15 / 587
どうやら私は神様らしい
しおりを挟む黒犬いわく、私の他に“シンオウサマ”はいないらしい。
成る程、人違いか。
「人違いですけど」
『え……』
黒犬は私の言葉に、時が止まったかのように動かなくなった。
ヤバい。きっと、テンション上げて来たけど人違いだった!! 恥ずかしいっ めっちゃ恥ずかしい!! って思って固まったんだな。
私なら「すみません!!」って逃げる。
昔、ものすごく良い笑顔で「久しぶり~」って声をかけてきた全然知らない人に、あっもしかして!? みたいな顔で話しかけようとしたら自分の後ろに居る人に声をかけてたって事があったけど、あれ並みに恥ずかしいんだろうなぁ。
『あの、貴方様が神王様で間違いありませんが……』
「違います。私は“シンオウサマ”という名前ではありません」
間違いを認めない黒犬に、英語の教科書に載っているような返しをしてしまった。
黒犬は耳をペタンと後ろに倒して、目をうるうるさせ始める。
何か私が虐めてるみたいな雰囲気が漂い始めたぞ。
『神王様で間違いないです……っ 貴方様のお力を感じれば、貴方様が神王様であることは明白です!!』
断定された。
本人が違うというのに、今まで一度も会った事がなかった他人(犬)に“シンオウサマ”だと断定されたんだけど、これは反論すべきなのだろうか?
しかし、チワワのように今にも泣いてしまいそうな顔をしてそんな事を叫ぶので、抱き締めて撫で回したくなる。
大きいので触り甲斐がありそうだ。
『神王様? あの、私の話を聞いていらっしゃいますか?』
私の邪な思いを感じとったのか、一歩引いて話し掛けてきた黒犬に、触りたい願望を引っ込め、ずっと聞いてみたかった事を質問してみようと口を開く。
「そもそも、“シンオウサマ”や“シンジュウ”、“シンイキ”って何ですか?」
黒犬は金色の目を見開き、口を半開きにして私を見た後、何度か瞬きをしてから何かを思い付いたように頷いた。
その仕草がとても可愛らしくて、また撫で回したくなってくる。
『大変失礼致しました』
そう言って頭を下げ、こう続けた。
『神王様がご誕生されて間もない事も忘れ、何もご説明差し上げず無礼の数々……謝っても許される事ではありません。かくなる上は、この身をかっさばいて「ちょっと待ってェェ!?」』
物騒な事を言い出した黒犬の前に、青白い光が集まっているなぁと思ったら、その光が氷の塊になり、パキパキと音をさせながら氷柱のように尖っていく。
最後には巨大な氷の杭となり、空中でピタリと的を狙うよう止まった。黒犬の喉に今にも突き刺さりそうな位置で。
これはマズイと慌てて言葉を遮り止めたのだが、
「何やってんのォ!? ちょ、その氷の杭を下に降ろしなさい! 早まらないでっ」
『神王様にご無礼な事をしてしまった私に、生きている価値はありません!』
「恐い恐いっ その気持ちが重すぎて恐い! というか説明もないまま死を選ばれても困るんですけど!?」
とにかく落ち着いてほしい。そしてきちんと説明をしてほしい。説明もないのに目の前にワンちゃんの死骸とか嫌すぎる。いや、説明があったとしても犬の死骸は見たくないけどね。
この後、私は10分程必死に説得を続けたのだ。
何とか思い止まった黒犬に、“シンオウサマ”や“シンジュウ”の説明をしてもらえるよう促すと、やっと落ち着いたらしい黒犬が、丁寧に教えてくれた。
まず“シンジュウ”だが、魔物にも色々種類があるらしく、その中でも魔獣と呼ばれる種類の者を統括している神様の事を指すらしい。
漢字を当てると“神獣”となるようだ。
ちなみに魔獣とは今私の周りにいる恐竜のような魔物達の事で、ヴェリウスと名乗るこの黒犬は、なんと、神様らしい。
他にもドラゴンやワイバーン、ワイアームのような、トカゲに羽があるタイプの魔物を統括する“竜神”や、魔族を統括する“魔神”等の神々がいるそうで、その全ての神族の王様が“シンオウサマ”なるものなのだそうだ。
漢字を当てると“神王”かな。
で、その“神王様”が2年前にこの“深淵の森”で生まれたらしく、それが私、と……。
「んなわけあるか。こちとら38年の人生を歩んできた一般人だよ」
『神王様です!! 私共神族は“神力”を感じる事が出来ます。神力とは神のみが持つ力。その中で神王様が持つ神力は桁違いなのです。貴方様からはその桁違いの神力を感じるのです。よって貴方様が神王様である事は間違いありません!』
黒犬が必死に食い下がってくる。
とにかく、この黒犬の説明によると、神王様かどうかは置いておいて、神力を持っている私は、驚くことに、異世界に来て“神様”になっていたらしい。
107
お気に入りに追加
2,533
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる