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第2章

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「宿っつってもピンからキリまである。そりゃまだ金には余裕があるから良い宿に泊まってもいいけど、今後の事を考えると節約して行きてぇ」

ウィキの言葉にシンとチュウは頷き先を促した。

「で、このまま何も知らねぇ俺らが宿探ししても良い宿なんて分かんねぇし、最悪ぼったくられんのが落ちなわけよ。そんな時に便利なのが“ギルド”だ」

ウィキ曰く、“ギルド”は仕事の斡旋だけでなく宿の紹介や様々な情報の提供等もしてくれるのだそうだ。更にギルドへ登録している者であれば割引も受けられるのだとか。

シン達はすでにノワール国でギルドへ登録している為にそれが適用される。

彼らがギルドへ登録したのは12歳の頃だった。
“ギルド”それは所謂組合のようなもので、職業別に存在している。農業や商業、工業等のギルドが在る中でもポピュラーなのがシン達の登録している“冒険者ギルド”である。
“冒険者ギルド”は12歳になれば誰でも登録可能で、各国で使用出来る身分証明書替わりの登録証が発行される為4割を超える者が登録しているのだ。
しかしノワール国の国民に関しては、出産するとそれを届け出た時に身分証明書を発行している為最近では証明書替わりに冒険者ギルドへ登録する者は少ない。

そんな冒険者ギルドへシン達は何故登録したかといえば、旅をする時に受けられるそれらの特典が必要だと思ったからに他ならない。

とはいえ、その登録証はリマイン預りとなり現在はエモルト達の用意してくれた身分証明書があるのでそちらを活用しているのだが。

「それじゃあ早くギルドに行きましょうよ」
「ちょっと待て。俺達の登録証はリマイン先生に預けたままだ。父が用意したのはただの身分証明書だろ。登録し直す訳にもいかないだろうが」

シンの疑問ももっともである。
登録証をリマインに預けたままとなると宿の紹介どころかギルドの仕事も受けられないのだ。また無くした訳でもないので再発行すらできない。

「安心しろって。この証明書の左下に“ギルドの印”が押されてんだろ。これ、ギルドの登録証としても使えるって事だから。しかも商業、工業、冒険者、どのギルドでも使用出来る優れものよ」

ウィキの言葉にそういう事は早く言えよと、関所を通る時にも思った事を再度考え深い溜息を吐いたシンに、溜息吐くと幸せ逃げちまうぞと言うウィキ。お前のせいだろうがと言い合いながらギルドへ向かう2人に仕様のない男達ねと1人大人目線のチュウはついていくのであった。


◇◇◇


「ようこそ。冒険者ギルドヒルデン公国スマックコール支部へ」

教会のような建物の中に入ると、右手にカウンターがあり、左手には仕事斡旋の情報ボードのようなものがあって絵馬のようにぶら下がっている。奥へ進むと階段があり、そこから二階へ行くようだ。
どうやら二階は講習を受ける会議室や、素材買い取りカウンターがあるらしい。
混雑する時間ではないのか、建物内は閑散としており、冒険者らしき人物は2、3人程しかいないようだ。
そして冒頭の挨拶をしてくれたのは、右手の受付カウンターに座っている女性であった。

「あ、お姉さん。宿の紹介をお願いしたいんだけど」

慣れたようにウィキが話しかければ、女性はかしこまりました。と頷き登録証の提示を求めてきた。
3人それぞれが先程ウィキから渡された証明書を提示すると問題なく話は進む。
ウィキが宿の条件を伝え、受付の女性が調べている間に仕事斡旋のボードを見に行けば、“採取依頼”から“討伐依頼”まで様々な依頼があった。

初めてギルドに登録に行った時も、シンはこのボードを興味深く見ていた。
なにしろ“討伐依頼”だ。しかも“魔獣”の。興味が湧かないはずがないだろう。

そう。この世界には“魔獣”と呼ばれるモンスターが存在している。
月が2つあるわけでも太陽が2つあるわけでもない地球にそっくりな世界でありながら、魔法や魔獣といったファンタジー要素があるのだ。
かくいうシンも、討伐依頼を受けた事が何度もあり“魔獣”と相対している。

「お、これなんて良いかも」

まるでショッピングしているような気軽さで絵馬のような木の板を手に取るウィキだが、その内容は魔獣の討伐依頼である。

「俺らが向かう街の途中にある村に出没する魔獣討伐だし、良さそうだろ」

彼は“Bランク”相当の依頼をシン達に見せると了承を取り、先程の受付へ木の板を渡したのだ。お姉さん、これも頼むわ。と言って。

冒険者ギルドにはランクというものが存在し、依頼達成数などの実績や評判、試験などを経てランクアップをしていく。ランクによってこなせる依頼も変わっている為、高額依頼は高ランク者がこなすのが実状である。

Sランク→最高ランク。世界でも10人に満たない。

Aランク→王侯貴族の護衛依頼、ダンジョン探索、調査、各国の情報収集等

Bランク→貴族の護衛依頼、ダンジョン探索、オーク等の高レベルの魔獣討伐

Cランク→護衛依頼、ダンジョン探索、魔獣討伐

Dランク→ゴブリン等の人型や熊型魔獣の討伐(猟師レベレ)

Eランク→スライム討伐、採取依頼が主

Fランク→登録時のランク。証明書として使用する者や初級冒険者等。採取依頼や街の雑用等を主にこなす。

※Dランク以上の者は緊急召集がかかればかならず召集に応じなければならない義務がある。

このように仕事を受けられる内容が変わってくるのだが、現在シンとウィキの実力はAランクであった。チュウはBランクではあるが、“パーティーランク”はAランクとなる。

このパーティーというのは冒険者が集まってグループを組み依頼を行う時に使用する名称ではあるが、これにもランクがある。メリットとしては、高ランクの者と組めば低ランクであっても高ランクの依頼が受けられるということだ。
パーティーランクはグループの個人ランクの平均で決められる。

とにかく、シン達の実力は高く高ランク冒険者として活躍しているのだ。つまり…

「“灰色の城”の皆様、恐れ入りますが当支部のギルドマスターが面会を望んでおります。どうか受けていただきますよう…」

このような事も起きるわけで。

「…分かりました」

面倒臭いと顔に書かれているウィキの足を踏みつけ答えたシンこそ、心底面倒だと思っていたのである。
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