上 下
72 / 587
第二章

神々ってこんなにいるの?!

しおりを挟む


カーテンの扉の真ん中を潜ると、少し離れた位置に豪華な1脚の椅子が存在を主張している。

そういえば、サイドから出るようにとヴェリウスから注意を受けた事を思い出し、端へと移動する。

マカロンはよく椅子を壊さなかったものだと、先程の事を思い遠い目をしてしまう。

いつの間にかダンスホール側にウチの珍獣が幕を引き上げる係として立っていたらしく、私達がカーテンの端に移動して少しするとゆっくりとカーテンが上がったのだ。

視界が開けた瞬間目に飛び込んできたのは、人、人、人。
この広々としたダンスホールに一杯とまではいかないが、人の姿が溢れていた。
その数ざっと1500人程だろうか。こちら側のスタッフは珍獣100人と、表に出ない仕事に就いている、ヴェリウスの精霊とランタンさんの精霊を合わせても200程度しかいない。
裏側(特に厨房)は恐ろしく忙しいのではないだろうかと心配になる。

そんな思いも、こちらに気付いた神々によって真っ白に染まる。
1500人の視線が突き刺さったのだ。
ただでさえ緊張しているのに、一気に注目されれば心臓が口から飛び出しそうになる。

ヤバイ。この先の一歩がふみだせない。
大体、こんなに人数がいるのに何でこんなに静かなんだ。

中々動かない私に焦れたのか、横にいたロードとショコラが一歩前へ出る。そうしてゆっくり歩き始めるので、2人に置いていかれないように自然に歩き出す(浮いて移動)事が出来た。

絢爛豪華な椅子の前に到着すると、2人は左右に別れて椅子のサイドに回りロボットのように静止した。

確かこの椅子に座れって言われたよね。

朝食時に確認した流れを思い出しながら、2段高い場所にある玉座のような椅子に向かい階段を登るとゆっくりした動作で椅子に座る。

すると目下の神々が引いていく波のように前列から膝をついていき、まるでスポーツ観戦の応援で客席で起こるウェーブのようだと拍手をしたくなった。

もしかして練習してました?


『世界に魔素が満ち、昔のように力が満ちた』

突然、お芝居が始まったかのようにヴェリウスが語り出した。
恐ろしい程の静寂の中、落ち着いた美しい声が響く。

『絶望は消え去り、希望が満ちた。
全ては再びこの世界に顕現された神王様のお力である!
皆も感じていよう。今、世界がかのお方のお力に包まれている事を。
その偉大なお力が間近に在る事を!!』
「そう、かのお方こそが我らの父であり母である。そして絶対なる王!! 我らの神王なのだ!!!!」

うおぉぉぉーーーー…っっ

ある者は感動し涙を流し、ある者は喜びにうち震え、雄叫びを上げる。そしてーー…

うぉぉぉ…こ、これは恥ずかしい!! ヴェリウス、ランタンさん、ちょっとノリノリ過ぎやしないだろうか。

私は恥ずかしさに悶えながらチラリと横の2人を盗み見る。
無表情だった。
それが益々私の羞恥心を煽るのだ。

ダンスホールでは号泣している人があちこちにいるし、注目されているしでいたたまれない。
何より辛いのは、この椅子が高すぎて足がブラブラしている事だ。
この世界の人は身長か高い。男性は平均190センチ、女性は平均175センチもある。因みに私は160センチ。決して小さくはない。大きくもないが。
さらに足が短いのだ。これは我が北野家の遺伝なのだから仕方がない。我が家は代々足が短いのが特徴なのだから。
袴が長くて助かった。誰も私が足をブラブラさせているとは思うまい。


ヴェリウスとランタンさんか居るのは、丁度私の直線上。正面の前列だ。
先程から気になっていたが、どうやらヴェリウス達の周りにいる神々だけ他の神々と一線を画しているようなのだ。
人数は10人程だろうか。まず顔の造りが一際派手で、皆それぞれが個性的と言えばいいのか…。とにかく目につく集団だ。
先程会った魔神の少年もその一員のようだった。

ヴェリウスとランタンさんと魔神の少年以外は初めて見るが、皆一様に瞳を輝かせて此方を見てくるので目をそらしたくなる。
しかし1人だけ何か……、


「ーー…では、神王様より御言葉をー…」

“ミヤビ様、その場で立ち上がりひと言お願い致します”

ランタンさんの声に被せて、突然頭の中に響いたのはヴェリウスの声だった。
驚いてついヴェリウスを見ると、コクンと首を縦に振られて促される。

え~っと、立ち上がってひと言ね…ひと言…。ここは、来てくれて有り難うございます。楽しんでいってくださいね~的な事を言えばいいだろうか。

“ミヤビ様、私の後に復唱して下さい”

おおっ どうやらヴェリウスが念話でフォローしてくれるらしい。頼りになるな。

“皆、よく集まってくれた”

「…皆、よく集まってくれた」

よし、第一声は声が裏返らなかったぞ~!!

“今日の催しを楽しんでいってくれ。以上です”

「今日の催しを楽しんでいってくれ。以『ゴホッ ゴホンッ』す」

終わった! 言い切ったよヴェリウス!! 最後の方咳き込んでたけど大丈夫だった?
あ、ランタンさんか私とヴェリウスを見てうんうんと頷いている。上手くいったって事だよね。

私のひと言が終わると、目下の神々はワアァァと嬉しそうに騒ぎ出し、ビュッフェコーナーへと足を進め…ん? 何でこっちに行列を作ってんの? 何?

私の直線上に行列が出来ていくのだか、何事だろうか?

「ミヤビ、手を」

ロードにそっと手を取られ、ダンスホールへ続く階段を降りる事になったのだが、何をするのだろうか?

目を擦りもう一度見るが、やはり階段の下には行列が出来ている。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...