6 / 27
第1章
5
しおりを挟む熊だ…2メートル超えの赤毛の熊と、くるんくるんにカールされた赤毛の子熊が居る。
2人を初めて目にしたシンの心境は、TVで観ていた芸能人に道端でばったり会ってしまった時に近いかもしれない。
心は高揚し、うわ~本物だぁ等と思いつつも遠くからただ凝視してしまうだけの田舎者のアレだ。
そして心の中で以外と○○だな。と思うそれが、シンにとっては熊だった。
そう、今シンの目の前に居るくるんくるのカールな赤毛の子熊は、“白黒の城”の主人公、“ウィキ・テーラ”その人であった。
いつも通り部屋に籠っていたシンだったが、昼前に突然父親であるエモルトに呼ばれ連れて行かれた応接室に居たのが、ウィキ・テーラとその叔父リマイン・テーラであった。
主人公の特徴であるくるんくるんにカールされた赤毛はアフロに近いボリュームを持ち、半分閉じかけの瞳は眠そうな印象を与える。そばかすの散った肌は子供らしさを引き立て可愛らしい。黄ばんだ白いシャツに、濃い緑(一見黒に見える)の繋ぎのパンツをはいた何ともカントリーチックな子熊…主人公は、“白黒の城”のメインキャラクターの中でも特に平凡な顔立ちをしていた。
「おおっこの子がお前の子か!! 手紙をもらった時は何を親馬鹿な事をと思っていたが…これはまさに美の女神の化身だな!!」
見た目通りの大きな声で、シンを見て発した一言に、シンの父エモルトはドヤ顔で頷いた。
「そうだろう、そうだろう。私の息子は世界一美しいのだ!!」
「ハッハッハッ!! 普通親父がそんな事を言えば気持ち悪いだけだが、これは分からんでもない!!」
「そっちこそ、ウィキ君はお前の幼い頃にそっくりだな 」
「そうなんだよ! 髪は親父似で、顔立ちは俺似でなぁ~。コイツも悪ぃ所ばっかりテーラ家の男譲りで困ったもんだ!!」
「テーラ家は馬鹿ばかりだしなぁ!」
「いや、お前言って良い事と悪い事があるからな」
「本当の事だろうが。私がお前達兄弟のせいでどれ程迷惑を被ったか」
などと親父共がはしゃいでいる中、お互いに凝視していたシンとウィキはというと…
「…おい、お前鼻血が出てるぞ」
「ハッ!? ちがっこれはアレだよ!! さっき鼻ほじった時に深追いしちまっただけだし!!」
人が目の前で鼻血を吹いて倒れるなど日常茶飯事であるシンは、コイツもか、と頬を赤く染めて鼻血を足らすウィキに呆れていた。主人公と言っても他と同じ反応なんだなと。
しかし、鼻血を指摘した時の主人公の反応に呆気にとられる事となる。
一方ウィキはといえば、やはり美しすぎるシンに見惚れていたのは間違いない。
世の中にこんな美しい人がいるのか。自分は立ったまま眠ってしまって夢でも見ているのだろうか。と頬をつねりながら目の前にいる美の女神を凝視していた。
え? 世の中にいる人間って、熊みてぇなおっさんと、豚みてぇなおばさんと、ゴボウみてぇな姉ちゃんと、汗くせぇ兄ちゃんで構成されてんじゃねぇの?
何コイツ、やべぇんだけど。後光がさしてキラキラしてんじゃねぇか。
天使? にしちゃあ羽はねぇ…なら女神? 女神でもここまで綺麗な女神っているの? あ、美の女神か。納得。ってんな訳あるか!! ここ地上!! こんな汚ねぇ場所に女神がいるわけねぇだろ。って居るわ。目の前に居たわ。
というわけのわからない思考に囚われ、沸騰した脳ミソはウィキの許容範囲を超え、興奮と合わさった結果の鼻血であった。
しかしウィキのなけなしのプライドがそれを素直に伝える事を阻み、鼻をほじって深追いしたというもはやそちらの方がダメだろうという言葉を発してしまったのである。
「ふ…っ くくっ」
ウィキのお馬鹿な言葉に可笑しくなって噴き出してしまったシンは、クスクス笑うと呆気にとられているウィキに手を差し出した。
「オレの名はシン・ドール。よろしくな」
「っ…俺はウィキ・テーラ。よろしく…」
おずおずとシンの手をとったウィキは、シンが思ったよりもずっと力強く手を握り締めたのだった。
42
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる