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第二章
イタズラ心
しおりを挟む【ー…ところで貴様は何故ついてくる】
【あ? 俺も“あの方”に用があるんですぅー】
未だ映し出されているホログラムからそんな声が聞こえ耳を傾ける。
“あの方”というのが黒幕なのだろうか。
「ロード、精霊男が誰かに会いに行くみたい。ちょっと見ても良い?」
ヤキモチを妬いているロードに一言断りを入れてから映像に目を向ければ、丁度大きな扉を開ける場面だった。
扉の造りが王宮を思い起こさせる。
植物をモチーフにしたような彫刻が細かく彫り上げられ、凝った意匠に手間暇とお金がかかっている事が分かる。さらに開く時の音にまで重厚さを感じさせ、威圧感がある。
「王様の謁見室の扉みたいだね…」
ボソリと呟けば、睨むようにホログラムを見ているヴェリウスとロードの眉間にシワが深く刻まれた。
【失礼致します】
【失礼しまーっす】
と声を掛けて精霊男達が部屋へ足を踏み入れた時、映像が一瞬乱れたのだ。
多分結果が張ってあったのだろう。
乱れたのはその時だけで、後は問題なく映し出されている。
予想に反して、扉の重厚さとは正反対の真っ白な部屋が現れた時は息を飲んだ。
ピカピカに磨かれぬかれた、真っ白な石畳はまるでウユニ塩湖のように物の影をはっきり表面に写しだし、絶対にスカートで歩いてはいけない場所と化している。
「はーっ何だか神殿みたいなイメージの部屋が出てきた~」
私の中のラノベ的神殿のイメージがまさにこんな真っ白な部屋であった。
『…ミヤビ様、みたいではなくまさに神殿そのものでしょう』
鼻の頭のシワが未だ消えないヴェリウスがそう言うので、やはり黒幕は“神”ではないかという思いを強くする。
「こりゃ完全にどっかの神域だな」
ロードまで真剣な顔をして呟くのでやはりかと納得した。
精霊が絡んできた時点でその可能性が高かったからだ。
『よもや神族が関わっていようとは…っしかも神王様の名まで語るなど許される事ではないっ』
嘆くような、憤るような声音に胸が傷んだ。
ヴェリウスを悲しませるなんて…
ある一定の場所まで進んだ精霊男達は片膝をつき面を下げる。
すると2人の前にホログラムからでも分かる存在感のある何かが現れた。しかし精霊男は面を上げようとはせず、じっと下を見ている為に何が居るのか確認できない。
この圧倒的な存在感から神なのではと推測は出来るが。
【ーー…核は手に入れたのか】
男とも女とも取れない声が響いた。
低くもなく、かといって高くもない声音だ。
【はっ 幻獣と…】
自身の懐から布に包まれた核を取り出し言葉を切る精霊男。それに続いたのがルビー色の男の声だった。
【ドラゴンの核です】
同じように核を出したのだろう。【お確かめ下さい】と声がし、下を向いていた顔を少し上げて体の前に出した核を見ながら喋る精霊男にイラっとした。
何せその角度だと黒幕らしき人物の服、しかも生地しか映らないのだ。チラッとでも足先が映れば人型かそうでないかがわかるのだが、その足先すら白いシルクのような布地で覆われ不確かだ。
更に精霊男はすぐに下を向き目を閉じるので、ホログラムは真っ黒に染まった。
【ーー…っっ 何と愚かな!!】
突然、
動揺しているのか、怒りに震えているのか、かすかに揺れた声を発した黒幕(仮)が気配を絶ち精霊男が慌てて顔を上げた。
勿論そこに黒幕(仮)の姿はあるわけがなく、白い部屋に男女どちらとも分からない声が響く。
【おのれ…! 2年も動かぬと思えばこのように干渉してきおってーー…っっ】
「あちゃあ~、バレてらぁ」
2年も動かないと言うのは明らかに私の事だろう。
『となると、これ以上はボロを出しませんね』
「そうだね。んじゃ、核を回収しておこうかな」
核を回収しておかないとよろしくない事が起こりそうな予感がしたので、ここは自分の勘を信じて回収する事にする。
若干乱れている映像を見つつ片手を体の前に出し願う。すると掌から楕円形の青く輝く宝石と黄色の宝石がマジックのように出てきた。
そう。これこそ幻獣とドラゴンの核である。
当然精霊男らの力は排除済みだ。
ホログラムに目を移せば、慌てふためく2人の姿が映し出されており、ついイタズラ心を刺激されて私の声のみを2人に届けた。
【核は返してもらったよ。それでは失礼。精霊諸君】
勿論こちら側で聞いていたヴェリウス達には大好評で、
『おお!! 先程の意趣返しですね! ミヤビ様っ』
とテンションを上げ、ショコラは《流石です主様!!》と土埃を巻き上げて尻尾を振り続けている。
唯一ロードだけが不満現気な顔をしているのだが、何故だろうか?
「俺の可愛いミヤビの声をあんな奴らに聞かせるなんて…っ」
うん。コイツは相変わらずアレなので放置しよう。
そんな事を思いながら、茫然自失といった様子で突っ立っているルビー色の男の映像と、多分同じ顔をしているであろう精霊男の【な、なん…っ!?】という声を最後にホログラムを消したのだった。
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