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ヤクザでもオカンでもなく、騎士だった

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いかん!完全に餌付けされていた。
ロードを追い出す。それが私の使命なのだ!

……とりあえず、ご飯を食べ終わってからでも遅くはないだろう。



「ここに居ても暇デショ」

この言葉をロードに向かって言えたのは、昼食の2時間後だった。
研究所で薬を作ろうと移動したら、監視が日課のロードもついてきたのだ。

「ん?まぁ、ゆったりとした時間が流れてるとは思うけどなぁ……。ミヤビ、オメェはどうなんだ?」

薬草棚から葉っぱの入った瓶を手に取りながらこっちを見るロードに、こういう生活が気に入っているんだと言えば、そうかと相槌を返されただけだった。

黙ってしまったので、手元のすり鉢で薬草の葉をすり潰していく。それを鍋に入れ、そこへ精製した水を入れて煮込み、トロトロになってきたら濾して冷蔵庫へ入れる。すると液体は固まり、あら不思議。軟膏が出来上がるなのだ。塗れば傷があっという間に消える優れものである。

「なぁ、何作ってんだ?」
「軟膏」
「軟膏だぁ? オメェ魔道具の研究者じゃなかったのかよ」

ガラスで出来た丸く小さな容器に軟膏を詰めていると、手を伸ばしてきて詰め終わった軟膏を手に取り、興味深そうに眺めているロード。

「魔道具の研究もしてるし、薬も作ってんの」
「オメェ薬師でもあんのかよ。そういやぁ、魔物につけられた傷もあっという間に治しちまったよなぁ……」

この世界には薬師という職業もあるらしい。こういう回復薬は案外珍しくないのかもしれない。

しかし、ロードの前だからと面倒な作業をわざわざやっているが、この世界の事をよく知らない私はこの作業に意味があるのかわからない。驚いてる風ではないから、薬師とはこんなものなのだろう。

「結構な量作ってるみてぇだが、オメェ1人でこんなに使うわけでもねぇんだろ。もしかして売ってんのか?」

ロードの言うとおり、研究所の棚に保管してある薬の数だけでも結構な量がある。別の保存庫にも軟膏や飲料タイプの傷薬、錠剤タイプ等々が用途別にラベル付きで保存魔法(?)をかけ置いてあるのだ。
この2年で色々妄想……、想像を膨らませ作ってみた薬達は既に置き場がなくなってきている。

「趣味で作ってるだけだから、売ったりなんてとんでもない」
「趣味だぁ!? どうせこの軟膏も俺にぶっかけたヤツみてぇにすげぇ効果があんだろ? 勿体ねぇ……」
「いや、だってこの辺人来ないし。商売するとか、そんな人と接するような事したくないし」

面倒事しか起きないだろうし。

結局人間というのは皆、欲に忠実な生き物なのだ。類に漏れず私も欲に忠実に生きている。だからこそここに1人でいる。
誰にも遭わずに好きに生きて行く。という事が私の欲の1つなのだから。

「そういやぁオメェ、世捨て人だったな」

私が答えれば、思い出したかのようにそう言ってジト目で見られた。
失礼な奴だと思うがその通りだ。

「そんな世捨て人がいるような森の中に、あんたはよく1人で来たな」

嫌味と、ちょっとした興味で聞いてみたのが悪かったのだろうか。ロードの顔が少し強ばった気がした。

「まぁ…気分転換に、な……」

気分転換でこの森の中に1人入る奴がいるのか。
木漏れ日の中のツリーハウスや手作りブランコがある、可愛いウサギさんとリスさんがいるような穏やかな森ならまだしも、こんな鬱蒼とした魔物のいる森に気分転換って。無理があるだろう。

「……ロードの仕事ってさぁ、ヤクザか、狩人か……騎士?」

最後の一言に身体がピクリと反応した。

やっぱりね……。

森が仕事場の狩人なら気分転換に1人森へ、なんて嘘でも言わないだろう。
口は悪いが気が利いて料理も出来る。集団生活にも慣れているようで、人との距離の取り方も上手い。監視をするような行動や、剣の使い手である事。そして、利になりそうな事に食いつく所をみると答えは自ずと絞られてくる。

大体、出会った当初は革の鎧…にしては簡素だったが、胸当てのようなものを付けて双剣を振るい、巨大な魔物と戦っていたのだ。冒険者じゃないなら選択肢はほぼないだろう。

だから、

「何でそう思う……」

ってただでさえ低い声を更に低くし、唸るように言われても…ねぇ。

それ、自分は騎士ですって言ってるようなもんだからね。

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