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第1章

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「何よこの赤毛のアフロ。カツラ?」
「地毛だよ!! 後アフロじゃねぇから。スパイラルパーマだから」

シンの部屋の扉の前で、腕を組んで仁王立ちしているチュウは、顔をしかめてウィキの頭を見ていた。
シンはスパイラルパーマでもないだろうと思いながら、チュウとウィキの初対面を眺めている。

「チュウ、父の友人の薬師リマイン・テーラ殿の甥でウィキ・テーラだ。昨日我が家にやって来た。ウィキ、俺の友人でカーン商会の一人娘、チュウ・カーンだ」

それぞれに簡単に紹介すると、ウィキが目を見開きチュウを見た。

「ぅげっカーン商会ってあの有名な大商会の!?」

等と大袈裟に騒ぎだし、また金持ちのガキかよ…とブツブツ言い出したのだ。

「リマイン・テーラって伝説の薬師じゃない!! ウチでもリマイン・テーラの配合した薬を買い取りさせて貰いたいって必死に探したのに行方が分からなかった人よ!?」

何で教えてくれなかったのよ、とシンに詰め寄ってくるチュウに後退するシンの顔は完全に引きつっていた。

「シンに顔近付けるんじゃねぇよ」
「ぅわっ」

 チュウが仲良さげにシンに顔を近付けている様にムッとしたウィキは、そう言ってシンの腕を引っ張り自身に引き寄せるとチュウを睨んだ。
それにムッとしたのはチュウだった。
今まで独り占めしていたシンが、どこの馬の骨とも知れぬ赤毛アフロに取られた気がしたのだ。

「あんたこそシンを離しなさいよ」

ガシッとウィキとは反対側の手を掴み引っ張りだすチュウに、焦ったウィキも取り返そうと引っ張るが、当然シンは両側から引っ張られて痛いし意味が分からないしで困惑していた。

「離した方が本当の親だ!!」

その突然の大声に驚いたのか、シンの腕をパッと離すウィキとチュウに、ガハハハと笑い声が落ちてきた。

「お前らシンの親だったのか?」

と豪快に笑いながら現れたのは、ウィキの叔父であるリマインであった。

「親父!! 何だよ突然っビックリすんだろ!!」

小さい頃から育てられている為か、自身の叔父と理解していながらもリマインを“親父“と呼ぶウィキは、本当に父親のように思っているのだろう。

「ガハハハ。お前らがシンを取り合ってるからついなぁ~」
「な、ばっ、取り合ってねぇし!!」

リマインの言葉に顔を真っ赤にして誤解してんじゃねぇよと叫ぶウィキは子供らしく大変可愛らしかった。
チュウも頬を赤く染めて俯いている。

「シンはモテモテだな!」

とデリカシーのない一言に子供らはますます真っ赤になり、当のシンはというと、リマインの言葉に首を傾げるばかりで、それもまたリマインの笑いを誘うのであった。




「親父、一体何しに来たんだよ」

顔の熱が収まった頃、わざわざシンの部屋にやって来た自身の叔父へ向け質問すれば、リマインは可愛い甥っ子にニカッと笑顔を向けて言葉を発した。

「おう、そうだった。ちょいとシンを借りてくぜ~」

ひょいっとシンの身体を抱き上げると、まるで米俵を担ぐように肩に乗せて歩きだすリマインに、シンは何が起きたのか理解出来ずただただ大きな瞳を更に大きくするしかなかったのだ。
シンを呆然と見送った2人の子供も、何が起きたのか暫く理解できないでいたが、気づいた頃には愛しのシンはかっ拐われた後であった。
遅れて「おーーやーーじぃーー!!!!」というウィキの怒声と、「シンーーー!!!!」というチュウの悲鳴が屋敷に響き渡ったのは言うまでもない。


「さて、シン。お前は薬師になりてぇんだってな」

屋敷の離れに連れて来られたシンだったが、リマインの肩から降ろされてキョロキョロしていると顔を覗き込まれて、そう問われた。

ここはどうやらリマインの研究室として用意されたらしい部屋だと気付いたシンは、とりあえず姿勢を正すと力強く頷いたのだ。

「はい。俺は薬師になって、貴方のように世界を旅して苦しむ人を救いたいんです!!」

シンの目の前にいる熊のような男は、リマイン・テーラ。
世界中を旅し、どんな病も傷も調合した薬で治してきたという伝説の薬師であった。

そしてシンは、自分の死亡フラグを折る為にこの国を出ようと考えていた。
そうすると、仕事は世界中どこでも必要とされ食いっぱぐれのない薬師が一番良いのではないかと考えたのである。世界を旅する理由も出来るし、と。
父親にはそれとなく伝えていたのだが、まさかこうも早くにチャンスが巡ってくるなんて! と瞳を輝かせて不純な動機を隠し答えれば、リマインは少しだけ瞳を曇らせて言ったのだ。

「お前が考えている程甘くはないんだぞ。救えねぇ奴は山程いるし、お前のせいで死んだんだと責められる事もある。お前には他にも選択出来る職業は山程あるんだ。それでも薬師を選ぶのか?」

と。
シンはじっとリマインの瞳を見つめた。
数えきれない程の人の死を目にし、辛い目にも悔しい目にも、理不尽な目にだって何度もあってきたのだろう。
それでも薬師で居続けるリマインに、興味がわいたのは確かだった。

「俺は、貴方のような薬師になりたい」

リマインの事をよく知りもしないのに、勝手に口をついて出ていた言葉はこの後のシンの運命を大きく変える事になるのだが、本人は当然、知るよしもないのである。
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