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第三章
トモコクエスト再始動
しおりを挟む王都でのデート(?)からこっち、すっかり上機嫌なロードは放っておくとして、あれから服屋の件で話し合った私とトモコだが、出店は“天空神殿”でという事に決まった。
浮島の街の片隅にひっそりと建つ可愛いお店を目標に動きだしたのだ。
営利目的ではなく、あくまで趣味に近いので忙しくなるのは困る。だってゴロゴロ出来なくなるから。
ズボラな生活だけは止められない。
しかし、そのズボラライフが最近脅かされつつあるのだ。
「みーちゃん! 今日は獣人の国に行くよ!!」
私のお馬鹿な心友によって。
「昨日ルマンド王国の王都に遊びに行ったばかりでしょ…」
10時頃に起床してリビングでまったりしていると、バタバタ走ってきてそんな事をのたまう。
「昨日は冒険者登録してその後は遊んだだけだよ。今日こそは天空神殿の住人探しするの! しかも今日は、ヴェリーさんもついて来てくれるって!!」
えっへんと胸を張るトモコの後ろからスッと登場したヴェリウス。いつからそこに居たの?
『神王様の神殿のそばに住まわす者達です。トモコ1人に選ばせるなど不安でなりません』
とうとうトモコの本性を知ってしまったヴェリーちゃんは、誰に憚る事もなく不安だと言い切った。尤もな話だ。
「なら2人で行ってきたらいいよ。私は薬作りもあるし」
「みーちゃんの薬、万能すぎて誰にも使えないじゃん! しかも2年半も作り続けてストック凄い事になってるんだよ!? 消費しないものを生産したって何の意味もないからね!!」
「う゛っ」
トモコに生産と消費について諭されるなんて!!
確かに私の薬は流通させる事が出来ない。よって、内々で消費するしかないのだが、美容系の薬は一度使用すれば、数年は必要としない。傷病薬はかすり傷程度ならば自力で治してしまう脳筋しかいない我が家では使用頻度も低く、稀に使用しても生産が消費を追い越してしまっているのだ。
「じゃあ、畑の世わ「勝手に育つよね!! 世話いらないよね!!」…」
「家の掃「自動で綺麗になるようにしたのみーちゃんでしょ!!」」
せめて最期まで言わせてほしいものだ。
「ハッ 薄い本の創作!!!」
「どこに行っても出来るでしょ!! むしろ、獣人達のあれやこれに興味ないですかーー!?」
「あります!!」
カッと目を開いて即答してしまった事が間違いだったーー…
◇◇◇
と、いうわけで獣人族の国“フォルプローム”にやって参りました。とても言い難い名前のお国ですね~。
「暑い。フェルプルール滅茶苦茶暑いっ」
“フォルプローム”だトモコ。間違ってるぞ。
しかしトモコの言うとおりかなり暑い国のようだ。
建物はレンガで作られたものもあるが、どちらかというと、巨大な岩を削って作ったような建物が多いかもしれない。
色も岩肌そのものの土色や、白っぽいベージュ等で目に優しいのか地味なのか…。
大通りには、建物とは正反対にカラフルなテントを張った市場が出ており、果物や野菜、洋服などが雑多に売られている。
ルマンド王国の王都のように、割りと人が往き来しているので驚いた。
『ミヤビ様、“フォルプローム”は周りを砂漠で囲まれた国です。1年を通して雨量はルマンド王国の3分の1程度という、川や湖等の水源の少ない国なのです。別名、“光に愛された国”とも呼ばれており、大変暑いと有名です』
確かにルマンド王国は年間を通しても過ごしやすい気温だ。一番暑くても今の時期の28度程度。寒くても10度を下回る事は滅多にない穏やかな気象である。
対してこの“フォルプローム国”は体感でも45度…それ以上かもしれない。
歩いている獣耳と尻尾のある人達は皆、男女共ベリーダンスで着るような露出度の高い服装だ。ヘソ出しが主流らしい。
しかしこんなに気温が高い中で露出すれば脱水が進み、肌は火傷してしまう。
中には中東で着られるようなアバヤと呼ばれる黒いガウンのような民族衣装を着ている者もいるが、ほぼベリーダンスの衣装である。
私達はアバヤちっくな服装にスカーフを顔に巻いている。まさに中東の女性のように。
「にしても長袖もスカーフも暑い…獣人は皆露出の高い服を着ているのに~」
『獣人族は人族よりも頑丈なのだ。この暑さに人族の肌は耐えられん。トモコ、お主は一応神だから大丈夫だろうが偽装の為にもその衣装は着ておくのが懸命だと思うが?』
成る程、ヴェリウスの話を聞く限りでは、アバヤを着込んでいるのは人族という事になる。どうやら少数ではあるが獣人の国にも人族は居るらしい。
「ぅう…みーちゃんはどうしてそんなに平気そうなの~?」
「結界に温度調節機能を持たせてるから。一応体感がどれくらいかはわかるようにしてるけどね」
暑さで参っているトモコにそう言ってやれば、「その手があったか!!」と自身も結界を張る事にしたらしい。
「みーちゃんみたいに体感はわかんないけど、暑さは何とかなったよ~」
と喜んでいるのでまぁ良いだろう。
しかし、さっきから観察していると、獣型の獣人もたまに歩いている。この世界の獣人は獣化出来るらしい。
「そういえば、誰もヴェリーさんに驚いてないね。獣化した獣人だと思われてるのかな?」
『何を馬鹿な事を。魔獣が人化出来ぬように獣人も獣化出来ぬわ。恐らく私はテイムされた魔獣だとでも思われているのであろう』
ええ!? 獣人は獣化出来ないだって!? なら獣化していると思ってたのは魔獣!?
「えー獣化出来ないの!? 残念すぎる!! でもテイムとな! そこを詳しく!!」
やはりトモコの瞳が煌めいた。
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