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第二章
ヴェリウス、帰る
しおりを挟む『ーー…5分。ふむ、昨日より2分もったか。フンッ大した成長はしておらんな』
「っ…ハァッ ハァッ…っるせぇ!! 大体マカロン!! テメェ急上昇は止めろってあんだけ言っただろうがっ 」
《えーだって早く飛べって言ったのはロードさんだよね…イタッ 痛い痛いっちょっと止めて! 僕はショコたん以外に痛めつけられても快感には変えられないよ!?》
飛び立って5分後、ゼェハァ言いながら帰って来たロードは、地面に降り立った途端に崩れ落ちてヴェリウスに鼻で笑われている。体力が回復してくるとマカロンに当たっているらしく、痛がるマカロンの声が聞こえてきた。
『身体強化は難なく出来るくせに何故結界はもたんのか…』
「結界は繊細すぎんだよ…っ紙みてぇに薄いもんを身体の周りに纏わせて長時間キープとか、俺の性格に合ってねぇ事をそう簡単に出来るかっ」
『そんな事は重々承知よ。しかしこれが出来ねばミヤビ様を空の散歩にすら連れていけんぞ』
「ぅぐ…っ」
『それとも何か? 空の散歩もミヤビ様に頼んで結界を張ってもらうか』
「っ…もう一度だ!!」
あれ? 何だかヴェリウスが師匠に見えてきたぞ?
ヴェリウスにのせられてまたもやマカロンの背にまたがるロードに呆れているのか、遠い目をしているマカロン。
頑張るね~と見ていると、ポツポツと降ってきた雨にやっぱりかと思う。
マカロンとロードを置いてヴェリウスとショコラが家の中に入った途端に雨足が強くなり始めた。
「主様ぁ~お昼にしませんか~?」
渡り廊下をぱたぱたと走ってきて離れの扉をトントンと叩き、まだ11時30前だというのにそんな事を言ってくるショコラを可愛いなぁと思いつつ扉を開けた。
「お昼にはまだ少し早いんじゃないかな?」
ショコラを部屋に迎え入れて頭を撫でれば嬉しそうに微笑むのでほっこりする。
その後ろからスルリと扉の隙間を通り中へ入ってきたヴェリウスの首もとも撫でながら窓の外に目をやれば、自身に結界を纏わせたロードがマカロンと共に空へと舞い上がった様が見えた。
「…結構降ってきたね」
『そうですね。この分だと雨が長引くかもしれませんね』
ヴェリウスの返事に「そうだね」と相槌を打ち窓に背を向けると、作りかけの薬を片付けた。
「あの様子だとまだ戻ってきそうにないし、ショコラの言うとおり先にお昼にしよっか」
『では昨日獲ってきて寝かせておいたとっておきの肉を持ってきます。ミヤビ様にも是非召し上がっていただきたく…「あー、それは嬉しいんだけど昨日の残り物もあるし、そんなに沢山食べれないかなぁ~!!」』
ヴェリウスが未だ私に生肉を食べさせる事をあきらめていないので、たまにくる生肉攻撃に冷や汗が出る。
「ヴェリウス様、人型になると生肉よりも調理したお肉の方が美味しく感じますよ」
ショコラがキッパリ言ってしまったので焦る。ヴェリウスはその言葉に目を見開き、『何だと!?』と口をパクパクさせ、段々と怖い表情になってきていた。
「あ~…まぁ、生肉が好きな人もいるから…」
『ミヤビ様は…生肉はお好きですか?』
恐る恐る聞いてくるヴェリウスから目を逸らすと、ギャンッと鳴いた彼女は尻尾と耳を垂らしてフラフラと部屋を出ていってしまった。
ヴェリウスよすまん…でも自分に嘘はつけなかったのだ。
「主様、早くキッチンへ行きましょう?」
ショコラに手を引っ張られて離れから出ると、渡り廊下の真ん中で項垂れているヴェリウスを見つけ、罪悪感がわいてくる。
丸まった背中に声をかけようとした時、ピンッと耳が立ちピクピクと忙しなく動き出した。
どうかしたのだろうか?
『何だと!? “幻獣”が狩られた!?』
バッと立ち上がり叫んだヴェリウスは尋常な様子ではなく、何かがあったのだと分かった。
ヴェリウスの周りの空気がピリピリとし、温度が下がりだす。足元には氷がうっすらはられ、パキパキと音をたてていた。
「ヴェリウス…何かあったの?」
常にない彼女の様子に恐る恐る声をかければ、鼻の頭にシワを寄せたヴェリウスはこちらを見て、私の名を呟いた。
『ミヤビ様…』
金色の瞳が僅かに揺れ、胸がざわつく。
嫌な予感がした。
『…私は急いで西の山に戻らなければならなくなりました』
「え?」
西の山って、確かヴェリウスの実家…じゃなくて、神域だったよね?
「ヴェリウス様…?」
不安そうな表情でショコラが声をかければ、
『ショコラよ、ミヤビ様を頼んだぞーー…』
その言葉と共にパリンッと氷が割れる音がし、雪の結晶が目の前を舞ったと思えば、ヴェリウスの姿はかき消えていた。
ふわりと肌を撫でた風は冷たく、身体がフルリと震えた。
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