上 下
12 / 27
第1章

11

しおりを挟む


原作のシン・ドールは15の年には反乱軍へ入り3年後の18歳の頃には反乱軍のリーダー格へと成り上がっていた。さらに20歳で王となり、孤独な人生を歩む事となる。

今のシンは12歳。すでに新国の王太子という立場である。
何故か王への道を最短でかけ上がっている気がしなくもない。
死亡フラグを折りまくってきたが、着実に王に向かって進んでいるという恐怖に「これが強制力か!?」と怯えていた。

15歳になるまでには手に職を付け、この国から脱出するしか道は残されていないのかもしれないと、6歳の頃から薬師で最強の剣士でもあるリマインに師事し、現在薬師の知識をほぼ身に付けたシンは、平行して剣の修行も行っていた。

12の子供がその3倍は生きている薬師の知識をたった6年でマスターしてしまった事も信じられないが、それ以上に剣でもその才を発揮してしまったシンはさすがラスボスパーフェクトヒューマン。天才の枠すらも見事にはみ出す程であった。


「ー…さすがシン・ドール。一度見聞きした事は完璧に記憶する上、身体能力も高すぎる…」

恐ろしい天才児だ。と、教わった事をどんどん自分のものにしていくシンの頭脳と身体能力に恐れおののいている一美シンはここ数日になるが、剣と共にもう一つ習い始めたものがあった。

「しかしこの世界、“魔法”まであるなんて無節操だな…」

右手の人差し指を立て、その先にシュルシュルと何かが楕円形に形作っていく。そして最後にチャポンッと音をたてて出来上がったのは…ピンポン玉程の大きさの水球であった。

人差し指の上で浮いている水球をピンッと弾くと、それはぽーんと弧を描き3メートル程離れた花瓶の中へと飛び込んだ。
トプンッと音をたてて沈み、水球はただの水になり、それを吸収した花は艶々と輝き出す。

「う~ん…シン・ドールに魔法を使える設定なんて無かったような…もしかしたら第2部でそんな話が出てくるとか…? 死んだのに??」

そんな事を考えながら、自身の手をじっと見つめているシンは、今“魔法”というファンタジーなものも習い始めたばかりなのだ。

原作では魔法などほとんど出てこなかったのだが、最近ごく一部の者がそれを使用出来る事を聞き、習い始めたというわけだ。


きっかけは自身が森で魔法を放ってしまった事だった。





いつものようにドール公爵邸の裏の森に、ウィキ、チュウと共に入り薬草を採集していた時だった。


「あ~…このジネンジュとかいうの、なんっでこんなに深く地面に埋まってんだよ!! 毎回毎回、掘るのもしんどいっつーの!!」

ジネンジュは乾燥させて粉にすると腹痛に効く薬になる。
しょっちゅう変なもんを食って腹を下すウィキには無くてはならないものだった。
しかしこれが地中深くまで根をはり、かなり掘らなければならない植物で、採取が大変なものでもある。
そう、ジネンジュとはあの長芋の自然薯に大変よく似た植物であった。

「仕方ねぇだろ。途中で折っちまったら効能が半減するんだ。傷つけないように頑張って掘るしか採取する方法はねぇ」
「そうよ。文句言ってないで手を動かしなさいよ!」
「だーっクソッ こんな時“魔法”が使えりゃ便利なのによぉ」
「何お伽噺のような事言ってんのよ。幼い子供じゃあるまいし」

ウィキの一言に反応したシンだったが、チュウの返した言葉に息を吐く。

「あのなぁ、お伽噺って言うけど“魔法”を使える奴は実際居るって噂だぜ~」

疲れたのか掘るのを止めて語り出したウィキの話は、シンにとっては興味深いものだった。

「“魔法”って、本当に存在すんのかよ?」
「ちょっと! ウィキのせいで純粋なシンが信じちゃったじゃない!!」

チュウが怒り出したので、何だ、やっぱり夢物語かと思うシンに、ウィキが予想だにしない事を言い出した。

「いやいや、オレ聞いちゃったんだよね~。父ちゃんとシンの父ちゃんの話」

泥だらけの手をはらい、その手を頭の後ろに組むとニヤニヤ笑い始めたウィキをシンとチュウは訝しげに見た。

「この間シンの父ちゃんがシンに会いに屋敷に顔を出しただろ。そん時にさ、父ちゃんと二人執務室で真面目に話してたから、ちょ~っとイタズラしてやろうと思って、そぉ~っと中を覗いたんだ」
「あんた何バカな事やってんのよ」

そう言いながらもチュウは早く続きが聞きたいとばかりにウィキに顔を近付けた。

「そしたらさ、シンの父ちゃんがこう指をチョイチョイって動かしてて…そしたら、ボッってこんくれぇの“火”が出てよぉ!」

ウィキは興奮したように指の動きと火の大きさをジェスチャーする。火の大きさは苺程の大きさのようだ。

「それを皿にポンって置いて紙を燃やしたんだよ!! 凄くね!?」

話ながらその光景を思い出したのか、興奮しているウィキ。それを爛々と輝く瞳で聞いているチュウは勢いよく首を縦にふっている。
シンはというと、自分の父親が魔法を使えるという事に驚いていた。


「シンのお父様が魔法を使えるなら、シンも魔法を使えるんじゃない!?」

言い出したのはチュウだった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界に転移したけどマジに言葉が通じずに詰んだので、山に籠ってたら知らんうちに山の神にされてた。

ラディ
ファンタジー
 日本国内から国際線の旅客機に乗り込みたった数時間の空の旅で、言語はまるで変わってしまう。  たった数百や数千キロメートルの距離ですら、文法どころか文化も全く違ったりする。  ならば、こことは異なる世界ならどれだけ違うのか。  文法や文化、生態系すらも異なるその世界で意志を伝える為に言語を用いることは。  容易ではない。 ■感想コメントなどはお気軽にどうぞ! ■お気に入り登録もお願いします! ■この他にもショート作品や長編作品を別で執筆中です。よろしければ登録コンテンツから是非に。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...