転生したら一目惚れしたキャラになっていた

トール

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第2章

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“ミスリーオの迷宮”。
そこはヒルデン公国とノワール国の国境近くにある迷宮だ。
ミスリーオという1000年も前の村だか町だかの遺跡がある事で元々は観光地と栄え、その名を取って“ミスリーオの迷宮”となったのだとか。

見た目は大きくも小さくもないシンプルな洞窟で、下に進んで行くタイプのものらしい。
元観光地とあって周りには至るところに朽ちかけの看板がある。

そんな場所にシン達3人はやって来ていた。

「ねぇ、騎士団を待った方が良かったんじゃない?」

不安そうに2人に声を掛けるチュウ。それにシンは困ったように柳眉を下げ、逆にウィキは眉をつり上げた。

「あのダメダメなギルドマスターがクズ扱いしてた騎士団だぜ。厄介事の匂いしかしねぇだろ」

そうだけどさ…とウィキの言葉に理解は出来るが、さすがにスタンピード前のダンジョンをたった3人で何とか出来るとは思えないチュウは、シンの服を握り何かを訴えるように見つめたのだ。

「はいはい。シンを見つめるの禁止~」

2人をバリッと音がしそうな程一気に引き剥がしたウィキは、唇を尖らせてそれはずりぃわとチュウに文句を言っている。チュウはチュウで、女性の特権よとウィキを睨むものだから口喧嘩が始まるのも時間の問題であった。

「何やってんだ…」

それを仲が良いんだか悪いんだかと嘆息し、止めに入るシンという図はいつもの光景だ。



「…とにかく、このダンジョンに居る魔獣の強さはDランク程度らしい。問題はその数にある。弱い者でも数が集まれば脅威になるものだ。3人しかいないパーティーで無理は出来ない」

シンの言葉に2人が頷くと、迷宮へと挑む為一歩を踏み出したのだ。


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「クソ田舎の迷宮でスタンピードとかたりぃよなぁ」
「冒険者共は一体何してんだって話だよ」
「あーせっかく娼館に行こうと思ってたのに、こんな田舎に派遣されるなんてツイてねーー!!」

シン達が迷宮へと潜った翌日、スマックコールの町へ総勢10人でやって来た騎士達は、文句を言いながらギルドへと赴いていた。
話す事はどれも低俗で、とても騎士とは思えない内容に町の住人は顔をしかめ誰も近寄ろうとはしない。
さらに冒険者を馬鹿にするような事をギルド内で堂々と口にするものだから、ギルド内に居た冒険者にも睨まれていたのだが、彼等は気付いていなかった。

「ミスリーオの迷宮っていやぁ金にならねぇ事で有名だろ。旨味がなんもねぇし」
「どうせ行くなら金目のもんがあるダンジョンが良かったぜ」

騎士が本来ダンジョン内で討伐した魔獣は国のものとなり、個人で売買する事は許されていない。この会話は彼等が素材を横流しし自らの懐をうるわせている証拠なのだが、こういった事が横行しているのは事実で、ヒルデン公国の騎士の質が低い事が分かる。


「すでにAランクのパーティーがミスリーオの迷宮へ向かったとの情報が入った。我々も急いで向かうぞ」

隊長格の男がギルドマスターの部屋から出て来て他の騎士へ伝えると、ギルドから出て行く騎士達に、冒険者とのトラブルが無くて良かったとほっと胸を撫で下ろしたギルド職員達。しかし冒険者達はピリピリしており、討伐が終わった後の事を考えると気が重くなるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ウィキッ前面を凍らせるから一旦下がれ!」

一歩迷宮へと踏み入ったシン達は、コウモリのような魔獣に襲われたが、数の多いそれらをシンは一瞬にして凍らせたのだ。

「さすがシン。こういう小さくてすばしっこい奴等は魔法での対処が一番だよな」

そう思うなら魔法を覚えてくれと、楽をするウィキを睨むが「俺が魔法なんて使えるわけねぇだろ」とどこ吹く風である。
しかしシンは確信していた。
ウィキは火の魔法が使えると。

子供の頃見た“白黒の城”の夢をあれから何度も見ているシンは、あのラストシーンで炎に包まれた城の屋上を思い出し、あの炎はウィキの魔法だったのではないかと考えていたのだ。

演出かと思っていたシンの周りを舞うキラキラが氷の結晶だとしたら、それはシンの氷魔法だろう。そしてチートなシンが魔法でも消せない炎など、同じ魔法でしかない。

“白黒の城”のラストシーンでは、屋上にはウィキとシンしか居なかった。つまりあの炎はウィキの魔法というわけだ。

それが分かってからシンはずっとウィキに魔法を教えようとしているのだが、肝心のウィキがこの調子である。
何年経っても魔法が使えないのは当然なのだ。

「お前にゃ火の属性魔法が使えると思うがねぇ」
「それってシンの勘? でも俺には剣があるしさ~。必要性を感じないんだよなぁ」
「今はそう思っていても、いずれ必要になる」

何度そんな会話をしてきた事だろう。しかしウィキはのらりくらりとかわし続け、とうとう魔法を使えないままここまできたのである。

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