異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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第二章

閑話 ある夜の一幕 〈ロードside〉

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ミヤビと暮らしだしたある日の夜の事だ。

いつものように王都の隊舎から深淵の森へ帰って来て、外風呂に浸かり汚れと疲れを落とした俺は、リビングへと移動し愛しい女の姿を探していた。
この時間なら大概ソファでテレビってのを見てるんだが、今日はその姿がねぇ。
丁度窓から帰って来たヴェリウスに聞けば、「部屋に籠って何やらされていたぞ」と言うのでミヤビの部屋へ行ってみる事にした。

階段を上がるとすぐの俺の部屋から上等の酒を一本とり、下から持ってきた2つのグラスを手に隣のミヤビの部屋をノックする。
正直、ミヤビの部屋の前に立つだけで心臓が高鳴る。
今から愛しい女に会えるという喜びで身体も熱くなってきた。

「ミヤビ、居るか?」

緊張しながらもそれを表に出さないよう声をかければ、中からバサバサッと本が落ちるような音がして、バタバタと慌てている気配がする。

「ロード!? 何、どうしたの!?」
「入っていいか? 一緒に飲もうと思ってよぉ」

ミヤビの可愛い声が聞こえた瞬間心臓が飛び上がった。

やっぱりミヤビは声まで可愛いぜ…っこの声で何度ヌイた事か。

「え、あー…リビングで飲む?」

しかし、返ってきた言葉に頭が冷めていく。
明らかに何かを隠しているような固い声で、部屋に入れたくないと遠回しに拒否されたからだ。

おい、まさか浮気じゃねぇだろうな…。俺以外に好きな男でも出来たんじゃあ……。
ここを開けると男がいる…なんてことねぇだろうなぁっっ

そう思うと胸がざわつき、頭に血がのぼってくる。

「ミヤビ、ここ開けんぞ」

思ったよりも低い声が出て自分でも少し驚いた。

「え!? ちょ、待って待って!」

ミヤビの言葉を聞かずに扉を開けて部屋へ踏み込めば、「ギャァァァ」なんて色気のねぇ叫び声(それはそれで可愛いんだが)。それを無視して部屋を見渡す。
もし他に男がいたり、浮気している形跡があったら俺はきっとミヤビを監禁してしまうだろう。

「もうっ何で乙女の部屋に勝手に入ってくるの!?」
「テメェ浮気してるんじゃねぇだろうなぁ」

けれど、浮気の証拠よりもミヤビの姿を見つけてしまえばつい手を伸ばして触れたくなる。
俺の身体は正直で、口では浮気が等と言いながら彼女を抱き寄せていた。
ああ、小さくて柔らけぇなぁ。良い匂いもするし、ずっとこうして腕の中に閉じ込めておきてぇ…。出来るなら今すぐ邪魔な衣服をひっぺがして生まれたまんまの姿で抱き合いてぇっ

「は? 何浮気って?? 私は部屋を片付けてただけだし。そのついでに昔買った薄い本が出てきたから読んでたらロードが入って来たんでしょ」

本だぁ?
良く見るとベッドの上には確かに何冊か本が転がっていた。

「何だよ…本かよ…」

ホッとしたら気がゆるんでミヤビを抱き締めたままベッドに腰掛けちまった。

「う、わっ と…いきなり座らないで!? びっくりしたぁ」

ただでさえ大きな目を見開いて驚いているミヤビが可愛すぎて、瞼にキスをするとビクリと肩を揺らして固まっちまったので優しく背を撫でる。
そりゃあヤれるならすぐにヤりてぇが、まだミヤビの心の準備が出来てねぇからな。それ位は待ってやらねぇと男としてダメだろ。
大切にしてぇんだよ。何しろ滅茶苦茶愛してるからな。

「ロード…飲むんじゃなかったっけ?」
「おう。上等なの持ってきてやったぜぇ~」
「おー! あまり飲めないけど、お付き合いしますっ」

可愛い事を言うミヤビを横に降ろしてから、部屋の入り口に置いてきた酒瓶とグラスを取りに行く。
ずっと酒に弱いと言っていたミヤビと飲むのは今晩が初めてで、楽しみすぎて心臓が痛ぇ。

