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第三章

世界一美味しい料理

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「いっただっきまーす!!」

元気いっぱいに食事を始める挨拶をして、キラキラした瞳をもっと輝かせ目の前に並んだ料理を見ているトモコ。

「お料理取り分けましょうか?」

ヘラリと笑って向かいに座るレンメイさんに伺いをたてている。
女子力高すぎて拍手しそうになった。
私ならそのまま自分の料理だけ取って食べるがトモコは違う。当然のように聞くのだ。これは性別に関係なく、気遣い屋のトモコの癖と言ってもいい。
ちなみにここで勝手に取り分けてはいけない。中には自分で取り分けたい人もいるので、トモコのように伺いをたてる事が大事である。

「ありがとうございます。料理は我々が取り分けるので、トモコさんは御気遣いなさらず料理を楽しんで下さい」

こちらの世界では男性が取り分けるのが普通なのだろうか? 「何が食べたいですか?」とにこやかにレンメイさんが対応している。これは女子からすればポイントが高いぞ。

「ありがとうございまーす! じゃあ遠慮なく。そこの麺料理と、あ、こっちのお肉も! お肉のお皿は分けてほしいです。それとサラダ下さい…エヘヘ美味しそー!!」

本当に遠慮なしに注文をつけるわりに、最後のはにかみと美味しそー!! が図々しさを可愛さに変えているだと!? なんという天然女子…可愛いぞトモコ!! お前の可愛さにレンメイさんが頬を赤く染めている。

「はい、みーちゃん。レンメイさんが取り分けてくれたよ~。みーちゃん最初はサラダ食べるもんね!」

トモコォォォ!! アンタ女子や!! ショコラにもお肉を渡して…アンタやっぱり気遣いの天使やでぇ!!

と心の中で解説と絶叫をしつつ、「いただきます」とポソリと言う私、絶賛人見知り中です。
ハムハムと虫のように菜っ葉を食していると、「美味いか」とロードがニヤニヤしながら聞いてくるので頷いたが、正直ウチで育てた野菜の方が美味しいし、ロードの作るドレッシングの方が好みだ。

トモコも食べ進めるうちに瞳のキラキラが収まっていく。
その様子を見てククッと喉の奥で笑うと、

「王都ではマシな部類に入るんだがなぁ」

と私だけに聞こえる声で呟いた、ロードの顔を見る。

「美味しくないのにオススメしたの?」

そうだったらロードらしくない意地悪だと、つい低い声で咎めるような言い方をしてしまった。

「そうじゃねぇよ。実際ここは評判のいい飯屋だしな。オメェも見ただろ。下の席が満席だったのを」

確かに賑わっていたが、味が美味しいかといえばお店の人には悪いが美味しくない。

「オメェ、忘れてるみたいだがなぁ…この世界の飯はウチで食ってる飯みてぇに発展してねぇんだよ。香辛料の類いもあまりねぇし、食材も最近まで流通してなかったんだぜ」
「あ」

そういえばこの世界、崩壊一歩手前デシタ。

「ここの飯屋は親戚が農家らしくてなぁ、食材も他より手に入り易いし、まだマシな方なんだよ」
「そっか…ごめん。ロードの作ってくれるご飯の方が美味しいからついそれを基準にしてた…」

せっかくオススメしてくれたのに文句を言うなんてダメだよね。

「っ…ミヤビ、オメェんな可愛い事言ってたら襲っちまうぞ」

真っ赤な顔をして耳元で囁いてくるので、何で!? とビックリして固まった。

「あまり美味しくないです~…ショコラはお家のご飯の方が良いです」

突然正直に口に出してしまったショコラにぎょっとした。
ロードとコソコソ話していた内容がショコラにも聞こえていたからか、口に出してしまったのかもしれない。

「ハハッ そうかぁ。お嬢さんはお家の味が好きなんだね」

カルロさんがそう言ってショコラの頭を撫でてフォローしてくれたので、悪い雰囲気にはならなかった。
さすが落ち着いた大人の雰囲気を持つ男は違うな。これも女子からしてみればポイントが高い。

「ここの料理は王都でも評判が良いのですが、やはり食べなれた料理の方がお口に合っているのかもしれませんね」

ニコニコと優しい眼差しでショコラを見ながら、お店のフォローもするレンメイさんは御気遣いの紳士だ。

「あっでも珍しいお料理が食べれて嬉しいですよ~。ねぇみーちゃん!!」
「そうだねぇ。ここの料理も(この世界では)美味しい(方だ)と思うよ。ただウチのシェフ(ロード)の料理が美味しすぎるから、ショコラの舌が肥えちゃったんだねぇ」

しかし私の言葉に場の空気が変わってしまった。
悪い空気ではない。が、ちょっと……

「おや、ミヤビさんのお宅ではシェフを雇っていらっしゃるのですか?」

意外そうに聞いてくるレンメイさんに、貴族だと勘違いされたかもしれないと変な汗が浮かぶ。

「ブハッ 違ぇよ!! コイツらに飯作ってんのは俺な」

吹き出したロードに、レンメイさんが訝しげな表情をする。

「ウソだろ!? 君が料理番? 君の得意料理ってマカロンだろ!? その君がシェフ!! シェ…ブハッ ハハハハッ」

そのレンメイさんの横でカルロさんが爆笑しているものだから、レンメイさんが困り顔になった。キャラ変わってますよカルロさん。
そしてマカロン。お菓子じゃないよ。この世界ではマカローっていう鹿の丸焼き料理をマカロンって言うんだよ。分かったかい。トモコ君。

「ロードの料理は世界一美味しいよ」

カルロさんがあまりにも笑い続けるので、そんなに笑うことないだろうと腹が立ってきて言い返してしまった。

「ミヤビっ」

するとロードが抱き締めてきたので、骨の軋む音とカルロさんの「見せつけてくれるねぇ」というからかい混じりの声をBGMに昇天しそうになった。
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