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第1章
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しおりを挟むいや、まだ大丈夫だ。アニメでもマンガでも6才でお家お取り潰し、としか描かれてはいなかった。したがって、誕生日に取り潰されるわけではない。と思いたい。
一美は一縷の望みにかけたのだ。
しかし、そうはいってももう時間は残されていない。行動しなければ、お家断然の上、一族郎党処刑の運命が待っている。
けれど自身は今、6才にも満たない幼子だ。
こんな自分が突然両親に、「もうすぐ皆処刑されるから逃げよう!」等と言ってしまえば、おかしくなったと医者を呼ばれますます何も出来なくなってしまうだろう。
一美はそれを想像すると、どうすればいいのかわからなくなってくる。
ぐちゃぐちゃになった思考で、それでも何かしなければ、優しい両親も、家人も、皆殺されてしまうのだ。
うーんうーんとベッドの上で唸っていれば、ふと目に入った手鏡に、なんとなしに手を伸ばした。
手鏡を覗き込むと、この世のものとは思えぬ絶世の美貌を持つ幼児が映る。
その憂いを帯びた表情も、侍女達が見ればまた鼻血を吹いて失神してしまうだろう。
「……これだっ」
自身の顔を見て何かを思いついたのか、今しがたよりは明るくなった表情で手鏡をサイドテーブルに戻し、ごそごそと布団を被る。
寝心地抜群の高級布団にくるまり、口の端を上げた一美ことシン・ドールは、ボソリと呟いた。「これならイケるはず」と。
夜の帳が下りる頃、侍女頭のマリーヌは主達が一日で一番楽しみにしている時間を叶える為に、足早にシンの部屋へと向かっていた。
麗しの坊っちゃんと顔を合わせる時は、50をとうに過ぎたマリーヌにとっても緊張する時間である。
マリーヌとて女性。美しいものを見れば心が高揚するのも当然だ。
そんな高揚を押し込めて、シンの部屋の扉をノックすれば、先程の混乱からか疲れて眠っているのだろう、部屋の中からは物音一つしていなかった。
もう一度ノックをして声をかけ、部屋へと入れば、やはりベッドには小さな膨らみがあり、静かな寝息が聞こえてきたのだ。
「シン様…」
驚かせないようにそっと声をかけるが、少しだけ身動いだだけですぐまた可愛らしい寝息が聞こえてきた。
微笑ましい光景ではあるが、何分主の楽しみを奪うわけにもいかず、更に麗しの坊っちゃんが夜に眠れなくなってもいけない為心を鬼にして布団をはいだマリーヌは、ハッと息をつまらせた。
シーツに散った濡れ羽色の髪、降り積もったばかりの真っ白でふわふわの雪のような肌、ほんのり赤らんだ頬…。
今まさに天使が誕生したのではないかと思えるような様に、マリーヌは叫びそうになり、両手で口を塞いだ。
赤ん坊の時から見てきてはいるが、年々…日々その美貌は増しているのだ。いくら免疫があろうと心臓に悪いのもまた事実。
深呼吸をして自身を落ち着かせると、天使と見まごうばかりの坊っちゃまを起こし始めた。
このように感情のコントロールが出来る所が、彼女が侍女頭になれた要因の一つかもしれない。
「ーー…ん…」
いつの間にか眠っていたシンは、侍女頭の声に目を覚ます。
あれ…いつの間にか寝てしまったようだ。
と呆けていたが、徐々に頭がはっきりしてきてからハッとし、今ここで先程考えていた事を行えば良いのだと突然行動に移したのだ。
「マリーヌ…」
潤んだ瞳で侍女頭の名前を呼び見上げれば、心配そうな顔で「どうされましたか? 体調でも崩されたのですか?!」と返されたシンは、首を横に振ると、涙目で語りだしたのだ。
「夢を見たのだ」と。
一美が両親に危機を伝える為に思い付いた策はこうだ。
まず、シン・ドールという人物はこの世のものとは思えない程美しい。さらに器用で頭も良い為、周りからは現在進行形で神童と呼ばれている。
それを利用し、家の取り潰しを“予知夢でみた”という事にしてしまえばいいのではないか。
神童で人間離れした美しさを持つシンならば、予知夢を見たとしても頭がおかしくなったとは思われないだろう。
何せこの世界、神の声を聞く巫女と呼ばれる者もいるのだから(別の国に)。
という考えの下行動に移したのだが、思ったよりも効果てきめんであった。
話を聞いた侍女頭が、転がるようにシンの部屋を飛び出し、侍女頭の話を聞いた両親が駆けつけたと思ったら、予知夢を何の疑いもなく信じた両親は、あれよあれよという間に屋敷を出る準備…ではなく、独立の準備を始め、あっという間に現王家に宣戦布告したのだ。
前から密かに準備していたのであろう、独立のスピードは異常に早く、さらに国の7割にも及ぶ貴族達がドール家についた事により戦況は一転した。
そこでシンは初めて気付いたのだ。
反乱軍と呼ばれる者達は、ドール家の息のかかった者達だったのだと。
そして王家側についた3割の貴族が、後々アニメではシンを苦しめて孤独に追いやった者達なのだと。
反乱軍が正規軍と呼ばれ、シンが“美の女神の生まれ変わり”だと言われるようになるまで、後数日…。
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