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第二章
問題はやっぱり人手
しおりを挟む“ビュッフェ”とは、飾り棚に様々な料理を並べて各々が好きに取り分け立食するスタイルの事である。
滅亡寸前だったこの世界では、食糧難という事もありビュッフェどころかパーティーに食べ物を出す事も少ないのだとか。
では一体何を出すのかと言えば、そう…お酒である。
王族主催のパーティーになってくるとクラッカーだとか、パンだとか、そんな軽食がつまみ程度に用意されているらしいのだが、基本的にはダンスや音楽を楽しみ語り合う事がメインになるらしい。
そもそもパーティーの目的は単なる娯楽ではなく、政治的な交流なのだから食事に重きを置かないのは仕方のない事なのかもしれない。
それならば、料理メインのパーティーにする事で皆が楽しめるのではないかと思ったのだ。何しろ神々に政治などは無関係なのだから。
パーティー=仕事ではなく、パーティー=娯楽の思考が強い神族であればなおのことだろう。
しかもビュッフェであれば、料理を自身で取り分ける為人手も必要なく、好きな量を好きなだけ食べられるとあって私も楽しめる。そしてダンスをしなくてもいい!! まさに一石二鳥!!
料理に関しては状態保存をかけておけばいつまでも美味しく食べられるだろうし、珍しい料理を並べておけば話題にもなるだろう。
どうだと胸を張ってみるが、皆見たことも聞いたこともない為か反応が薄い。
『ミヤビ様、素晴らしいご提案だとは思いますが、なんせ初の試みです。招待客にそのビュッ…フェとやらを説明しなければ戸惑ってしまうのではないでしょうか』
さっきまで隅でいじけていたヴェリウスがやって来て私の服を軽く噛んで引っ張り、口にした言葉に確かに、と頷く。
「人族のパーティーじゃ食事っつーのはあまり出ねぇけど、飲み物はウェイターが運んでたぜ。飲み物もそのビュッフェでは自分で入れたりすんのか?」
さらにロードにそう言われてハッとした。
ビュッフェは行った事があるが、ビュッフェ形式のパーティー(むしろパーティー自体)に行ったことがない。
通常のビュッフェだと飲み物も自分で取りに行くが、今回はパーティーなわけでさすがにそれはマズイ気がする。
「飲み物はウェイターかなぁ…」
などと答えてみたものの、結局人手やら何やらと問題は山積みだ。
どうするかと考えていると、俯いて1人震えているランタンさんが目に入った。
静かだと思ったら…怒らせてしまったのだろうか?
すると突然バッと顔を上げ、キリッとした瞳と目が合ったのだ。
「神王様!!」
「ひゃい!?」
私を呼ぶランタンさんの大きな声に驚き変な声が出てしまった。
「何ッッッッて素晴らしいアイデアなのでしょう!!! 食糧難が続いた世界で、魔素を満たしてくださった神王様自らが“豊食”の世界と成った事をアピールされるとは…っ これ程神王様のパーティーに相応しい事はございませんわ!! アタクシ感動致しました!!」
「ふへぇ?」
そんな高尚な事は一切考えていなかったのだが、何故か勘違いされて褒められている。一体どうすれば いいのかわからず間抜けな声が出てしまう。
『落ち着かぬか。ミヤビ様が困惑されておるぞ』
「これが落ち着いていられますか!! 長いこと生きているけれど、“ビュッフェ”なんてスタイル聞いた事もないのよ!? 食料が豊富にあった時代ですら食事メインのパーティーなんて存在しなかったわ! 」
『それはそうだが、お主がそうも興奮しておってはミヤビ様が怖がって離れてしまうぞ』
ヴェリウスがランタンさんを落ち着かせている間に、ロードによって距離を取らされていた。
「ロード、やっぱり人手は必要かもね」
「ん? あ~だな。けど人間は駄目で精霊も駄目となりゃどうにもなんねぇだろ」
「…只人が駄目なら、私が加護? をあげた人間ならいいって事だよね?」
「おい、変な事は考えんなよ? 神王の加護なんてそうほいほいとやっていいもんじゃねぇ。ましてや人間は欲深ぇんだ。ただ人手か欲しいだけで、んな危険な真似してくれるなよ」
意外にも真剣に返されたので、そうだよね…、と頷くしか出来なかった。
こうなったらロボットをウェイターにするしかない。
中世ヨーロッパと近未来なパーティーというよく分からない世界観になるが仕方ないだろう。
「オメェまた変な事考えてんだろ」
「変じゃないよ!? 人手がないならロボットも致し方ないなと思っただけだよ」
「ロボットだぁ?」
訝しげに私を見てくるロードから目をそらせると、マカロンとショコラがファイトしている所が目に入った。
あ~退屈してんのかなぁ。深淵の森ならショコラも仲間の魔獣がいるから退屈しないのに、な、、、
仲間の魔獣……
「それだぁ!!!!」
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