小せぇ机を移動させてきたミヤビはそこに俺が持ってきた酒とグラスを置いて注ぎ始めた。
口当たりが良い葡萄酒にしたので喜んでくれるといいんだが…。

「赤ワイン!」

グラスに注がれた赤い色の葡萄酒を見てヘラリと笑う様が可愛すぎて鼻血が出そうになる。

酒を注ぎ終えた彼女を膝の上に乗せ抱き締めると、ほんのりと頬が赤くなって俺を見つめるので思わず押し倒しそうになる。
が、そんな事をすればミヤビの事だ。警戒して部屋に入れてくれなくなるに違いない。
それはだけは絶対避けたいとぐっと我慢する。

「乾杯しようぜ」

気分を変える為にわざと明るい声で言えば、「かんぱーい」とグラスを掲げ、俺に笑いかけると葡萄酒を口に含んだ。

赤色の液体が小さい花びらのような唇を濡らし、白く滑らかな喉を通る様子に目を奪われる。

何なんだ…この色気。

「ん? ロードは飲まないの??」

その言葉にゴクリと唾を飲み込み、慌ててグラスに口を付けた。
いつも飲む酒とは違って甘ったるいそれに、胸やけがするようだ。

「甘ぇなぁ…」
「そう? 飲みやすくていいけどなぁ」

誰にともなくつぶやいた言葉を律儀に拾ったミヤビは、そう言ってまたグラスに口を付けた。

無理いって手配してもらった甲斐があったと心の中でほくそ笑む。

実はこの酒、一般人だけでなく貴族にも人気のある酒らしく、生産量も少ない事から手に入れるのが難しいのだ。

葡萄の甘味と香り、そして口当たりの良さで目当ての女を口説き落としたい男共が手に入れようとこぞって買いに走る事から“女神の誘惑”とも呼ばれているんだとか。

確かに愛しい女がこの酒を飲む姿は、まさに“女神の誘惑”だろう。大して飲んでもねぇのにクラクラしてくる程の誘惑ソレに、俺ぁ負けちまいそうだ。

「口当たりがいいからいくらでも入っちゃうね」
「そりゃ良かった。いくらでも飲んでいいぜぇ」

等と飲み交わしてりゃあ、ミヤビは2杯目で顔を真っ赤にさせ、フラフラしている。
今時子供でも2杯じゃ酔わねぇってのに、とんでもねぇ弱さだ。

陶器のように綺麗な肌が真っ赤に染まるとこんなにエロいんだなと、後ろから抱き締めながら思う。

「大丈夫か?」と心配するふりをしながらミヤビをベッドに寝かせている時、心の中は煩悩に溢れていた。
何せここはつがいのベッドの上なのだ。男なら興奮すんのは当たり前だろう。

「うー…」

寝苦しいのか体勢を横に向けたミヤビのうなじが俺を惹き付けてやまない。
匂い立つような色気とはまさにこの事を言うのだろう。
今にも甘い匂いがたちのぼってきそうなそのうなじに、誘惑に負けた俺はとうとう吸い付いちまった。
やべぇと頭の片隅では思っちゃいるが、止められねぇのは男の性か…。




翌日ーー…

「ふぁ~よく寝た。そういえばロードはいつ部屋に戻ったんだろ?」

等と俺の気も知らず、声に出しながら階段を下りるミヤビの首筋にはくっきりキスマークが浮かんでいた。
それを階段の上から眺める俺の顔にはくっきりと隈が出来ていて…。

良かった。何とか本能を押さえる事が出来た。ミヤビに嫌われずにすんだ。

そんな事を思いながらミヤビのいなくなった階段下を暫く眺めたのだった。


理性が本能に勝った昨夜、俺は1人涙を流した。(色んな意味でな)
そして一睡も出来なかった。興奮しすぎて。

翌朝、よくやったと自身を褒め称えていた俺は、その後すぐにバカだったと思い知るのだ。
ヴェリウスによってボコボコにされてな。
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