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神王と神獣
しおりを挟む“シンオウサマ”の誕生を祝ってるらしい黒犬だが、“シンオウサマ”とは誰の事だろうか?
周りにいる魔物達の中の誰かの名前だろうという事は分かる。
とりあえず、お手を仕込んでいた爬虫類型の恐竜のような魔物に、“シンオウサマ”? と聞いてみるが顔を横にブンブンと振られ、即否定された。どうやらこの子は“シンオウサマ”ではないらしい。他の魔物にも目をやるが、爬虫類型の魔物と同じように否定される。
おかしい。どこにも黒犬の言う“シンオウサマ”が居ない。一体どういう事なのか。
魔物達にやっていた目を黒犬に移す。途端、嬉しそうに尻尾を振りだした。何だか今にも飛びついて来そうな位テンションが上がっている。
その様子が、死んでしまった愛犬を思い起こさせて涙が出そうになった。
黒犬は興奮した様子でこちらへ一歩近付き、ちょこんとお座りをして私に言った。
『私の名はヴェリウスと申します。“神獣”として、主に魔獣達の管理をしており、神王様の森の西側に位置する、あちらの山を神域としております』
そう言って片方の前足で西を指し示すが、森の木々のせは高く、ここからその山は見えない。
どうやら黒犬には名前があるようで、“ヴェリウス”というらしい。という事は、飼い主がいるのだろう。
そして“シンジュウ”と“マジュウ”、更に“シンイキ”という新しい単語が出てきた。
“マジュウ”は魔物の事かと思われる。漢字をあてると魔獣? なら“シンジュウ”って……魔物を管理してる役職、なのだろうか?
“シンイキ”……わからない事だらけだ。
『神王様がご誕生されてから、お目にかかる日を今か今かと待ちわびておりました。しかし、我が眷属が神王様に先にお目にかかったと聞き、居ても立っても居られず飛び出してきたのです!』
“シンジュウ”の事を色々と考えていれば、黒犬は何故か私にそんな事を言い出した。
しかし姿勢を正して一生懸命言葉を伝えようとしているワンちゃんに、“シンオウサマ”って誰ですか? “シンジュウ”って何ですか? と話を遮って言える程、私は酷い女ではない。
しかしこのまま“シンオウサマ”を知ってますみたいな態度で接していることもできない。どうにか良いタイミングで“シンオウサマ”が誰かを聞き出さなければ。
黒犬はまだ興奮気味に喋っている。
“シンオウサマ”が生まれてすぐお祝いに来たかったんだけど、なかなか行くことが出来ず部下が先に会っちゃって、出遅れた自分は慌てて会いに来たんです。自分、本当に本当に“シンオウサマ”に会いたかったんですよ。部下よりも自分の方が“シンオウサマ”を大切に思ってますからね。信じて下さい!
大体、何で自分より先にお前達が“シンオウサマ”に会ってんだコラァッ
みたいな事を丁寧な言葉で喋り続けている。そして最後の一文は魔物達に向かって吠えていた。
魔物達は黒犬に吠えられた後、私からしぶしぶ離れ、黒犬に頭を垂れた。
この反応からすれば、魔物達は黒犬の部下……眷属という事になるが、なら“シンオウサマ”はどこに居るのだろうか?
周りをもう一度見渡すが、それらしき人物はいない。もしかして私の頭の上、もしくは背後に何かがいるのだろうか。
そう思い、頭の上や背後に手をやるが何も無い。
まさか黒犬にしか見えないようなアレとか?
『あの……神王様? 先程から周りを気にされているようですが、魔獣達がおりますと落ち着きませんか? それとも何か気になる事がございましたか?』
黒犬はどう考えても私に話しかけているように見える。らちがあかないので、タイミング的にも思いきって聞いてみる事にした。
「あの……もしかして、さっきから私に話しかけてマス?」
『え……』
黒犬は私が話しかけると固まってしまった。
金色の目を見開いて私を凝視したまま固まったのでちょっと恐い。
でも、なんで固まったの? やっぱり話しかけていたのは私ではなく違う人だった?
こんな反応されたら不安になってくるんですけど。
『貴方様の他に、神王様はおりませんが……』
どうすればいいのか分からず、ソワソワし出した私に、黒犬は耳を倒し、困ったように尻尾を垂らして言った。
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