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第1章

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熊だ…2メートル超えの赤毛の熊と、くるんくるんにカールされた赤毛の子熊が居る。

2人を初めて目にしたシンの心境は、TVで観ていた芸能人に道端でばったり会ってしまった時に近いかもしれない。
心は高揚し、うわ~本物だぁ等と思いつつも遠くからただ凝視してしまうだけの田舎者のアレだ。
そして心の中で以外と○○だな。と思うそれが、シンにとってはだった。

そう、今シンの目の前に居るくるんくるのカールな赤毛の子熊は、“白黒の城”の主人公、“ウィキ・テーラ”その人であった。



いつも通り部屋に籠っていたシンだったが、昼前に突然父親であるエモルトに呼ばれ連れて行かれた応接室に居たのが、ウィキ・テーラとその叔父リマイン・テーラであった。

主人公の特徴であるくるんくるんにカールされた赤毛はアフロに近いボリュームを持ち、半分閉じかけの瞳は眠そうな印象を与える。そばかすの散った肌は子供らしさを引き立て可愛らしい。黄ばんだ白いシャツに、濃い緑(一見黒に見える)の繋ぎのパンツをはいた何ともカントリーチックな子熊…主人公は、“白黒の城”のメインキャラクターの中でも特に平凡な顔立ちをしていた。

「おおっこの子がお前の子か!! 手紙をもらった時は何を親馬鹿な事をと思っていたが…これはまさに美の女神の化身だな!!」

見た目通りの大きな声で、シンを見て発した一言に、シンの父エモルトはドヤ顔で頷いた。

「そうだろう、そうだろう。私の息子は世界一美しいのだ!!」
「ハッハッハッ!! 普通親父がそんな事を言えば気持ち悪いだけだが、これは分からんでもない!!」
「そっちこそ、ウィキ君はお前の幼い頃にそっくりだな 」
「そうなんだよ! 髪は親父似で、顔立ちは俺似でなぁ~。コイツも悪ぃ所ばっかりテーラ家の男譲りで困ったもんだ!!」
「テーラ家は馬鹿ばかりだしなぁ!」
「いや、お前言って良い事と悪い事があるからな」
「本当の事だろうが。私がお前達兄弟のせいでどれ程迷惑を被ったか」

などと親父共がはしゃいでいる中、お互いに凝視していたシンとウィキはというと…

「…おい、お前鼻血が出てるぞ」
「ハッ!? ちがっこれはアレだよ!! さっき鼻ほじった時に深追いしちまっただけだし!!」

人が目の前で鼻血を吹いて倒れるなど日常茶飯事であるシンは、コイツもか、と頬を赤く染めて鼻血を足らすウィキに呆れていた。主人公と言っても他と同じ反応なんだなと。
しかし、鼻血を指摘した時の主人公の反応に呆気にとられる事となる。


一方ウィキはといえば、やはり美しすぎるシンに見惚れていたのは間違いない。
世の中にこんな美しい人がいるのか。自分は立ったまま眠ってしまって夢でも見ているのだろうか。と頬をつねりながら目の前にいる美の女神を凝視していた。

え? 世の中にいる人間って、熊みてぇなおっさんと、豚みてぇなおばさんと、ゴボウみてぇな姉ちゃんと、汗くせぇ兄ちゃんで構成されてんじゃねぇの?

何コイツ、やべぇんだけど。後光がさしてキラキラしてんじゃねぇか。

天使? にしちゃあ羽はねぇ…なら女神? 女神でもここまで綺麗な女神っているの? あ、美の女神か。納得。ってんな訳あるか!! ここ地上!! こんな汚ねぇ場所に女神がいるわけねぇだろ。って居るわ。目の前に居たわ。

というわけのわからない思考に囚われ、沸騰した脳ミソはウィキの許容範囲を超え、興奮と合わさった結果の鼻血であった。
しかしウィキのなけなしのプライドがそれを素直に伝える事を阻み、鼻をほじって深追いしたというもはやそちらの方がダメだろうという言葉を発してしまったのである。


「ふ…っ くくっ」

ウィキのお馬鹿な言葉に可笑しくなって噴き出してしまったシンは、クスクス笑うと呆気にとられているウィキに手を差し出した。

「オレの名はシン・ドール。よろしくな」
「っ…俺はウィキ・テーラ。よろしく…」

おずおずとシンの手をとったウィキは、シンが思ったよりもずっと力強く手を握り締めたのだった。
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