19 / 27
第1章
18
しおりを挟む真新しいブーツに、動きやすさを重視した服、腰には愛用の剣を差し頑丈なローブを被る。
嵩張る荷物は“アイテムボックス”といわれる空間魔法の一種である収納ボックスに入れているので持ち物といえば頑丈で軽い素材で出来たバッグ一つ。
残念ながら物語のように無限に入る収納とはいかないようで、シンのアイテムボックスの容量は限りがあり、10畳の広さがある倉庫程度であった。
それでも食料や洋服、テントや寝袋等必要な物を収納してもまだいくらかのスペースは残っているので十分すぎる程なのだが。
勿論状態保存が出来る優れものである。
何とも“チート”な身体だと改めて思う。
ちなみにそんなチートなシンではあるが、使用出来る魔法は水と氷、土、そして空間魔法の一種であるアイテムボックスと浄化魔法のみであった。
どうやら魔法にも相性というものがあるらしい。
土と空間魔法についてはそこまで得意ではないし、浄化魔法といっても汚れを綺麗にする程度のいわば生活魔法である。
旅に役立ちそうだという理由だけでひたすら練習し、やっと習得できたのだ。
シンが魔法で最も相性が良かったらのは水と氷で、これらは生活魔法程度から攻撃魔法まで使いこなせるようになっていた。
さて、そんな旅の準備万端であるシンだが、見ての通り本日晴れの日を迎えた。
成人の日ではない。それはもう済んだ事だ。
そうではなく、今日はシンの新たな第一歩。フラグ回収からの旅立ちの日なのである!!
「清々しい朝だ」
「いや、外は土砂降りだけど? 清々しくはないよね??」
ザーザーと降る雨も、今のシンには晴天にしか感じられない。
何故なら、やっと王になるというフラグを叩き折りこの国から旅立つ事が出来るからだ。
「やっと自由になれる」
「もしもーし、シンちゃん聞いてる~?」
死亡フラグからの解放は、シンをハイにさせる。
傍で同じように旅仕度を終えたウィキの存在を感じられなくさせる程に。
「ちょっとォォ!? 無視なの!? オレここにいるよーー!? 無視は止めて!!」
涙目で懸命に視界に入ろうとするウィキは構ってちゃんな犬のようであった。
「うるせぇ。俺は今自由に浸ってんだから邪魔すんな」
「それオレを無視してでもやりたい事ォォ!?」
「ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇよ」
ウィキのアフロの感触を確かめるように頭を叩けば余計騒ぎ出す。シンはいつもの事だとうんざりしながらも「行くぞ」と二人部屋を出たのだ。
「とうとうか…」
寂しそうなけれどどこか嬉しそうな顔をしてウィキとシンの姿を見るリマインに、二人は「ありがとうございました!!」と頭を下げた。
師として、父親として。
ウィキにとっては勿論だが、王宮と公爵邸で父親と離れて暮らしていたシンにとっては、ずっと傍にいたリマインはもう一人の父親と言っても過言ではない存在だった。
今や騎士団をも凌ぐ剣の腕も、王太子とは思えぬ口の悪さも、そして最高の薬師としての知識も、全てリマインから貰ったものなのだ。
そして今日、シンとウィキはそんな大きな存在から旅立とうとしている。
それはさながら、巣立ちする雛鳥のごとく。
「お前らなら大丈夫だ。エモルトは俺が何とかしてやっから、オメェらは自分の事だけ考えて世界を見てくりゃいい。
行って来い。んで一回りも二回りも成長して帰って来い」
リマインの言葉にちょっぴり瞳が潤んだが、二人は必死に我慢した。男だから。
それに門出に涙は似合わない。
「「はいッッ」」
暗雲立ち込める土砂降りの中、公爵邸の前に横付けされていたチュウの父親が用意してくれていた馬車に乗り込めば、そこには幼馴染の姿が在った。
「おはよう二人とも!」
まさか本当についてくる気かとチュウを見れば、明らかに冒険者仕様の服を着用している。
「約束通りね。シン、ここにある荷物全部アイテムボックスに入れといてよね」
と荷台に詰め込まれた大量の荷物を指差された。
シンは黙ってアイテムボックスへとそれを収納していく。彼女に逆らうとかなり面倒な事になりかねない。
「お前さぁ、本当に来たの? 空気読めよ。ここはオレとシンを二人で行かせるとこだろうが」
「アンタ達を二人きりにさせるわけないでしょ。純粋で綺麗な私のシンをアンタに汚させないわ」
「テメェふざけんなよ。シンはもうオレのシンだから。両思いだからね」
「妄想も甚だしいわ」
コソコソ言い争うウィキとチュウの声はシンには届かない。
彼は馬車の荷台に座り、自分が暮らしてきた屋敷や、回りの景色を瞳に映していた。まるで溢さず記録しておこうというように。
「ウィキ、シン、チュウ」
馬車の外から声を掛けられ、喧嘩していた二人もシンも顔を出す。
そこに居たのはリマイン、チュウの父親、そしてエモルトとオデッド、それにシンの弟であるスティーヴンだった。
「…父上、母上…スティーヴンまで」
母親の腕の中で泣きじゃくっているスティーヴンを涙目であやしながらシンを見つめ、「シン、身体には気を付けるのよ」と優しいく声を掛けてくる母に頷くシン。
「やーっにいしゃますてぃーのしょばいてーーっ」
「スティーヴン…」
暴れて母の腕の中から抜け出したスティーヴンが馬車へと駆け寄ってくるので、シンはヒラリ馬車から飛び降りた。
「危ねぇだろ」
まだ動いていない馬車とはいえ幼子が近づくのは危険な行為といえる。
「にいしゃま~っいかなぁで!!」
「スティーヴン…ごめんな」
可愛い弟を抱き締め、母の腕の中へ返そうと両親の居る場所へ行けば父母に抱き締められたのだ。
突然の事に驚いたシンだったが、暫くは大人しくされるがままでいた。
「どこに居ても、お前が私達の息子である事に変わりはない」
「いってらっしゃい。私達の愛しい子」
こうして各々の親に見送られながら、3人は旅に出たのである。
47
お気に入りに追加
420
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)
三園 七詩
ファンタジー
りこは気がつくと森の中にいた。
なぜ自分がそこにいたのか、ここが何処なのか何も覚えていなかった。
覚えているのは自分が「りこ」と言う名前だと言うこととと自分がいたのはこんな森では無いと言うことだけ。
他の記憶はぽっかりと抜けていた。
とりあえず誰か人がいるところに…と動こうとすると自分の体が小さいことに気がついた。
「あれ?自分ってこんなに小さかったっけ?」
思い出そうとするが頭が痛くなりそれ以上考えるなと言われているようだった。
幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる