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第1章

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おかしい。
ドール家の死亡フラグを回収しただけでここまで話の内容が変わるとは…もはや別物だ。

夜、誰も居ない自身の部屋のベッドの上で独り、唸りながらゴロゴロとそんな事を考えているシンの姿は、やはり美しかった。
例え鼻をほじろうが、いびきをかこうが、何をしようが容姿が美しいものは変わらず美しいのだ。


シンの父であるエモルトは、反乱軍であった者達をすでに纏めあげ、悪政に苦しめられていた民を解放しながら王都へと徐々に進軍している。
さらに反乱軍はすでに反乱軍ではなく、“別国の正規軍”だと民には認識されているのだ。
ドール家が独立した際に周辺を巻き込んで独立国としてしまった。その国の名は“ノワール”

当座の統治はエモルトが行う形だが、将来的には民主主義となる予定なのだとか。それをノワール国民が望めば、の話だが。

つまりエモルトは今や“ノワール国”の国王で、シンは王太子という事になる。

“白黒の城”ではドール一族は処刑され、生き残ったシンが反乱軍へと入り、主人公達と切磋琢磨して正規軍を破り“ノブラン国”の国王となるのだが、まず反乱軍入りというシンの死亡フラグ第一歩が潰えたという事になるのだ。

シンとしてはそれは大変喜ばしい事であったが、一国の王にはぐんぐん近付いてしまっている気がして不安でたまらないというのが正直な思いであった。

「あーーッもう、どうしたらいいんだよっ」

エモルトの人望を考えれば、ノワール国を民主主義にと言い出しても国民がそれを許してくれない気がする。しかも分が悪い事に、実は本来ノブラン国の国王になるのはエモルトであったのだ。
というのも、数代遡ればドール家はノブラン国の王族として君臨していた。

現国王の先祖である者に裏切られ殺されるまでは。

そう。数代前のドール王は、当時最も信頼していた部下に騙され殺された挙げ句に、ドールの気質は元来奔放であるらしく、自由を好んだ。ドール王はその気質が強かったのか、当時右腕であった部下に国を任せ出奔してしまったのだそうだ。と、それがさも真実であるようにドール王の印付きの手紙を偽装され、ドール一族はその責を負って公爵へと地位を落とされたのである。勿論その部下が現ノブラン国王の先祖であるのだが。

しかし王族でもない部下が何故国王になれたのか…それはドール王の妹姫を妻にしていたからに他ならない。
しかし、妻を殺し愛人の子を妹姫の子だとして次の王位に添えた事もあり、現ノブラン王族にドール家の血は一滴たりとも流れてはいない。

そんな事もあり、ノブラン国王を打ち破れば正統な王家だなんだとまつりあげられ、結局同じ運命を辿るのではないかというのがシンの懸念している事でもある。

ベッドの上で何度目かの溜め息を吐き出した時、バルコニーに続く窓にコツンと何かが当たる音がしたのだ。

「…何だ?」

不思議に思ってカーテンを開けバルコニーを覗くが何も無い。

「気のせいか…?」

そう思い戻ろうとした時、またもやコツンと窓に何かが当たる音がしたのだ。よくよくバルコニーの床を見ると、小粒の石が数個転がっている。

毎日掃除しているのだから、石一つ無いはずなのに…と訝しげに思っていれば、今度は窓に同じような大きさの石が当たって跳ね返り、床に落ちたのだ。

シンはやっと、誰かが石を投げているのだと気付き恐る恐るバルコニーへと出た。

2階のバルコニーから下を見下ろせば、そこには今にも石を投げようとしている赤毛のくるくるヘアーが居た。

「…何やってんだ」
「あ、やっと顔出した」

石をざらざらと下に落とし、また上を見上げた赤毛のくるくるヘアーこと主人公、ウィキ・テーラは、そばかすだらけの顔でシンにニカッと笑いかけたのだ。

「いや、どんだけ石投げようとしてんだよ」

石を大量に落とした音が耳に届き、呆れた声を出すシンは猿のように壁をよじ登りバルコニーの手すりに手をかけ、ピョンっと飛び込んで来たウィキに目を丸くした。

「暇だから遊びに来てやったぞ」

普通なら不審者として殺されていてもおかしくない行動だが、何だかウィキらしい気がして噴き出してしまう。
今日会ったばかりだというのに、ウィキらしいとは変かもしれないが、“白黒の城”を観ていたファンなのだから許してほしい。などと誰に許しをこうているのかわからないような事を思いながら、ウィキを部屋の中へと案内する。

ウィキはクスクス笑うシンに、胸をドキドキと鳴らしながらその後をついて行く。その顔は耳まで赤かったが、光の反射でシンには顔色までわからなかった。

「ドアから入って来いよ」

と美しい声で言われるが、シンに会いに来た事を誰かに見られるのが恥ずかしくて嫌だったのだとは言えず、唇を尖らせたウィキは

「だって退屈だったしー」

と頭の後ろに両手を組んで天井を見たのだ。

そう、ウィキ・テーラは同性であるシン・ドールに一目惚れしてしまったのである。
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