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第1章
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しおりを挟む「にいしゃま~!!」
「スティーヴン様!! そちらは危のうございます!!」
パタパタと掛けてくる幼子を世話係だろうか、女性が必死で追いかけている。
幼子は捕まえようとすればチョロチョロと逃げながらシンの居る場所までやって来たのだ。
シンの父であるエモルトがノワール国の王となってから9年。
シンの弟も無事生まれ、先日3歳の誕生日を迎えたのだ。
もちろん美形の両親から生またのは美形の赤子であったが、シンの美の女神のような美しさではなく、どちらかといえば男らしい精悍な顔つきをしていた。
弟の名は“スティーヴン・ドール”。
スティーヴンが兄のシンに魅せられ、ブラコンになるのに時間はかからなかった。
「スティーヴン、訓練場には来るなって言ってあっただろ」
王宮の裏にある訓練場で魔法の訓練をしていたシンは、幼い弟の姿に気付き、手のひらの上に創りかけていた氷の氷柱を消滅させる。
その時に舞い散った氷の結晶が太陽に反射し、キラキラ輝きシンの神秘的なまでの美しさをさらに高めたのだ。
「シンさまぁ~…」ととろとろに溶けた声を出しながら失神した女性を抱き止め、そばにあったベンチへ移動させるとシンは足元の弟を見遣った。
「やーの!! すてぃーはにいしゃまのおしょばいりゅの!!」
絶対に離れないぞと足へ抱きついてくるスティーヴンに眉を下げて目線の高さに合わせるように屈むと弟を見つめた。
「魔法の訓練をしてるんだ。お前が怪我をしたらどうする」
エモルト指導の下、魔法の腕に磨きをかけていたシンは一週間に一度の訓練に王宮を訪れていた。
「…にいしゃますてぃー、きりゃいなの?」
瞳を濡らして上目遣いにシンを見つめるスティーヴンは大変愛らしい。
「そんなわけねぇだろ。俺はスティーヴンが大切だから怒ってんだ」
「すてぃーもにいしゃまだいじよー!! だいしゅきなのー!!」
シンは困ったように笑うとそのまま幼い弟を抱き上げて訓練場を出たのだ。
勿論スティーヴンの世話係は追いかけてきた護衛騎士に頼んだのだが、その騎士までもがシンの美貌に魂を飛ばしてしまったので放置する事にした。
さて、本日15歳の誕生日を迎えたシンの、幼さをわずかに残した顔貌は益々美しさを増し、それに色気が加わって幼い頃は動じなかった侍女頭や執事長、リマインですらも惑わす美貌へと成長していた。
175センチと男性にしては低めの身長は中性的な印象を高め、しなやかな筋肉に包まれた身体はそれでも細い。すらりと伸びた手足と抜群のスタイルはそれだけで人目を引いた。
訓練場のベンチに掛けておいたローブを出てくる時に持って来ていたシンは、スティーヴンを降ろすとそれを羽織りフードで顔を隠す。3年前からの習慣である。
「にいしゃまじょこいく~?」
「父上の所だ」
もう一度弟を抱き上げたシンは足早に王の執務室へと向かったのだ。
勿論息子といえども許可なく王の執務室に入る事は出来ない。
週に一度の魔法訓練は3年前から王の護衛や側近の知るところとなっており、最愛の息子に会いたい病の父は、行き帰りの最低2回は必ず執務室に顔を出すようにとシンに約束させていたのだ。
よってシンが王の執務室を訪ねても何も問題はないはずたったのだが…
「父上、これは一体どういう事でしょうか?」
「とーしゃま~?」
シンが執務室に足を踏み入れた瞬間扉は固く閉じられ、室内には王の側近の他、王妃のオデッド、リマインやウィキ、果てはチュウやチュウの父親までもが集合していたのだ。
「…シンよ、今日は何の日か分かるか?」
父にそう問われ考える。
ウィキやリマインは朝会った時は何も言っていなかったが…と二人を見れば、同じような顔をしてニヤニヤ笑っているではないか。
どうやらこの集まりは計画されていたらしい事を知る。
「……申し訳ありません。国の要人が集まるような心当たりはないのですが一体…」
「!? 今日は私の最愛の息子、お前の成人を祝う日だろう!!」
バンッと両手で机を叩き立ち上がった王は、そう声をあげたのだ。
「は?」
何言ってんだコイツという顔をするシンだが、フードを被っていて表情が見えなかった事は僥倖であった。
息子にそんな顔をされた父親が可哀想すぎる。
「という事で、今夜はシンの成人を祝うパーティーを盛大に行う!!」
高々と宣言をしたエモルトは忘れていたのだ。
シンの美の女神のような美貌を。
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