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第三章
プロポーズと居酒屋
しおりを挟むトモコをからかって遊んでいると、ロードが「こりゃアイツが荒れそうだなぁ」と他人事のように呟いた。
アイツとは勿論、元人族の神“アーディン”である。
そして彼も“白薔薇のアドラーブル”では攻略対象者の1人なのだ。赤ちゃんだけど。(←勝手に妄想しているだけ)
まさか異世界に来て間近で乙女ゲームのような恋愛を目撃しようとは。
「みーちゃんっ もう!! 私は恋愛は暫くしません!!」
そうね。色々あったしな。まぁ心友の恋愛模様は大人しく見守ってやるか。
うんうんと1人頷き納得していると、
「んじゃ、観光に行くとしようや」
と歩き始めたロード。当然抱き上げられている私も一緒に移動する事になり、その後を慌てて追いかけてくるトモコとショコラ。2人に向かって「あ~れ~お助け~」と助けを求めてみる。
「みーちゃん待ってて! すぐに助けるからっ 止まれ巨人! 我が姫を返すのだーー」
等と棒読みの台詞を吐きながら走ってくるトモコに、ハハハと笑いながら移動しているロード。「主様ぁ~」と街中で翼を出して飛ぼうとするショコラと、注目され始めたので恥ずかしくなり顔をロードの肩へ埋めて隠した。
観光ガイドのロードは、意外と女性が好きそうな場所へ案内してくれた。
可愛い小物が売ってる雑貨屋さんだったり、アクセサリーが売ってるお店だったりとオッサンなのに乙女心がわかっているのだ。
しかも3人お揃いのヘアアクセサリーを購入してくれるなど、とてもゴリラとは思えない行動に驚きが隠せない。
楽しいし嬉しいのだが、乙女心を掴むロードのガイドにまた胸がざわつくのは何故だろうか。
「はぁ~楽しいね~!! 異世界バンザーイ」
と思いっきり楽しんでいるトモコと、
「キラキラ綺麗です~。主様とお揃い!」
嬉しそうに買ってもらったばかりのヘアアクセサリーを髪に付けているショコラを横目に、「後一軒連れていきたい所がある」と言って街中を慣れたように歩くロード。
今度はどこに行くのだろうかと楽しみだったが、胸のざわつきは止まなかった。
そうして、ロードが連れて来てくれたのはーー…
「服の、店…?」
大きな窓ガラスから見える洋服に心臓が跳ねる。
「おーーっ!! 洋裁店だぁ!!」
今までで一番瞳を輝かせて店に飛び込んだトモコを呆然と見送る。
「…どうして服のお店に…?」
ロードの腕の中から彼を見上げれば、優しく微笑まれて…
「オメェ前に酔っ払った時言ってたろ。服屋を親友と始めるのが夢だったって」
お酒に酔ってそんな事言っちゃってた!?
「結構泥酔してたからなぁ~覚えてねぇかもな」
ハハッと笑われて顔が引きつる。
私は一体何をしているんだ…。
「ま、せっかくその親友もそばに居るんだし、この世界の流行をリサーチしといても良いんじゃねぇかなぁって」
ニッと笑うロードは相変わらず凶悪で、だからだろうか。恐怖で涙が出てきたんだと思う。
感動じゃないんだ。これは恐怖だ。そうに違いない。だってこのゴリラが、こんなに気が利く男前なわけがないんだ。
「っ…とも、っトモコ、は…っ 一緒にやってくれるかなぁ?」
「さぁなぁ。ま、あんだけテンション上がってんだし、やりてぇって言うかもなぁ。暇してるし」
「っう~~~ッッ」
たまらなくなって、肩に顔を埋めると大きな手で頭をポンポンと触られた。
「店をやりてぇのかやりたくねぇのか、オメェの親友にはっきり伝えてこい」
そう言って下に降ろされたので、頷き涙を拭うとトモコの元へズンズンと進む。
「みーちゃん!! 見てこれ!! 可愛い生地っ」
私を見つけて、これ可愛いとワンピースを見せてくるトモコを屹然と見やる。
「? みーちゃん、どうしたの…」
首を傾げるトモコを見据え、拳をぎゅっと握って腹に力を込め大きな声で名前を呼んだ。
「トモコ!!」
「ハィィ!!?」
驚いて姿勢を正す彼女に一拍してから手を差し出し、言い切った。
「私と一緒に服のお店をやって下さい!!!!」
手を出したまま頭を下げる。某お見合い番組の申し込みのような体勢でドキドキしながら待っていると、すぐにその手が握られた。
「ヘイ! 喜んでぇ!!」
後にその場へ居たものは語った。
まるでプロポーズのようだったと。そして返事が居酒屋の店員だったとーー…。
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