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第1章
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しおりを挟むエモルトがノブラン国を攻め落とし、ノワール国とするまでに4年かかった。
すんなり行くと思われていたノブラン国への侵攻であったが、ノブラン国王は城へ攻め込むもすでに逃亡した後で、方々を探索したが見つからず終い。敵に回った貴族達も散り散りになり、処分に手を焼かされる事となった。
ノブラン王とその右腕であったハリヤ・ヘッター侯爵以外を処分し終えたエモルトだったが、ここで予期せぬ事が起きた。
元ノブラン国民の手によってノブラン国の城は更地にされ、“新国ノワール”の城がドールの領地に新たに建設され、ノワール国の王都とされたのだ。
ノワール国民は、新たな王の誕生…いや、王の“帰還”に大いにわいていた。
それから2年。シンが薬学、剣術をリマイン、帝王学をエモルト、その他を母に学び始めてから6年の歳月が経っていた。
シンは両親と共に城へ移り住む事はなく、相変わらずドール公爵家にリマイン、ウィキと共に暮らしていた。
「シン! お前“鷹ノ巣亭”のミラちゃんをたらしこんだって本当かよ!?」
「はぁ?」
その髪と同じように怒りで顔を真っ赤に染めたウィキは、ドール公爵家の裏庭で剣を片手に素振りをしていたシンに詰め寄った。
「“鷹ノ巣亭”の看板娘のミラちゃんだよ!! あの美少女コンテストで優勝したミラちゃん!!」
ぐいぐい詰め寄ってくるウィキは怒り心頭といった様子である。
「? 何を言ってるのか知らねぇが、俺は“鷹ノ巣亭”にチュウと飯を食いに行っただけだ」
「っチュウと飯だぁ!? テメェふざけんなよ!? 何でオレに一言もなくチュウと飯に行ってんの!? 普通オレにも声かけんだろ!!」
ウィキの怒りの矛先が仲間はずれにされた事に変わり、シンは呆れて素振りをしていた剣を鞘に戻す。
その様子に気をとられたウィキはハッとして、またもや怒りを募らせた。
「何でオレも誘わねぇの!?」
「…お前、そん時他の奴らと東通りの酒屋で働く女を見に行くって、嬉々として出掛けてったろ」
「え!? そ、そん時の事なの? マジで? いや、だってすげぇ美人だって評判だったからつい…まぁ実際は大したことなかったけどよ(あんな程度なら敵になんねぇわ)」
どうでもいい情報を聞かされたシンは、清潔な手拭いで汗を拭うと歩き出した。
やはりその様子に見惚れてしまうウィキはブンブンと首を振って追いかけた。
12歳になったシンは益々美しさに磨きがかかり、容姿だけでなくそのスタイルさえ人間を超越しており、屋敷以外では常に外套を羽織ってフードを被り過ごさなければならないという罰ゲームのような状態に陥っていた。
何故なら10歳の頃初めて外出した先で、その美しすぎる容姿が理由で拐われかけるという大事件が起きたからだ。その後も頻繁に誘拐や性的暴行未遂事件などがあり、本来ならば外にも出してもらえない所を、自身で身を守れるようになったからという事もあり、パニック防止の外套を付けてならばという条件で外出できるようになったというわけだ。
「お前まさかフード取って飯食ってたんじゃねぇよな!?」
シンの後をひよこのようについて回りながら、最近益々ボリュームアップしたアフロを押さえつけるように両手を頭の上で組みブツブツ言ってくるウィキに嘆息する。
「取るわけねぇだろ。大体そのミラちゃんとかいう子にも会ったかどうかすら覚えてねぇし」
市井の子供達と接触するうちにすっかり乱暴な口調になってしまったシンだが、ウィキとチュウはそこがまた可愛いのだと親バカのように思っている。
「じゃあ何でミラちゃんがシンに惚れてるって噂が流れんだよ!? 王都の美少女コンテストで優勝する程の美少女が(オレの)シンに惚れたとか、そんなん許せねーー!!」
ウィキの叫びに、コイツ本当に惚れっぽいなと思いながら苦笑するシンは、前世の記憶のせいで女性に興味が持てなくなっていたのだ。何せ前世はその女性だったのだから。
「ただの噂だろうが。大体お前、そのミラちゃんの前は西通りの雑貨屋のリリィちゃんで、その前は宿屋の娘のアンちゃんとか言ってなかったか?」
「ったりめぇだろ!! 噂の美少女は(シンに手を出してきた時ぶっ潰す為に)皆調べとかねぇとダメだろうが!!」
気合いを入れたその眼差しに呆れつつも、この年頃の男の子は皆こんな感じかと納得し笑ってしまう。
「お前って本当…可愛い奴だな」
クスクス笑いながら屋敷の中に入るシンに、ウィキは顔を真っ赤にした。
今度は怒りではなく照れで。
「ほ、本当にそう思う!? オレ、可愛いより格好良い男になりたいけど、まぁ今はそれでもいいっていうか!? ってか本当にそう思ってくれてる!?」
「はいはい。可愛い可愛い。お前はモテる男だよ」
「何か投げやりじゃね!? なぁ、お前は可愛い男は好き? なぁ、聞いてる!?」
「聞いてるって。好きだからまとわりつくんじゃねぇよ」
2人のどこかズレたこんな会話を聞きながら、ルンルンと掃除をする侍女達の顔はニヤけていたのだった。
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