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第1章
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しおりを挟む原作のシン・ドールは15の年には反乱軍へ入り3年後の18歳の頃には反乱軍のリーダー格へと成り上がっていた。さらに20歳で王となり、孤独な人生を歩む事となる。
今のシンは12歳。すでに新国の王太子という立場である。
何故か王への道を最短でかけ上がっている気がしなくもない。
死亡フラグを折りまくってきたが、着実に王に向かって進んでいるという恐怖に「これが強制力か!?」と怯えていた。
15歳になるまでには手に職を付け、この国から脱出するしか道は残されていないのかもしれないと、6歳の頃から薬師で最強の剣士でもあるリマインに師事し、現在薬師の知識をほぼ身に付けたシンは、平行して剣の修行も行っていた。
12の子供がその3倍は生きている薬師の知識をたった6年でマスターしてしまった事も信じられないが、それ以上に剣でもその才を発揮してしまったシンはさすがラスボスパーフェクトヒューマン。天才の枠すらも見事にはみ出す程であった。
「ー…さすがシン・ドール。一度見聞きした事は完璧に記憶する上、身体能力も高すぎる…」
恐ろしい天才児だ。と、教わった事をどんどん自分のものにしていくシンの頭脳と身体能力に恐れおののいている一美はここ数日になるが、剣と共にもう一つ習い始めたものがあった。
「しかしこの世界、“魔法”まであるなんて無節操だな…」
右手の人差し指を立て、その先にシュルシュルと何かが楕円形に形作っていく。そして最後にチャポンッと音をたてて出来上がったのは…ピンポン玉程の大きさの水球であった。
人差し指の上で浮いている水球をピンッと弾くと、それはぽーんと弧を描き3メートル程離れた花瓶の中へと飛び込んだ。
トプンッと音をたてて沈み、水球はただの水になり、それを吸収した花は艶々と輝き出す。
「う~ん…シン・ドールに魔法を使える設定なんて無かったような…もしかしたら第2部でそんな話が出てくるとか…? 死んだのに??」
そんな事を考えながら、自身の手をじっと見つめているシンは、今“魔法”というファンタジーなものも習い始めたばかりなのだ。
原作では魔法などほとんど出てこなかったのだが、最近ごく一部の者がそれを使用出来る事を聞き、習い始めたというわけだ。
きっかけは自身が森で魔法を放ってしまった事だった。
いつものようにドール公爵邸の裏の森に、ウィキ、チュウと共に入り薬草を採集していた時だった。
「あ~…このジネンジュとかいうの、なんっでこんなに深く地面に埋まってんだよ!! 毎回毎回、掘るのもしんどいっつーの!!」
ジネンジュは乾燥させて粉にすると腹痛に効く薬になる。
しょっちゅう変なもんを食って腹を下すウィキには無くてはならないものだった。
しかしこれが地中深くまで根をはり、かなり掘らなければならない植物で、採取が大変なものでもある。
そう、ジネンジュとはあの長芋の自然薯に大変よく似た植物であった。
「仕方ねぇだろ。途中で折っちまったら効能が半減するんだ。傷つけないように頑張って掘るしか採取する方法はねぇ」
「そうよ。文句言ってないで手を動かしなさいよ!」
「だーっクソッ こんな時“魔法”が使えりゃ便利なのによぉ」
「何お伽噺のような事言ってんのよ。幼い子供じゃあるまいし」
ウィキの一言に反応したシンだったが、チュウの返した言葉に息を吐く。
「あのなぁ、お伽噺って言うけど“魔法”を使える奴は実際居るって噂だぜ~」
疲れたのか掘るのを止めて語り出したウィキの話は、シンにとっては興味深いものだった。
「“魔法”って、本当に存在すんのかよ?」
「ちょっと! ウィキのせいで純粋なシンが信じちゃったじゃない!!」
チュウが怒り出したので、何だ、やっぱり夢物語かと思うシンに、ウィキが予想だにしない事を言い出した。
「いやいや、オレ聞いちゃったんだよね~。父ちゃんとシンの父ちゃんの話」
泥だらけの手をはらい、その手を頭の後ろに組むとニヤニヤ笑い始めたウィキをシンとチュウは訝しげに見た。
「この間シンの父ちゃんがシンに会いに屋敷に顔を出しただろ。そん時にさ、父ちゃんと二人執務室で真面目に話してたから、ちょ~っとイタズラしてやろうと思って、そぉ~っと中を覗いたんだ」
「あんた何バカな事やってんのよ」
そう言いながらもチュウは早く続きが聞きたいとばかりにウィキに顔を近付けた。
「そしたらさ、シンの父ちゃんがこう指をチョイチョイって動かしてて…そしたら、ボッってこんくれぇの“火”が出てよぉ!」
ウィキは興奮したように指の動きと火の大きさをジェスチャーする。火の大きさは苺程の大きさのようだ。
「それを皿にポンって置いて紙を燃やしたんだよ!! 凄くね!?」
話ながらその光景を思い出したのか、興奮しているウィキ。それを爛々と輝く瞳で聞いているチュウは勢いよく首を縦にふっている。
シンはというと、自分の父親が魔法を使えるという事に驚いていた。
「シンのお父様が魔法を使えるなら、シンも魔法を使えるんじゃない!?」
言い出したのはチュウだった。
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