとは、夢にも思わなかったのだ。
初めは素早かったにゃんこヤンキーだったが、お腹が空いている為かすぐに動きが鈍くなり失速した。そこを戸惑いながらもヴェリウスが回り込み、トモコと私で退路を断ち捕獲したのだ。
「ーー…謝ったじゃねぇか! 何でこんな…っ」
泣く一歩手前の表情で喚くという受々しさに胸が高鳴る。
これは上物だ!!
「ほほぅ、さすがみーちゃん。上玉を見つけましたなぁ」
顎に手をやり、親指と人差し指で髭を撫でる真似をしながら、どこかの御用商人のごとくイヤラシイ笑みを浮かべるトモコは、にゃんこヤンキーの恐怖を煽ったらしい。「オレ、売られるのか!?」と震え上がっているではないか。
『ミヤビ様、この者を捕らえてどうなさるおつもりで? まさか神殿へ…』
訝しげに言葉を発したヴェリウスを、有り得ないものを見たかのように目を見開き、「魔獣が喋った!?」と真っ青な顔で叫ぶにゃんこヤンキーの恐怖指数は先程から上限突破しているのだろう。いつ気を失ってもおかしくない顔色となっている。
「え? 魔獣って普通喋るけど?」
ヴェリウスの質問に口を開こうとした横で、トモコが「何言ってんの?」と、さも自分が常識人だという風に自信満々に語りだしたのでこれはヤバそうだと冷や汗が出て来た。
「魔獣が喋るわけねぇだろ!!」
お前が何言ってんだと懸命に反論するが、
「いや、喋ってんじゃん」
と半笑いで言われ、たじろぐにゃんこヤンキー。
バカにされた気がしたのだろう。ぷるぷると身体を震わせて怒りを抑え込もうと何とか耐えている。
私は一応、その常識は違うぞトモコ! と目で訴えていたが、結局…
「も~ぅ、みーちゃんったらそんなに熱く見つめられると照れちゃうよ~」
と馬鹿発言を噛まされ、諦める事にした。
ヴェリウスはというと、トモコとにゃんこヤンキーの掛け合いに『ついてゆけぬ』と溜め息を盛大に吐き、私のそばに座ると呆れた様子でそれを眺めている。
しかし、グゥゥゥという大きな音が鳴りその掛け合いは終了した。
にゃんこヤンキーが力が抜けたようにその場に倒れ、意識を失ったからだ。
彼は本当に空腹だったようだ。
近付いて観察すると、脱水しているのか筋肉が締まっている。減量中のボクサーに近い身体つきだが、あばら骨が浮きあがっていて細さが際立っていた。
数週間飲まず食わずだったのかもしれない。
私は早速創ったばかりのアイテムバッグからレジャーシートと体力回復薬(液体)を取り出した。
「説明しよう。“アイテムバッグ”とは、みーちゃんの能力で創られた“時間停止”、“無限収納”の効果が付与された持ち主認証付の万能バッグである」
突然ナレーターのような説明を始めたトモコに胡乱な目を向ける。
「いきなり何言ってんだ」
「いや~何となく?」
ヘラヘラ笑っているトモコを横目にレジャーシートを広げ、そこへにゃんこヤンキーを乗せると「大丈夫ですかー?」と声掛けをしながら軽く肩を叩く。
「みーちゃん何してるの? 気を失ったんだから早く回復した方が良いんじゃないの?」
「やっと自作の薬を消費するチャンスなんだから、起こして飲まさないと駄目なんだよ!」
「アンタは鬼か!!」
鬼で結構!! 在庫消費の為に少しでも役立ってもらう。
ちなみにここで意識の無いまま無理に飲食させるのは危険です。窒息する事もあるので口移しで飲ませる、食べさせる等の行為は止めましょう。
意識が戻らない場合は即病院へ。
「ぅ…」
あ、にゃんこヤンキーの場合は意識が戻ったようだ。良かった。
「大丈夫? 飲めるようならこれ飲んで? 体力を回復出来る薬だよ」
「……飲み物…」
ゴクリと喉が鳴り、薬の入った瓶を受け取ったにゃんこヤンキーは、まだ朦朧としている事もあるのか大して警戒もせずに口をつけたのだ。
味はオレンジジュースという薬を、美味しかったのかゴクゴクと飲み干し、空になった瓶を物欲しそうに見つめて耳と尻尾を垂れさせている様はヴェリウスと通じるものがあった。
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